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「でもさ、何でそんな男と付き合ったの?」
「…好きだったから?」
そう、好きだったのだ。
好きだったから付き合ったし、好きだったから手を繋いだ。
好きだったからキスもしたし、好きだったからセックスもした。
どの行動も好きだったからした行動で、どちらかが好きだと思わなくなったら一緒にいる意味など無いのだ。
「今は?」
「嫌いになれたらこんなに辛くないのにね」
本当に気持ちなんて、心なんて厄介なものだ。泣きたくないのに涙が止まらない。
「じゃあさ、話してみたら?
俺が隣にいてやるし」
直輝の申し出に驚いてしまう。
久しぶりに会った友達の痴情のもつれなんて厄介でしかないだろうに。
驚きすぎて涙も止まってしまう。
「今日久しぶりに連絡が取れたのもそのためなんじゃない?」
僕の涙と違い、いつまで経っても止まらないスマホを見ながら直輝が笑った。
相変わらず着信を無視するとメッセージ、メッセージの後には着信。
今日は僕に写真を送ってくれた彼は何をしてるんだろう?
〈帰ってきて〉
〈今どこ?〉
〈迎えに行くからどこにいるか教えて〉
どうしてこうなる前に優しい言葉をくれなかったんだろう。
着信の合間を縫ってデータフォルダから写真やスクショを呼び出し直輝に見せる。
「こっちの寝てるのが今連絡してきてる元彼。いくら好きでも、もう戻る気は無い」
「写真だけ見るとそうでもないど、文章見ちゃうとそうだね」
絶句しながらも返事を返してくれた。
僕にとっては見るのも嫌な写真だけど、第三者である直輝の目にはそこまで酷い写真には見えないようだ。
「話したくない気持ちもわかるけどさ、横にいてやるからちゃんと終わらせな」
ちょうど着信が来たタイミングでスマホを渡される。それでも戸惑っているとスマホを取られ通話ボタンを押された。ついでにスピーカーにされる。
「何で?!」
咄嗟に言ってしまうと〈静かに〉と言うかのように立てた人先指を口元に突き付けられた。
「雅?今、何処にいるの?」
通話状態になったせいで聞きたく無い声が聞こえてくる。
「もう、関係ないよね」
仕方なく答える。
別れたのだから僕が何処で何をしてようが、彼にはもう関係無い。
「それよりも残業はどうしたの?忙しいんじゃないの?」
「何処にいるの?」
話が噛み合わない。
「あのさ、今さら何?」
あんなにも僕を蔑ろにしたくせに、彼は何をしたいのだろう。僕には理解できない。
「今さらって、何言ってるの?」
電話越しの彼の声は今朝の僕に無関心な声ではないけれど、ご機嫌を伺うような媚びた声で気持ちが悪い。好きな気持ちはまだあるのだけど、僕の好きだった彼はこの人じゃない。
「メッセージ見なかった?
ポストに入れてあったでしょ?あの子に渡してあげなよ。毎晩仮眠してから帰ってくる必要も無くなるし」
「だから違うって」
「違わない。
写真、アレで全部だと思ってる?」
直輝がいてくれるせいだろうか、言いたい言葉がすらすらと出てきて自分でも驚いてしまう。
「メッセージのやり取りだってアレだけじゃないよ。まぁ、やり取りっていっても一方的に送られてきてただけなんだけど。
今日は何を食べたかまでは許せるけどさ、体位だとか何回やったとか、どんなゴム買ったとか、どんなローション買ったとか、そんなこと送られてさ。話がしたくても帰ってこない。出ていく以外に僕にどうしろって…」
自分で言っておいてまた泣けてくる。
おまけに気持ち悪くなってきた…。
「話をしようにも帰ってこない、話したいって言えば帰ってからって…。
もう、疲れたんだ」
直輝が僕の話にドン引きしながらもティッシュを渡してくれる。僕の顔はきっと見苦しい事になっているのだろう。
「ついでに言うと、写真付きだから」
僕の言葉に流石に彼も黙る。
「写真だってまだ沢山あるんだからね。なんならハメ撮りも送ろうか?」
とどめにそう言ってみたらビールを飲んでいた直輝が吹いてしまった。
「誰かいるの?」
結構派手な音が出たせいで1人じゃない事がバレてしまう。
「友達。行くとこ無いから取り敢えず泊めてもらう」
仕方なく嘘をつく。
自分の部屋は解約してませんでした、なんて素直に言う必要はない。
「新しい男なのか?」
何でそうなるのか、自分がそうだからって同じだと思われたくない。
「あのさ、同じにしないでくれる?
そもそも男が恋愛対象ってそこまで多くないからね」
「でも雅の今の話、聞いてたんだろ?」
「聞いてたよ。
僕の恋愛傾向知ってるし。でも既婚者だからね」
僕の言葉に彼は黙ってしまった。
「その彼の奥さんも雅のこと知ってるの?」
「知ってるよ。結婚式にも出たし」
そう、知ってるのだ。
知ってて僕と直輝が友達付き合いを続けるのを許してくれる寛容な奥さん。豪快と言うか何と言うか…なかなか肝の座った女性。
直輝が彼女を選んだ理由を聞いたことはないけれど、僕自身〈人間〉として彼女のことは大好きだ。男女とか関係なしに人を惹きつける人と言うのは直輝の奥さんのような人なんだろう。
舞雪と仲良くなってしまうのも何となく分かってしまうのは舞雪と僕が同じように直輝を好きだったからで、舞雪と僕は恋愛対象だけでなく〈人〉の好みも似ているのかもしれない。きっと舞雪も直輝の奥さんに惹きつけられたのだ。
「…好きだったから?」
そう、好きだったのだ。
好きだったから付き合ったし、好きだったから手を繋いだ。
好きだったからキスもしたし、好きだったからセックスもした。
どの行動も好きだったからした行動で、どちらかが好きだと思わなくなったら一緒にいる意味など無いのだ。
「今は?」
「嫌いになれたらこんなに辛くないのにね」
本当に気持ちなんて、心なんて厄介なものだ。泣きたくないのに涙が止まらない。
「じゃあさ、話してみたら?
