私の夢

戒月冷音

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第3話

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私は、ここにいる人達に、興味はない。
だから媚びる必要もない。けれどここにいると、男性が群がってくる。
「マチルダ様お久しぶりです。クラウスです」
「マルクス伯爵令息様。ごきげんよう」
「マチルダ様、お元気でしたか?」
「まぁ、カンツェ侯爵令息様。マリカ様に怒られますわよ」
「あいつは、マーカスが結婚してしまったから、気落ちしてるよ」
「そうなんですのね。それで令息様はどうしてここに?」
「つれないな。君に興味があってきているのに…」
「そうですか。私には興味もございませんので、勝手に見ていってください。
 しかしお相手はしませんので、そこは御理解ください」
「君は…すでに誰か居るのかい?」
「さぁ?」

そのままそこから抜け出し、自分の控室に向かう。
カンツェ侯爵子息は、女性と話す時の距離が近い。
あの間も、私の右側にピッタリと体を寄せてきていた。

少し早足で歩き、控室の扉を開け中に入る。
そして、ガチャリと鍵を締めた後、フーーーッと息を吐いた。
「気持ち悪い…」
小さな声で呟くと、奥から誰かが顔を出した。
「お嬢様?お嬢様、大丈夫ですか?」
大急ぎで持っているものをテーブルに置き、私のもとに走り寄ってくるこの人は、私の侍従であり護衛騎士でもある
「エルフィン…」
私の大切な人…

「大丈夫よ。会場の雰囲気に、酔っただけだから」
「では、紅茶を準備致します」
「お願い…」
私はそのまま、ソファに天を仰いで座る。
手のひらで目を隠し、もう一度フーーっと息を吐いた。

ワゴンに紅茶の道具一式を載せ、エルフィンが返ってくると、私は顔を上げ彼に向けて両手を伸ばす。
「体を起こされますか?」
「ん…」
エルフィンに両手を惹かれ、ゆっくりと体を起こす。
わたしの体が起き上がり、エルフィンの体に触れる瞬間、彼はサイドに有るクッションを数個私の背中に差し込み、ゆっくりと私の肩を押した。

ポスン…
「んっもぅ、もう少しだったのに…」
「何を言って、おられるのですか…」
エルフィンは立ち上がり、紅茶を入れる。
「どうぞ」
「ありがとう」
ソーサーごと渡されたカップを持ち、ゆっくりと口をつける。
コクンと揉み込むと、フワァっと香る柑橘の香りにホッとした。
「甘くなくてよかったわ」
「酔ったと言っておられたので、スッキリしたものにいたしました」
一言言っただけで、色々考えてくれる。
やっぱり彼が、一番だと思った。

ごちゃごちゃと、自分の気持ちだけを言ってくる男。
私の言う通りに動こうとして、自分の意志すら持たない男。
自分では何もせず、他人に全て任せ、利益だけ自分のものとする男。
将来を決めた相手がいるのに、他の相手にうつつを抜かし自身を滅ぼす男。
そんなのばかり相手にした来た私は、もう外の男はいらなくなっていた。


「お嬢様、そろそろ戻られませんと…」
「あら?もう、そんな時間なの?」
「はい」
この国のデビュタントは、舞踏会の最後、今年デビューしたもの全員が、王女か王子とダンスを踊り終了する。
マーカス様達のように、自分たちの都合で帰ってしまった方は無効だが、私は将来女公爵になった時のために、ご挨拶は欠かせないのだ。
「どうぞ」
差し出してくる手を取り、立ち上がるとドレスの後ろをチェックして出口に向かう。

エルフィンが扉を開け、礼を取ると
「行ってきます」
と言って外に出た。
あー…また少しの間、あの顔が見れないと思うと顔から表情が抜ける。

コツン、コツン…

誰も居ない廊下を進むと、人影が見えてくる。
「やっぱり、控えに居たね」
「お待たせしてしまったかしら?」
「いや。今、踊ってる女性が離れなくて、兄が困ってる」
「では、お助けしなければ…」
「頼めるかな?」
「元から、その予定でしたでしょ」
そう言うとリーベル殿下は、私をエスコートし、ランドクリフ第一王子殿下が踊っているホールの真ん中に、連れて行く。
そしてそのまま、二人でダンスを始めた。

ゆっくりと流れる音楽に乗り、ランドクリフ様に近づくと相手の女性に
「それ以上、ご迷惑をかけるおつもり?」
と声を掛ける。
男性ではなく、女性の声だったため、邪魔をするなっ!…と牽制したはずだった女性は、私を見て震え始めた。
「やっと、聞いてくれたみたいだ。じゃあ交代だね」
リーベル殿下の言葉に頷いたランドクリフ殿下は、相手の女性をターンさせるタイミングで私に手を伸ばす。
私はその手を取り、彼女はリーベル殿下に引き取られた。

「ありがとう。助かったよ」
「御力になれて、よかったですわ。あの方はいつから?」
「曲が変わってすぐ。
 大体半分くらいで代わってたんだけど、手を離してくれなくてね」
「よっぽど、ランドクリフ殿下をお慕いしていたのですね」
「けど、こういう場所ではやめてほしいね」
「あら?では、他ではよろしいのでしょうか?」
「よくない」
「言葉にはお気おつけください。
 あまり優しい言葉を掛けておられると、勘違いするものが増えますわ。
 先程の方のように…」
「気をつけるよ」
「では、私はこれで…」

丁度曲が終わるタイミングだったので、ランドクリフ殿下から手を離し、カーテシーを披露して終了する。
そこで、本日のデビュタントが全て終わった。
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