私の存在

戒月冷音

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第93話

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「すごいねミシェル嬢。君の言う通りだよ」
ヘンドリック様だった。
「兄上、終わったのですか?」
「あぁ、終わった。
 母上は、療養のため、奥地の別荘に行ってもらうことになった」
「で、ですがそれでは、社交界が・・・」
「そこは、マルガ様がいらっしゃる」
「母上が?」
「父上にも確認した。
 社交界は今まで、半々で出席していたものを、全てマルガ様が引き受けられる。
 母上の茶会は、ただの蹴落としの場だったらしいから、
 全て取り消して大丈夫だそうだ」
「それは、誰からの・・・」
「叔母上だ。
 叔母上は、母上の監視もかねておられたから、今回の事にあきれてる」

「叔母様・・・ですか?」
つい私は、声をだしてしまった。
王妃様の妹君は知っているが、その方は子供をなんとか関わらせようとして、撃沈されたはず。
後は・・・

「あぁ、ミシェル嬢は知らないね。
 叔母上と言うのは、マルガ様の、弟君の奥様」
「ミアレ様だ。正確には、俺の叔母だけど、兄上もそう呼んでるんだ」
「ミアレ様・・・まさか、ミアレ・コアントロ公爵夫人の事ですか?」

ミアレ・コアントロ侯爵夫人。
コアントロ公爵様の後妻ではあるものの、前妻との子供を立派に育て上げた。
18歳の時に、32歳の公爵に嫁ぎ、子供は作らず公爵を支えた。
女性にとって、ああなりたいと思うほど、素晴らしい方なのだ。

えっ!?と、言うことは、マルガ様はコアントロ公爵様の姉君?

私は、まさかあの方が・・・と、ほおけていると、マルクス様が
「ミシェル、俺の婚約者になるんだから、君にとっても叔母上だよ」
と言った。
そうだ。そうでした。私はマルクス様の婚約者。
ゆくゆくは、マルクス様と婚姻し家族となる。
コアントロ公爵夫人は、マルクス様の実の叔母。
ということは、私の義理の叔母様になるということ。

「ん゛ん゛~~・・・」
そんなわけの分からない声を発し、顔を隠して悶える私を見たマルクス様とヘンドリック様は、クスクスと笑う。

「本当に俺の義妹はかわいいね。
 カサンドラもまた、会いたいと言っているよ」
「かわいいのは同意しますが、あげませんよ」
お二人は、何を言っていらっしゃるのか・・・

私は二人の言葉を聞き、少し冷静になると、少し前の話を思いだし軌道修正をした。
「あの、話を戻しますが、コアントロ公爵夫人の提案で
 王妃様の茶会は全て、取り消しになるのですよね?」
「あぁ、そうだが・・・」
「その取り消しのお手紙は、誰が準備されるのですか?」
「あっ!?ヤバイ。手配していない」
「王妃様の事です。明日明後日のものも、あったのではありませんか?」
私がそう言うと、ヘンドリック様は急いで確認すると言って、部屋を出ていった。

「王妃様の事だから、地固めをしていただろうし、
 毎回のお茶会の規模も、すごかったんだろうな」
「全て中止の連絡は、厨房にも入っているのでしょうか?
 明日の料理の下準備などを、終えてしまっているものも
 あるのではないでしょうか」
そう言うとマルクス様は
「ちょっと、確認してみようか」
といって、私をつれて部屋を出る。

マルクス様が言っていた、お茶会の規模。
それによっては、公費として使うお金も、膨大になる。
それをもし、準備してしまっていたら・・・
私はそう考えるだけで、怖くてたまらなくなった。
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