私の存在

戒月冷音

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第21話

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「も、申し訳ございません」
私はすぐに頭を下げた。
「ミシェル様?」
「あ、あの。
 お兄様と話すような感覚で話してしまい、申し訳ございません」
「いいえ。そのままで大丈夫ですよ。
 俺、アクイラス以外で普通に話してくれる人は居ないから、
 そのままにしてくれると嬉しい…です」
マルクス様は少し照れながら、そう言ってくださった。

その後私達は、兄妹のように話した。
内容は母の事であったり、兄のことであったり…私の家族のことを知りたがるマルクス様に違和感を持ち、少し聞いてみることにした。
「あの…側妃様の事を、伺ってもいいですか?」
「う、うん。でも、あまりわからないかも…」
「お母様ですよね?あっ、すみません。聞き方が…」
「大丈夫。確かに母上だけど、ほとんど会えないんだ」
「どうして…」

「何でかははっきり教えてくれないのだけれど、王妃様が
 伝染るといけないっていうんだ」
「王妃様が?側妃様は、感染症にかかっておいでなのですか?」
「それはないと思う。
 メイド達は出入りしているし、マスクとかしてな…あっ、マスクはないか」

ん?マスク?

「でも、人が出入りしてるから、映らないと思うよ」
「では何故、王妃様はそのような事を?」
「理解らない。ただあの人、たまに嘘つくんだ。ただし相手は俺だけ」
「何故、嘘だと分かるのですか?」
「父上の前だと笑って、兄上の前だとニヤけ顔で、母上の前では見下して…かな。
 それ以外の人の前では、全て俺がやった事を逆に話す」
「逆とは?」
「うーん…
 例えば、俺が重たそうな荷物を持っている、メイドの手伝いをした…
 という事実がある。
 すると、どういうことか噂では、俺がメイドに重い荷物を押し付けていた。
 もしくは運ばせていた…という話になるんだ」
「それを、王妃様が?」
「そ、当事者のメイドに確認したら、そう返ってきたよ。
 どこで見ていたのか…双が…じゃないオペラグラスを使って除いてそうだ」

さっきからなにか。聞いたことのあることばをマルクス様が使っているような…

「あの、一つ確認して良い?」
「良いよ」
「さっき、双眼鏡って言おうとしなかった?」
「えっ!?」
「後、少し前にはマスクって…
 この世界には、マスクも双眼鏡もありませんよね?」
「はぁっ!?ち、ちょっと待って、もしかして君…」
「マルクス様も、同じですか?私と」
「私と…って、前世、同じ?」
「私は、地球という惑星の、日本に居ました」
「お、俺もだ。年は?」
「年齢?西暦?」
「両方」
「年は15まで、西暦は2010年」
「15まで?」
「死んだの。事故でね」
「悪い…」
「良いの。もう終わったから。それで、マルクス様は?」
「俺は53で病死。えーと、最後の年は…2000年だったかな?」
「かなって、覚えてない?」
「癌だったからね。最後の方は、耳だけ聞こえてる感じかな」
「そうだったのね」
「しかし珍しいな。
 2000年に地球で死んだ俺が、2010年に亡くなった君とここで話すなんて」
「そうですね」

それから私達は、前世の話を少しだけした。
誰かに聞かれていれば、大変なことになるからだ。
その後、マルクス様が気になったお店や、噂のお菓子などの話をしていると、お母様とお兄様が返ってきた。
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