なくなって気付く愛

戒月冷音

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第二章 25年後

クリストファ・マルコスside1

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俺が手紙を送って数か月後、ユーリウス・エルネスト様から手紙が来た。

「やっぱりこの方も、サンディに育てられた人だなぁ・・・」
手紙を読んでつい出た言葉が、これだった。

リビングで、届いた手紙を呼んでいると
「父上、どうされたのですか?」
たまたま出てきた息子に、そう聞かれた。
「ん?」
と返事をしたと同時に、この子もサンディに育てられた子なのだと思った。
この子と、その妹は、俺と血は繋がっていない。
しかし、赤子の時に俺が引き取り、育てていた子供だ。
まだ兄夫婦が元気な時は会いに行くと、お前の子か?と言われた。
俺は弟と言っても六男の末っ子だ。家を継いだ兄上とは40も違う。

それでも兄上は、遊びに行くと快く受け入れてくれた。
俺が任務で家を離れる時は、2人の子供を預かってくれて、孫のような可愛がってくれた。
とても優しい、大切な兄上と義姉上だった。

その2人が紹介してくれたのが、サンディだった。


義姉上が、久しぶりに行った王都の帰りに、仲良くなったと言っていたが、泊まるところを探していたので、邸に招いたのだと教えてくれた。
俺が初めて会った時、彼女は普通に生活していた。
たまに、体が痛むのか、辛そうな顔をしていた時はあったが、彼女は大丈夫だと笑っていた。
義姉上が年を取り、少し足を悪くしていたから、それをサポートする人として、マルコス男爵家に雇われた。
本を取ってきたり、動くときに支えたりが、彼女の仕事で、義姉上は嬉しそうに、彼女と話しながら生活していた。
雇って数ヵ月は、普通だった。

しかし、それは突然だった。
サンディは何時ものように、義姉上とお茶を楽しんでいた時、急に意識を失い、倒れた。
医師の見立てでは、注射でつまりを散らしたので、今は眠っているが、いつ目覚めるかは分からないと言われた。
それから数年、眠り続けた。
その間、兄上達はずっと治療と世話を続けた。
その後、意識を取り戻した時には、半身が動かなくなっていた。
それでも彼女はリハビリに精をだし、ある程度動けるようになった頃には、今度は義姉上が動けなくなった。

義姉上の介護は、兄上が主に行ったが、義姉上が嫌がったことだけは、サンディさんがしてくれた。
動かない体を、一生懸命動かして、義姉上と笑い会うその姿に、俺は何度もひかれた。

そんな時が数ヵ月過ぎた後、義姉上は天に召された。

とても穏やかな顔をして、いつものベッドに眠っていた。
「ベラ様は、ジョンス様にありがとう・・・と。
 そして、クリストファ様に、私に孫を授けてくれてありがとうと、
 うわ言のように言われました。
 それが、最後の言葉です」
サンディさんはその夜も、ずっと傍についていた。
傍の椅子に座って、うたた寝をし、何かあるとすぐに起きて世話をする。
ここ数日は、そんな感じだった。

まさか、皆が眠っているうちに旅立つとは、思っていなかったが、サンディさんがうわ言を全て聞いていてくれたお陰で、家族全員に義姉上の思いが届く。
義姉上は苦しむことなく眠りについた・・・と、そう彼女が教えてくれた。
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