私の存在

戒月冷音

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第156話

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「何これっ!?フレンチトーストは甘いのに、中は塩気があって・・・
 あましょっぱいって、言えば良いのかしら?
 でもなんだか、病み付きになるわ。
 これをもう1つ、いただけるかしら?」
お姉様はそう言って、3個目を食べ始める。
お姉様は割りと、大食いなのだ。
私達女性はこういう時も、少しゆったりはしているが、コルセットをつけている。
食べるのに、何故?
と思うのは当然なのだが、私達はドレスを着るときはコルセットを着けるのが、当然なのだ。

「ミシェル」
「お兄様、何かありました?」
「この・・・角煮、マン?だったか。これはいつでも作れるのか?」
「申し訳ございません。お肉の方に、2日はかかります」
「2日?」
「はい。固まり肉を焼き、お水から茹でた後、味をつけて数時間煮て、
 今回の物は、一晩寝かせてあります」
「寝かせる・・・」
「味が染み込むのは、冷めるときだったと記憶しています。
 時間をかけて、ゆっくりと冷ましていく過程で、その間も
 加熱と浸透の時間になりますので・・・」
「そうなのか。それは、手がかかるな」
ちょっとしょんぼりめに言うお兄様を見て、私はピンと来た。

「お兄様。もしかして、毎日の朝食にしたい・・・とかいう事ででしょうか?」
「えっあっいや。でも、そこまで手がかかるのなら・・・」
「オーギュスト家の料理人なら、作ってくださると思いますよ。
 逆に、その日の気分で言ってらしたお兄様が、そう言われると
 張り切るような気がします」
「そ、そうか?」
「ですが、このレシピは王宮の料理人にしか教えていません。
 ですので・・・」
「あぁ、急ぎはしない。
 ミシェルが急がしいなか、教えに来るようなことはしなくて良いからな」
「でも・・・」
そんなことを話していると、デザートを出すタイミングを見ていた料理人の一人が、私の傍にやってきて
「ミシェル様。料理長に頼めば、指導出来る者をオーギュスト家に、
 派遣してくださるのではないでしょうか」
と教えてくれた。

「あっ、そうか。
 ここから派遣してもらって、うちの料理人が覚えれば良いんだ」
私の隣で聞いていたお兄様が声をあげると、お姉様が顔を上げて
「ではこの、フレンチトーストのサンドイッチの作り方を、
 コーエン侯爵家の料理人に教えることも、可能なの?」
と料理人に聞いた。
「多分出来るとは思いますが・・・ちょっと、確認してきますね」
そう言って厨房の方に走っていく。
「ハリーは、フレンチトーストか」
「お兄様は、角煮マンですのね」
そう言いながらお兄様とお姉様は、フフフッとそっくりな顔をして笑った。
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