世界が終わる、次の日に。

佳乃

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after that

大輝 4

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 行為に誘われて断る理由は無い。
 それが例え気を紛らわせるための手段だったとしても、その手段のためにオレを選んでくれたことを悦ぶだけ。

 ゆっくりとその時間を楽しむのではなく早急に繋がりたいのか、オレの言葉を聞いた紗凪はさっさと着衣を脱ぎ去りオレを求めてくる。

「準備、しておいたから」

 そのつもりで浴室で準備していたのだろう。覆い被さろうとしたオレを制してオレに跨り、自分の中にオレの昂りを収めていく。

「そんなにしたかったの?」

 いつもとは違う様子にそんな言葉をかけてみるけれど、それに応えることなく動き始めた紗凪は、オレのことをバイブかディルドだとしか思っていないのかのように振る舞う。

 その姿は妖艶だった。

 自由に振る舞う紗凪を静止して征服したい欲望に駆られるけれど、今日の出来事を思い出し、それで忘れられるのなら好きにさせようとその姿を堪能する。

 簡単に受け入れられるように準備された後孔は仕込まれたジェルのせいなのか卑猥な水音を立て続け、オレの存在を無視したまま喘ぎ声を抑えることなく動き続ける紗凪は泣いているように見えた。

「紗凪、」

 声をかけても応えることなく、コミュニケーションを拒否するかのように自分の陰茎を扱き始める。そんな姿を見てしまうと我慢する事はできなかった。

 夢中で快楽を求める紗凪の腰を掴み、その動きを静止する。

 驚いたようにやっとオレを見た紗凪は「やだ、」と涙目で腰を掴む手を外そうとするけれど、それを許さず下から突き上げるようにその奥を暴く。
 それまで自分の快楽だけのために動いていたところに昂りを打ち付けたせいか、喘ぎ声では無い高い声を上げて白濁を吐き出した紗凪はなんとか逃れようとするけれど、それを許さず再び突き上げ、もっと奥を犯すために掴んだ腰を引き寄せる。

 刺激が強かったのか、悲鳴のような声と共に倒れ込んだ拍子に身体を反転させ主導権を掌握し、うまく動けないのをいいことに再び腰を打ちつける。
 紗凪の身体のことを考えれて時間をかけてその身体をほぐし、ゆっくりと動き快楽を引き出すようにしていたけれど、あんな姿を見せて誘惑したのだから仕方ない。
 もしかしたら貴哉にもあんな姿を見せたことがあったのかもしれないと思うとその嫉妬心を抑えることができず、いつもよりも乱暴に腰を打ちつけ続ける。
 紗凪の快楽を引き出すのではなくて、自分の快楽を満たすためだけの動き。

「だいき、」

「だいき、」

 縋るように伸ばした腕に応えず、腰を掴んだままもっと奥に、紗凪の全てを知り尽くしたくてその最奥を容赦なく暴く。

「ひっ、や、なに、これ、」

 伸ばした腕が宙を描き、背中を逸らすようにしながら怖がるような声を上げた紗凪だったけれど、悲鳴のような嬌声を上げると同時に宙を浮いていた腕がパタリと落ちた。

 それでも、そんな紗凪を見ても止めることができなかった。
 このまま動けなくなれば、このまま殺してしまえば永遠にオレだけのものにできるのではないか。

 そんな思いで腰を打ち付け続けたけれど、そんな時間は永遠に続くことなく紗凪の胎内に白濁を放ち、塗り込めるように最後の一滴まで注ぎ込む。
 満足したわけではなかったけれど、意識のない紗凪を抱き続けても満たされはしない。

 自分が誰のものなのか、誰に抱かれているのかを認識しないまま人形のような紗凪を抱き続けても虚しいだけだ。
 そんな風に自分勝手に振る舞った行為を棚にあげ自嘲する。オレのした行為は同意がなければ立派な性暴力だ。

「ごめん」

 何に対しての言葉なのかわからないまま意識を飛ばした紗凪に寄り添う。

「さっきもこんなだったっけ、」

 1日で2度もこんなシュチュエーションを作り出した自分に呆れ、「ごめん」ともう一度口にする。
 それでも同じことが起こればまた同じことを繰り返してしまうだろう。

「それでも、離したくないんだ」

 横たわる紗凪を抱きしめ、懺悔する。

「渡したくなかったんだ、あの人に。

 紗凪の家族を壊そうとしたんじゃないんだ。

 あの写真を見て何かリアクションがあればあの人の部屋にいられなくと思っただけだったのに、それなのに」

 あの写真のせいで貴哉が紗凪を縛りつけようとした訳ではなかった事は理解している。オレが紗凪への想いを隠すために吐いた嘘のせいでこんなことになったのだと理解もしている。
 すべては自分の吐いた嘘から始まったことだと分かっていても、それでもなんとかできないかと画策してしまった結果、紗凪を大きく傷付けることになってしまったのだと今更ながらに悔恨の念に駆られる。

