私の存在

戒月冷音

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第66話

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「…そうだったんだ。
 兄上…無茶をしないでくださいと、言ったのに…」
「無茶では、ないようでした」
「本当に?」
「はい。王妃様を、見事にコントロールされておられましたよ」
「フハハ。兄上らしいな」
「私とお父様は、初めて見ましたから、びっくりしましたけど…
 この前のヘンドリック様より、怖かったです」
「そうだったのか。
 兄上は何時も、俺を助けてくださるから、いつか何かでお返しせねばと
 思ってはいるのだが」
「そうですね。いつか2人でお返ししましょう」
「2人で?」
「はい。ヘンドリック様も知らない、世界のもので」
「あぁ、そうだな。その手があったな」

マルクス様と私は、久しぶりに懐かしい話をたくさんした。
そしてその話の後で、今回のことにも触れた。
マルクス様は、突然の婚姻の申込みにどうすることも出来ず、何とか断ることが出来ないか、と思案していたそうだ。
「私とのお話を、無かったことには…」
「それを、一番したくなかった」
「どうして?」
「俺は…君に出逢えたことは、奇跡だと思っている。
 だから君を絶対に手放したくない」

絶対に…
そう言ってもらえて、嬉しかった。
だけど私は、ただ前世が同じ日本人というだけ。
隣国の王女様のように、元から王女というわけでもなく、ただの公爵令嬢次女だ。
だから私を優先する必要はない。

「ですが、王女様のほうがマルクス様を気に入ることも、あるのでは…」
「俺と王女は対等です。
 まぁ、俺は側室の子なので、少し劣るかもしれませんが…
 もしそうなったとしても俺は、貴方を諦めることはしない。
 俺は、貴方が良いんです」
「でも…」

こういう時、私は何故か、前世に引っ張られてしまう。
誰からも相手にされない、可愛そうな子。
そんな子を、誰も相手にしない。
そして、姉に好き勝手使われ、命を落とした次女…
そこに戻ってしまうのだ。

私はそれ以上、何もいえなかった。
マルクス様は優しいから、そう言ってくださるのかもしれない。
けれど、王女様から言われれば、変わってしまうかもしれない。
昔の…前世で、気になった同級生のように。
わたしを好きだと言っていた同級生は、たまたま一緒に帰る事になった日に姉が現れ、少し話しただけでその同級生は姉に落ちた。
次の日には、姉を絶賛し私を姉より劣るものとして。貶したのだ。
だからもし、王女様が姉と同じような人なら、私はどうしようもない。
私は、ただの公爵令嬢なのだから…

下を向き、無意識にドレスを握り締めていた私の手に、自分の手を重ねるマルクス様は私の状態を見て
「もしかして、ミシェル嬢。
 貴女が心配しているのは、俺の心変わり…ですか?」
「えっ!?」
「君の家族は絶対、心変わりなんかしないだろうし、
 君の知り合いの中にも居ない。となると、前世か」
その言葉に、体がビクッと反応した。
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