3 / 17
第3話
しおりを挟む
私は、ここにいる人達に、興味はない。
だから媚びる必要もない。けれどここにいると、男性が群がってくる。
「マチルダ様お久しぶりです。クラウスです」
「マルクス伯爵令息様。ごきげんよう」
「マチルダ様、お元気でしたか?」
「まぁ、カンツェ侯爵令息様。マリカ様に怒られますわよ」
「あいつは、マーカスが結婚してしまったから、気落ちしてるよ」
「そうなんですのね。それで令息様はどうしてここに?」
「つれないな。君に興味があってきているのに…」
「そうですか。私には興味もございませんので、勝手に見ていってください。
しかしお相手はしませんので、そこは御理解ください」
「君は…すでに誰か居るのかい?」
「さぁ?」
そのままそこから抜け出し、自分の控室に向かう。
カンツェ侯爵子息は、女性と話す時の距離が近い。
あの間も、私の右側にピッタリと体を寄せてきていた。
少し早足で歩き、控室の扉を開け中に入る。
そして、ガチャリと鍵を締めた後、フーーーッと息を吐いた。
「気持ち悪い…」
小さな声で呟くと、奥から誰かが顔を出した。
「お嬢様?お嬢様、大丈夫ですか?」
大急ぎで持っているものをテーブルに置き、私のもとに走り寄ってくるこの人は、私の侍従であり護衛騎士でもある
「エルフィン…」
私の大切な人…
「大丈夫よ。会場の雰囲気に、酔っただけだから」
「では、紅茶を準備致します」
「お願い…」
私はそのまま、ソファに天を仰いで座る。
手のひらで目を隠し、もう一度フーーっと息を吐いた。
ワゴンに紅茶の道具一式を載せ、エルフィンが返ってくると、私は顔を上げ彼に向けて両手を伸ばす。
「体を起こされますか?」
「ん…」
エルフィンに両手を惹かれ、ゆっくりと体を起こす。
わたしの体が起き上がり、エルフィンの体に触れる瞬間、彼はサイドに有るクッションを数個私の背中に差し込み、ゆっくりと私の肩を押した。
ポスン…
「んっもぅ、もう少しだったのに…」
「何を言って、おられるのですか…」
エルフィンは立ち上がり、紅茶を入れる。
「どうぞ」
「ありがとう」
ソーサーごと渡されたカップを持ち、ゆっくりと口をつける。
コクンと揉み込むと、フワァっと香る柑橘の香りにホッとした。
「甘くなくてよかったわ」
「酔ったと言っておられたので、スッキリしたものにいたしました」
一言言っただけで、色々考えてくれる。
やっぱり彼が、一番だと思った。
ごちゃごちゃと、自分の気持ちだけを言ってくる男。
私の言う通りに動こうとして、自分の意志すら持たない男。
自分では何もせず、他人に全て任せ、利益だけ自分のものとする男。
将来を決めた相手がいるのに、他の相手にうつつを抜かし自身を滅ぼす男。
そんなのばかり相手にした来た私は、もう外の男はいらなくなっていた。
「お嬢様、そろそろ戻られませんと…」
「あら?もう、そんな時間なの?」
「はい」
この国のデビュタントは、舞踏会の最後、今年デビューしたもの全員が、王女か王子とダンスを踊り終了する。
マーカス様達のように、自分たちの都合で帰ってしまった方は無効だが、私は将来女公爵になった時のために、ご挨拶は欠かせないのだ。
「どうぞ」
差し出してくる手を取り、立ち上がるとドレスの後ろをチェックして出口に向かう。
エルフィンが扉を開け、礼を取ると
「行ってきます」
と言って外に出た。
あー…また少しの間、あの顔が見れないと思うと顔から表情が抜ける。
コツン、コツン…
誰も居ない廊下を進むと、人影が見えてくる。
「やっぱり、控えに居たね」
「お待たせしてしまったかしら?」
「いや。今、踊ってる女性が離れなくて、兄が困ってる」
「では、お助けしなければ…」
「頼めるかな?」
「元から、その予定でしたでしょ」
そう言うとリーベル殿下は、私をエスコートし、ランドクリフ第一王子殿下が踊っているホールの真ん中に、連れて行く。
そしてそのまま、二人でダンスを始めた。
ゆっくりと流れる音楽に乗り、ランドクリフ様に近づくと相手の女性に
「それ以上、ご迷惑をかけるおつもり?」
と声を掛ける。
男性ではなく、女性の声だったため、邪魔をするなっ!…と牽制したはずだった女性は、私を見て震え始めた。
「やっと、聞いてくれたみたいだ。じゃあ交代だね」
リーベル殿下の言葉に頷いたランドクリフ殿下は、相手の女性をターンさせるタイミングで私に手を伸ばす。
私はその手を取り、彼女はリーベル殿下に引き取られた。
「ありがとう。助かったよ」