俺が隣にいてやるし」
直輝の申し出に驚いてしまう。
久しぶりに会った友達の痴情のもつれなんて厄介でしかないだろうに。
驚きすぎて涙も止まってしまう。
「今日久しぶりに連絡が取れたのもそのためなんじゃない?」
僕の涙と違い、いつまで経っても止まらないスマホを見ながら直輝が笑った。
相変わらず着信を無視するとメッセージ、メッセージの後には着信。
今日は僕に写真を送ってくれた彼は何をしてるんだろう?
〈帰ってきて〉
〈今どこ?〉
〈迎えに行くからどこにいるか教えて〉
どうしてこうなる前に優しい言葉をくれなかったんだろう。
着信の合間を縫ってデータフォルダから写真やスクショを呼び出し直輝に見せる。
「こっちの寝てるのが今連絡してきてる元彼。いくら好きでも、もう戻る気は無い」
「写真だけ見るとそうでもないど、文章見ちゃうとそうだね」
絶句しながらも返事を返してくれた。
僕にとっては見るのも嫌な写真だけど、第三者である直輝の目にはそこまで酷い写真には見えないようだ。
「話したくない気持ちもわかるけどさ、横にいてやるからちゃんと終わらせな」
ちょうど着信が来たタイミングでスマホを渡される。それでも戸惑っているとスマホを取られ通話ボタンを押された。ついでにスピーカーにされる。
「何で?!」
咄嗟に言ってしまうと〈静かに〉と言うかのように立てた人先指を口元に突き付けられた。
「雅?今、何処にいるの?」
通話状態になったせいで聞きたく無い声が聞こえてくる。
「もう、関係ないよね」
仕方なく答える。
別れたのだから僕が何処で何をしてようが、彼にはもう関係無い。
「それよりも残業はどうしたの?忙しいんじゃないの?」
「何処にいるの?」
話が噛み合わない。
「あのさ、今さら何?」
あんなにも僕を蔑ろにしたくせに、彼は何をしたいのだろう。僕には理解できない。
「今さらって、何言ってるの?」
電話越しの彼の声は今朝の僕に無関心な声ではないけれど、ご機嫌を伺うような媚びた声で気持ちが悪い。好きな気持ちはまだあるのだけど、僕の好きだった彼はこの人じゃない。
「メッセージ見なかった?
ポストに入れてあったでしょ?あの子に渡してあげなよ。毎晩仮眠してから帰ってくる必要も無くなるし」
「だから違うって」
「違わない。
写真、アレで全部だと思ってる?」
直輝がいてくれるせいだろうか、言いたい言葉がすらすらと出てきて自分でも驚いてしまう。
「メッセージのやり取りだってアレだけじゃないよ。まぁ、やり取りっていっても一方的に送られてきてただけなんだけど。
今日は何を食べたかまでは許せるけどさ、体位だとか何回やったとか、どんなゴム買ったとか、どんなローション買ったとか、そんなこと送られてさ。話がしたくても帰ってこない。出ていく以外に僕にどうしろって…」
自分で言っておいてまた泣けてくる。
おまけに気持ち悪くなってきた…。
「話をしようにも帰ってこない、話したいって言えば帰ってからって…。
もう、疲れたんだ」
直輝が僕の話にドン引きしながらもティッシュを渡してくれる。僕の顔はきっと見苦しい事になっているのだろう。
「ついでに言うと、写真付きだから」
僕の言葉に流石に彼も黙る。
「写真だってまだ沢山あるんだからね。なんならハメ撮りも送ろうか?」
とどめにそう言ってみたらビールを飲んでいた直輝が吹いてしまった。
「誰かいるの?」
結構派手な音が出たせいで1人じゃない事がバレてしまう。
「友達。行くとこ無いから取り敢えず泊めてもらう」
仕方なく嘘をつく。
自分の部屋は解約してませんでした、なんて素直に言う必要はない。
「新しい男なのか?」
何でそうなるのか、自分がそうだからって同じだと思われたくない。
「あのさ、同じにしないでくれる?
そもそも男が恋愛対象ってそこまで多くないからね」
「でも雅の今の話、聞いてたんだろ?」
「聞いてたよ。
僕の恋愛傾向知ってるし。でも既婚者だからね」
僕の言葉に彼は黙ってしまった。
「その彼の奥さんも雅のこと知ってるの?」
「知ってるよ。結婚式にも出たし」
そう、知ってるのだ。
知ってて僕と直輝が友達付き合いを続けるのを許してくれる寛容な奥さん。豪快と言うか何と言うか…なかなか肝の座った女性。
直輝が彼女を選んだ理由を聞いたことはないけれど、僕自身〈人間〉として彼女のことは大好きだ。男女とか関係なしに人を惹きつける人と言うのは直輝の奥さんのような人なんだろう。
舞雪と仲良くなってしまうのも何となく分かってしまうのは舞雪と僕が同じように直輝を好きだったからで、舞雪と僕は恋愛対象だけでなく〈人〉の好みも似ているのかもしれない。きっと舞雪も直輝の奥さんに惹きつけられたのだ。
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