なくなって気付く愛

戒月冷音

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第二章 25年後

ユーリウス・エルネストside

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俺は、2人の母に捨てられた。
一人は、生まれて直ぐ。
「生んだのだから、良いでしょ」
と言われたらしい。
そしそてもう一人の母は、伯父上の奥さんで、とても優しい人だった。
俺を伯父の子だと思い込み、いろんな事を教え、俺を成長させてくれた人だった。
けど、ある日突然居なくなった。


伯父は、必死に探したが結局見つからず、俺は伯父の養子にはいり今に至る。
数年後、居たらしい場所は探し当てたが、もうそこには居らず、生死も分からなかった。


それから数年後、俺は、家庭をもち、エルネスト公爵を継いでいた。
伯父・・・父上は隠居し、領地に籠ったが、たまに何処かに出掛けていた。
いく先はいつも、辺境のマルコス領。
前領主と領主夫人の墓にお参りして、帰ってくる。
ただそれだけのために行くのだ。

何時だったか、聞いたことがある。
「父上は何故、マルコス様を訪ねるのですか?」
と。
すると、帰ってきたのは
「大切な人が、世話になった人だからだ」
だった。
多分大切な人と言うのは、サンドラ母上の事。
だが、それ以上は分からない。




それから25年経って、自分だけになった時、一通の手紙が届いた。

「誰からだ?」
そう言いながら封筒の裏をみると、マルコスと書かれていた。
俺はすぐに開封し手紙を読む。

【ユーリウス・エルネスト様へ

 はじめまして。
 私は、サンドラ様に、お世話になったものです。
 彼女は、エルネスト公爵家を出るときには、
 病気を患っていたそうです。
 俺と会った時、彼女は右半身の機能を失っていました。
 それでも彼女は、マルコス様のお屋敷で、
 奥様のお世話をしておられました。
 俺は、自分の体が動かないのにも関わらず、他人のお世話をする
 彼女にひかれました。
 だから、マルコス夫人が亡くなった後、
 俺の妻として、彼女をを向かえました。
 彼女はいつも、言っていた。
 あの子は・・・ユーリは、元気なのだろうかと。
 怪我をしていないだろうか?病気になっていないだろうか・・・
 晩年はずっと、そんな事を言っていました。
 俺は一度だけ、貴方に会いに行ったことがあります。
 その時の事をサンディに伝えると、涙を流していました。
 サンディは、貴方に会えたことを、感謝していました。
 自分が愛した子供が、公爵を継いだと知った彼女は、
 本当に喜んでいた。
 自分がやったことは、意味があったと・・・本当に喜んでいた。
 でも、その数年後に、息を引き取りました。

 俺がこんなことを言えた義理ではないのですが、
 サンディを救ってくれて、ありがとうございました。
 貴方がいたから彼女は、俺と生きてくれたのだと思っています。
 本当に、ありがとうございました。

 クリストファ・マルコス】

クリストファ・マルコスは、ベラ・マルコスの義弟だった。
ジョンス・マルコスの弟で、家を継ぐことが出来なかったが、兄の近くで騎士をしていたはずだ。
そうか・・・サンドラ母上は、彼に支えて貰って生涯を終えたのか・・・
この手紙を読むと、サンドラ母上が幸せだったことが分かる。



俺はこの手紙に、返事を書いた。

【クリストファ・マルコス様へ

 お手紙、ありがとうございました。
 父上は、数年前に亡くなっておりますが、俺はずっと
 母上の事を探していました。
 貴方のお陰で、母上が寂しい思いをせず、幸せに過ごしていた
 と言うことが分かり、ほっとしております。
 俺にとっても、サンドラ母上は、大切な母であり唯一の存在でした。
 愛した母が、幸せでいてくれたことに感謝を。
 そして、貴方とマルコス男爵家に、幸多からん事を願っております。
 もし、お力になれることがあれば、お知らせください。

 ユーリウス・エルネスト】
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