「別れればいいと思ったけど、こんなことになるなんて、そんなこと願ってた訳じゃないんだ」

 紗凪がどこまで覚えているのかは分からないけれど、目が覚めたその時に何も言わなかったのは自分が口にしたことを忘れたせいなのか、知らないふりをしているだけなのか。
 オレが写真を送ったのだと確信したあの言葉を忘れるとは思えないけれど、それでも意識が戻った時に言及しなかったことに救いを求める。

 忘れたふりでもいい、オレから離れないのならオレも紗凪の言葉を聞かなかったふりをするだけだ。

「紗凪のことを傷つけたかった訳じゃないんだ、ただ、あの人と幸せになることが許せなかったんだ」

 言っていて情けなくなるけれど、これこそが本音だった。
 想いを告げることができず、誰かと幸せになるのを見るのが怖くて手放したくせに、紗凪の幸せを願う事はできなかった。

 紗凪のパートナーが異性であれば諦めることができただろう。
 紗凪が家庭を築けば自分も家庭を築き、その繋がりを無くすことなくずっと一緒にいることを選んだはずだ。

 やがて家族が増え、家族ぐるみの付き合いを続け、共に歳を重ねていく。
 同じ墓に入る事はできないけれど、それでも最後の時に寄り添うことができるかもしれない。
 最後の時に寄り添ってもらうことができるかもしれない。
 家庭ができ、家族が増えればその想いも変質していくかもしれないけれど、その縁が途切れる事はなかっただろう。
 そして、そんなふうに近くにいられることを願っていたはずだった。

「こんなことなら嘘なんか吐かなければよかった。

 怖がらずに想いを告げればよかった」

 今更だけど、あの時の自分の選択を後悔する。
 あの時、恐れることなく想いを告げていれば貴哉に傷付けられることなく、姉に傷付けられることなく過ごせていたはずだ。
 オレとの関係を告げることができず、家族とは疎遠になったかもしれないけれど、こんなふうに家族を捨てることも、家族に捨てられることもなかっただろう。

「でも、想いを告げてオレの前からいなくなることを考えたらできなかったんだ」

 想いを遂げることができないのならせめて近くに居続けたいと願っただけだった。
 彼女との関係を続けながら、ひとりで過ごす紗凪を心配するふりをして様子を見にいくことだってできると狡いことも考えていた。

 だけど、そんな浅はかな想いを嘲笑うかのように貴哉に奪われてしまった。

「こんなはずじゃなかったんだけどな、」

 今更後悔しても遅過ぎるけれど、それでもそんな言葉が溢れ落ちてしまう。

 もしもあの時、はじめて身体を重ねたあの時に噂通りに世界が終わっていたら後悔のないまま終わることができたのかもしれないとすら思ってしまう。

「ふふっ、」

 微かに聞こえた音に驚き、それが紗凪の笑った声だと気付き「紗凪、気が付いてたのか?」と間抜けな言葉を口にする。

「そんなに心配ならもう一回縛る?」

 何も言えないオレに対して続いた言葉に凍り付く。

「あのまま縛ったままでも良かったのに」

 クスクス笑いながら続ける言葉にその表情を確認するとその表情は明るく、面白がっているようにも見える。

「大輝、ボクのこと大好きなんでしょ?
 だったら、ボクのこと縛り付けていいんだよ?

 どこにも行かないように、

 誰にも会わないように、

 大輝から離れられないように、もっとボクを支配して」

 妖艶な笑みを浮かべながらそう言うとオレの首に腕を回し、唇を重ねてくる。
 普段はオレが主導権を握っているのに誘うように重ねた唇を開け、誘うように舌を伸ばし絡めてくる。

 縛り付けて欲しいと言いながら、支配して欲しいと言いながら、主導権を握ったのは紗凪だと自覚する。

 縛り付けられたのはオレだし、支配されたのもオレだったのだと自覚しながら、この先、紗凪を縛り付け、支配するふりをし続けて生きていくのだろう。

 だけど、それで良い。

 縛り付けながらも縛り付けて欲しいと願う紗凪と、縛り付けたいと願いながら縛り付けられたオレ。

 支配して欲しいと言いながら支配する紗凪と、支配したいと思いながらも支配されるオレはきっとお似合いなのだ。

「離れたくなったとしても許さないから」

 支配するふりをして脅迫めいた言葉を口にすれば「離れないから」と縋るふりをする。

「ボクが離れようとしたら、

 その時は、

 この世界を終わらせて」

 これはきっと、オレが離れるのなら世界を終わらせるつもりだという意思表示。

 どちらかが離れる時、その時こそがオレ達の世界が終わる時なのだろう。



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