私の存在

第76話

「これが、こちらの材料で作ったプリンになります」
そう言って、マルクス様と国王様の前で、お皿の上にひっくり返して、プチンと落とす作業をしてお出しした。
「これが…プリン？」

マルクス様には、違和感があると思う。私もこれが、ブリン？と思ったから。
でも食べれば、プリンだと思うのだ。
国王様は、初めて見るぷるんぷるんの物に、驚いている。
スプーンでチョンっと触ると、プルンッと揺れる食べ物はこの世界にはない。
だから国王様は、お皿を持ちプルンプルンと揺らしていた。

「こ、これが食べ物なのか？」
「はい。材料は卵と乳、それと糖になります」
「たったそれだけの材料で、これが出来るのかっ!?」
「はい。卵と乳の配合で、硬さが変わりますのですが…
　今日のは、私が一番好きな硬さです」
私がそう言うと、マルクス様は迷いもなくそれを口にする。

「ま、マルクス!?」
「プリンだ…本当にプリンだ」
「食べると、そうですよね」
「あぁ…」
そう言うと、パクパクと食べてしまう。
「なくなってしまった…」
すごく残念な顔をして、空っぽになったお皿を眺めているマルクス様。
「これも、食べるか？」
「それは、父上がお食べください。
　俺が前世で幼い頃、大好きだった甘味です。美味しいですよ」
そう言ってマルクス様は、ニッコリと笑う。

私はそっと、私の前にあるプリンを、マルクス様に差し出した。
「いいの？」
「はい、私は試食の時に、硬さを調整するために、
　10個以上食べましたので」
「じゃあ、いただきます」

パクっ…

「やっぱり美味しい。父上、食べてみてください。
　甘すぎませんし」
「そうか」
そう言うと、パクっと国王様が食べた。
「う、うまい」
「でしょう」
この親子は、そっくりだ。
バクバクとプリンを食べながら、あれに似てる。
いや、こっちに似てると言いながら、笑って食べている。
そして食べ終わると、先程のマルクス様のように、しょんぼりするのだ。

「マルクス様の反応から、元のプリンとは、見た目が違うと
　分かっていただけたと…」
「あぁ、確かに違う。まずは見た目。
　俺の知っているのは、黄色にこげ茶のプリンだ」
「黄色？焦げ茶？2色だったのか？」
「はい。2色でこの味を作っていた」
「この味を？」
「だから、違和感はすごい」
「そうか、そう言う事か。
　ミシェル嬢は、それを俺に、おしえたという事か」
「はい。材料が違えば、見た目も味も変わる。
　同じ味を求めれば、見た目を捨てるしか無い。
　そういうものにすべて折り合いをつけたものを、
　皆様にお出ししておりました」

そう言って、次々にミシェル嬢が出してきたお菓子は、国王様も知らないものばかりで、マルクス様と私が懐かしいと話すのを見て、納得するのだった。