私の存在

戒月冷音

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第89話

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手紙を見て動かなくなった王妃様を放置して、ヘンドリック様とマルクス様は、私を回収してその場から撤退した。

マルクス様にお姫様抱っこされた私は、すれ違う人たちの目が気になり
「ま、マルクス様、おろしてください」
とお願いした。
しかし
「駄目。まだ、薬が抜けてない」
と即座に却下され、私の部屋まで運ばれることになった。

「マルクス。父上には俺が伝える。お前は」
「ミシェルを、休ませます」
ヘンドリック様はうんっと頷き、そのまま国王様の執務室へと向かった。
マルクス様は私を抱っこしたまま、私がお借りした部屋に入ると私をベットに座らせ、部屋の中をチェックし始めた。

「ここから、入ってきたの?」
「…はい。私が入口を、気にしている間に…」
「アイツラ、絶対許さねぇ」
「あ、あの、警戒しなかった私も、悪いのですから、影の方は…」
「勘弁してやれって?」
「だ、駄目ですか?」
「駄目。父上にも伝わるから、王妃様を手伝ったものは外されて、
 訓練場に戻される」
「それは、どうして?」
「影は、王族を守る者。その者達が守らなくなったら、王族は居なくなる。
 ミシェルが、俺の婚約者だと発表したから、知っているはずなのに、
 誘拐したということは、王族になる人をさらったと言うことになる。
 それは王家に、手を上げたと同意になるため、罰が下る。
 これは、規則だ」

規則…そう言われてしまえば、私は何も言えない。
あの人達は、規則に従い、王妃様の希望を叶えた。
しかし、相手が王族になる人だったため、本来なら守らなければいけない相手。
それを無視し、王妃様の前にさらってきたから、厳罰を受けることになったようだ。


私がぼーっとしていると、部屋の中をチェックしたマルクス様が、私の横に返ってくる。
「全部確認したから、大丈夫だと思うけど…」
マルクス様の言葉を聞いていた私は
「俺は一旦、部屋に戻るよ」
と聞いた途端、怖くなった。

また、何かあったら?
次は別の誰かが、来たり?
そう考えてしまったら、止まらない。

怖い、こわい、こわ…

その思いに引っ張られた私は、立ち上がったマルクス様の服の裾をきゅっと握った。
「ミシェル?」
不思議そうに、覗き込んでくるマルクス様。
「怖い…です。ここに、居て…もらえませんか?」
怖いと思う度、さらわれる瞬間を思い出す。
知らない人の手で口を抑えられ、意識を失う瞬間、抱えられる…
あの時の感覚が蘇る…

私の体はやっと、あの時の恐怖をはっきりと思い出した。
薬でぼやっとしていた感覚が、返ってくるだけで体が震える。
マルクス様の服から、手を話そうとしても離れないため、服ごと引っ張り…私は自分を抱きしめた。
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