この生の理

戒月冷音

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第292話

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「チャールズ・クランベル。こちらに来てもらおうか。
 その回りにいる奴らも、全員来い」
騎士団長の、ひっくい声が会場中に響く。

呼ばれた者達は大急ぎで観客席から闘技場に降り、ミカエル騎士団長の前に整列した。
「さっきそんな事と言ったのは、お前だな。クランベル」
クランベル・・・あの男の息子か。
「はい。言いました」
「命を懸ける誓いをしたことが、そんな事か?」
「いえ、それは・・・ただ、そこまでする必要が、あるのかと・・・」

すると、騎士団長は少し考えてから
「お前は行ったことがないのか?」
と、聞いた。
「どこにですか?」
「辺境にだ」
「ありません」
俺は、すっぱりと当たり前のように答えたこの男に、イラっとした。
「ないのに、言うことは言うのか?」
「ですがここでは、そんなことしないですよね」
「確かにしない。
 だが・・・お前達の中に、さっきの俺と、彼の手合わせに
 手を出せるものがいるか?」
「それに、何の関係があるのですか?
 騎士団長と、こちらの方が戦えるのは、代表だからですよね」

代表だから、強くて当たり前・・・そう言う考えか。
そう思った俺は、ブチキレ寸前・・・

すると突然、どこからか
「貴方、何をなまっちょろい考えをしていらっしゃるのかしら?」
とご令嬢の声が響いた。
「エリシア、お前はまた、そんなかっこを・・・」
観客席入り口から、人混みを掻き分けて出てきた令嬢に、騎士団長が声をかけた。
「ミカエル騎士団長、こちらは?」
「ジョージ殿失礼した。俺の娘で、エリシアと言う。
 今年16になるのだが、どうも男勝りに育ってしまってな。
 こんな格好で、出歩くのが好きな子だ」
ミカエル騎士団長は、恥ずかしそうにはしているものの、彼女のしていることを容認している。
今、目の前にいるエリシア嬢は、騎士が着るようなYシャツと、隊服に似せた上着を着て、ズボンを穿いている。
足元は編み上げのブーツを穿き、ヒールが少しあるが、俺とほぼ同じぐらいだ。


「すみません、エリシア様。
 なまっちょろいとは、どう言うことでしょうか?」
やっぱり、父親似にているのか空気の読めないクランベルの息子が、エリシア様に食って掛かる。
「貴方、まだ分からないの?」
「何がでしょうか」
「命を懸けた者と、そうでない者の違いをよ」
「俺達だって、命を懸けております」
「貴方のは、懸けてる振りをしているだけよ」
「なっ!?言って良いことの判断も、付かないのですか、貴方は」
「本当の事を言っただけですわ」
「俺が、命を懸けていないと?」

「では聞くけど、貴方はどこの現場で命を懸けたのかしら?」
エリシア様にそう言われたクランベルは、言葉につまる。
「貴方が行ったことがあるのは、町の警備のみ。
 森の討伐には、一度も出ていない。その後ろにいる人達も、同じですわ。
 そんな人達が、日々魔獣と戦っていらっしゃる、辺境の方々を貶すなんて・・・」
そう言ったエリシア様に、あろうことかクランベルは、自分の下げている剣を抜き、襲いかかった。
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