「御力になれて、よかったですわ。あの方はいつから?」
「曲が変わってすぐ。
大体半分くらいで代わってたんだけど、手を離してくれなくてね」
「よっぽど、ランドクリフ殿下をお慕いしていたのですね」
「けど、こういう場所ではやめてほしいね」
「あら?では、他ではよろしいのでしょうか?」
「よくない」
「言葉にはお気おつけください。
あまり優しい言葉を掛けておられると、勘違いするものが増えますわ。
先程の方のように…」
「気をつけるよ」
「では、私はこれで…」
丁度曲が終わるタイミングだったので、ランドクリフ殿下から手を離し、カーテシーを披露して終了する。
そこで、本日のデビュタントが全て終わった。
だから媚びる必要もない。けれどここにいると、男性が群がってくる。
「マチルダ様お久しぶりです。クラウスです」
「マルクス伯爵令息様。ごきげんよう」
「マチルダ様、お元気でしたか?」
「まぁ、カンツェ侯爵令息様。マリカ様に怒られますわよ」
「あいつは、マーカスが結婚してしまったから、気落ちしてるよ」
「そうなんですのね。それで令息様はどうしてここに?」
「つれないな。君に興味があってきているのに…」
「そうですか。私には興味もございませんので、勝手に見ていってください。
しかしお相手はしませんので、そこは御理解ください」
「君は…すでに誰か居るのかい?」
「さぁ?」
そのままそこから抜け出し、自分の控室に向かう。
カンツェ侯爵子息は、女性と話す時の距離が近い。
あの間も、私の右側にピッタリと体を寄せてきていた。
少し早足で歩き、控室の扉を開け中に入る。
そして、ガチャリと鍵を締めた後、フーーーッと息を吐いた。
「気持ち悪い…」
小さな声で呟くと、奥から誰かが顔を出した。
「お嬢様?お嬢様、大丈夫ですか?」
大急ぎで持っているものをテーブルに置き、私のもとに走り寄ってくるこの人は、私の侍従であり護衛騎士でもある
「エルフィン…」
私の大切な人…
「大丈夫よ。会場の雰囲気に、酔っただけだから」
「では、紅茶を準備致します」
「お願い…」
私はそのまま、ソファに天を仰いで座る。
手のひらで目を隠し、もう一度フーーっと息を吐いた。
ワゴンに紅茶の道具一式を載せ、エルフィンが返ってくると、私は顔を上げ彼に向けて両手を伸ばす。
「体を起こされますか?」
「ん…」
エルフィンに両手を惹かれ、ゆっくりと体を起こす。
わたしの体が起き上がり、エルフィンの体に触れる瞬間、彼はサイドに有るクッションを数個私の背中に差し込み、ゆっくりと私の肩を押した。
ポスン…
「んっもぅ、もう少しだったのに…」
「何を言って、おられるのですか…」
エルフィンは立ち上がり、紅茶を入れる。
「どうぞ」
「ありがとう」
ソーサーごと渡されたカップを持ち、ゆっくりと口をつける。
コクンと揉み込むと、フワァっと香る柑橘の香りにホッとした。
「甘くなくてよかったわ」
「酔ったと言っておられたので、スッキリしたものにいたしました」
一言言っただけで、色々考えてくれる。
やっぱり彼が、一番だと思った。
ごちゃごちゃと、自分の気持ちだけを言ってくる男。
私の言う通りに動こうとして、自分の意志すら持たない男。
自分では何もせず、他人に全て任せ、利益だけ自分のものとする男。
将来を決めた相手がいるのに、他の相手にうつつを抜かし自身を滅ぼす男。
そんなのばかり相手にした来た私は、もう外の男はいらなくなっていた。
「お嬢様、そろそろ戻られませんと…」
「あら?もう、そんな時間なの?」
「はい」
この国のデビュタントは、舞踏会の最後、今年デビューしたもの全員が、王女か王子とダンスを踊り終了する。
マーカス様達のように、自分たちの都合で帰ってしまった方は無効だが、私は将来女公爵になった時のために、ご挨拶は欠かせないのだ。
「どうぞ」
差し出してくる手を取り、立ち上がるとドレスの後ろをチェックして出口に向かう。
エルフィンが扉を開け、礼を取ると
「行ってきます」
と言って外に出た。
あー…また少しの間、あの顔が見れないと思うと顔から表情が抜ける。
コツン、コツン…
誰も居ない廊下を進むと、人影が見えてくる。
「やっぱり、控えに居たね」
「お待たせしてしまったかしら?」
「いや。今、踊ってる女性が離れなくて、兄が困ってる」
「では、お助けしなければ…」
「頼めるかな?」
「元から、その予定でしたでしょ」
そう言うとリーベル殿下は、私をエスコートし、ランドクリフ第一王子殿下が踊っているホールの真ん中に、連れて行く。
そしてそのまま、二人でダンスを始めた。
