私の夢

戒月冷音

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第5話

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エルフィン side


俺はあの時、マチルダ様の声を聞いた。
切なそうに俺の名を呼ぶ声に、俺は自分を抑えられなくなりそうだった。


俺がリークリフ公爵に仕えたのは、父が公爵の護衛騎士だったからだ。
父は騎士ではあったが平民の出で、俺も最初は平民扱いだった。

「お館様。俺の息子です」
そう言ってお屋敷に連れて行かれたのは、5歳になるかならないかの時期だった。
「おぉ、お前とあの聡明な奥方の子か。どっちに似ても有能になりそうだ」
「どうやら妻に似ているので、俺より有能です」
「そうか。それなら、アルバートに預けてみるか?」
「家令殿に?」
「侍従として、育てるんだ」
「それなら、お願いしたいです」
そうして俺はアルバート様の指導のもと、侍従としての知識を付けていった。

侍従見習いとして数年後、俺は初めて、お嬢様に会う。
「奥様、お嬢様。ご挨拶させて頂きます」
「あら、アルバート。どうしたの?」
「はい。私この度、家令から執事長への昇格しなりました。そして…」
アルバート様からの合図を受け
「この度、侍従となりましたエルフィンと申します」
自分で挨拶をした。
「不束な点も御座いますでしょうが、宜しくお願い致します」
俺も頭を下げた。
「まあまあ、2人揃って昇進なのね。おめでとう。
 あぁ、そうだわ。マチルダ、ご挨拶しましょうか」
「?」
「初めて会う方には、ご挨拶するのが決まりよ」
「あい。はじめまちて、マチリュダと、もうちましゅ」
初めて会ったマチルダ様は、そう言って覚えたてのような可愛いカーテシーを、披露してくださった。
まじで…いや、本当にそこで、俺は落ちた。

それから会うたび、何故か
「エウヒンっ!」
と舌っ足らずで俺の名を叫び、走ってくるようになった。
「お嬢様、危ないですっ!?」
この時も走って躓き、もう少しで顔から落ちそうな所を、俺がキャッチした状態だ。

「ふぅ~…」
「「お嬢様っ!!」」
焦った侍女2人が、慌てている。
「お怪我はございませんか?」
「あい。にゃいです」
そう言いながら、ドレスを治すマチルダ様に、皆メロメロになった。
その後俺は奥様に呼ばれ、マチルダ様が気に入っているという理由から、専属侍従になってほしいと言われた。
何故、侍女ではなく侍従かと聞けば、このまま行くとマチルダ様は女公爵になる。
そのための、侍従だと言われた。
公爵位を継いだ時、執務が滞ることなく行えるよう、お嬢様も準備しておくのだそうだ。

それから俺は、何があってもお嬢様を守れるよう、父の騎士団の訓練に時間がある時に参加させてもらい、自分を鍛えた。
その後、お館様にお嬢様の護衛騎士としての認定をしてもらって、今に至る。

だから俺は、自分の欲よりもお嬢様の役に立つこと、お嬢様の盾になることを、一番に考えやってきた。
なのに…
扉を開けたその先で、淫らに自慰行為にふけるお滋養様を見た瞬間、自分の中の何かが崩れそうで…
俺はその時、必死に堪えるしかなかった。



____________


次の日、私はほとんど眠れずに目を覚ました。
「おはよう…」
「おはようございます。マチルダ様」
「どうされたのですか?眠れませんでしたか?」
挨拶をすると、幼い頃からついていてくれる侍女の2人が、私の顔色を見て心配している。
「大丈夫よ。ちょっと気になることがあったから、悩んでたら
 時間が遅くなっただけ」
「無理はいけませんよ?」
「それだけはしていないわ」
「それでしたら良いのですが」
そんな話をしながら寝着からドレスに着替える。

この時、いつもコルセットを付けるのだが、今日はいつもより強めにしようと
「もっと締めて」
と言った時、
「マチルダ様、おはようございます」
と、扉の外からエルフィンの声が聞こえた。
「ん゛っ…ちょっと、待って…」
コルセットを締め上げたタイミングと、声を出すタイミングが重なって変な声が出た。
「エルフィン様、少し待っていただけますか?
 今、コルセットを締めているところなんです」
「あぁ、すみません。ではもう少ししてから、また来ます」
そう言って返っていく足音が聞こえた。
昨日の今日で、着替えの時なんて…
タイミングが悪すぎる。

準備が終わり、最後の確認をしていると
「ご準備できましたでしょうか?」
とエルフィンがもう一度、確認した。
「大丈夫よ。入って」
その言葉の後、扉を開けて入ってきたエルフィンは、何時もより少しだけ視線をずらしていた。
「今日の予定かしら?」
「はい…」
そうして冷静を装い、私達はいつも通りに仕事をしていく。


そして数年後、私が公爵位を継ぐことが確定した。
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