ゆっくりと流れる音楽に乗り、ランドクリフ様に近づくと相手の女性に
「それ以上、ご迷惑をかけるおつもり?」
と声を掛ける。
男性ではなく、女性の声だったため、邪魔をするなっ!…と牽制したはずだった女性は、私を見て震え始めた。
「やっと、聞いてくれたみたいだ。じゃあ交代だね」
リーベル殿下の言葉に頷いたランドクリフ殿下は、相手の女性をターンさせるタイミングで私に手を伸ばす。
私はその手を取り、彼女はリーベル殿下に引き取られた。
「ありがとう。助かったよ」
「御力になれて、よかったですわ。あの方はいつから?」
「曲が変わってすぐ。
大体半分くらいで代わってたんだけど、手を離してくれなくてね」
「よっぽど、ランドクリフ殿下をお慕いしていたのですね」
「けど、こういう場所ではやめてほしいね」
「あら?では、他ではよろしいのでしょうか?」
「よくない」
「言葉にはお気おつけください。
あまり優しい言葉を掛けておられると、勘違いするものが増えますわ。
先程の方のように…」
「気をつけるよ」
「では、私はこれで…」
丁度曲が終わるタイミングだったので、ランドクリフ殿下から手を離し、カーテシーを披露して終了する。
そこで、本日のデビュタントが全て終わった。
22
あなたにおすすめの小説
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
それは確かに真実の愛
宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。
そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。
そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。
そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
たのしい わたしの おそうしき
syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。
彩りあざやかな花をたくさん。
髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。
きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。
辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。
けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。
だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。
沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。
ーーーーーーーーーーーー
物語が始まらなかった物語。
ざまぁもハッピーエンドも無いです。
唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*)
こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄)
19日13時に最終話です。
ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。
音爽(ネソウ)
恋愛
伯爵令嬢と平民娘の純粋だった友情は次第に歪み始めて……
大ぼら吹きの男と虚言癖がひどい女の末路
(よくある話です)
*久しぶりにHOTランキグに入りました。読んでくださった皆様ありがとうございます。
メガホン応援に感謝です。
【完】真実の愛
酒酔拳
恋愛
シャーロットは、3歳のときに、父親を亡くす。父親は優秀な騎士団長。父親を亡くしたシャーロットは、母と家を守るために、自ら騎士団へと入隊する。彼女は強い意志と人並外れた反射神経と素早さを持っている。
シャーロットは、幼き時からの婚約者がいた。昔からのシャーロットの幼馴染。しかし、婚約者のアルフレッドは、シャーロットのような強い女性を好まなかった。王宮にやってきた歌劇団のアーニャの虜になってしまい、シャーロットは婚約を破棄される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる