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1.プロローグ
しおりを挟む― 痛い、切ない、苦しい。―
王太子妃オフィーリアは、これまで経験した事の無い痛みが全身を貫いていることに戦慄いた。
自分の身体の中から、生暖かい何かが溢れ出す。徐々に薄れゆく視界の隅で、この悲劇の元凶ともいえる女がその唇の端を歪に上げるのが見えた。
愛しい人の子供をその身に宿し、その子が生まれたら訪れるであろう幸せな日々に心を躍らせていた。そんな矢先に突然訪れた夫の裏切り。オフィーリアは先に自分を庇い、刃の糧となってしまった侍女ハンナの躯に手を伸ばした。
自らを庇ったばかりに、若き命を散らせてしまった。まだ自分が幼い頃から姉妹のように育ち、王宮に嫁ぐ際に公爵家から共に赴いた。そんな家族同然の彼女を、夫のオズウェルは何の躊躇もなく切り裂いたのだ。
血だらけの剣をだらしなく下げたまま、鬼のような形相をした夫には、慈しんでくれた日々の欠片も見当たらない。まさか自分が、夫に不貞を理由に殺されるとは思いもしなかった。
浮気してたのは自分の方じゃないか。そんなに自分とお腹の中の子が、邪魔だったのだろうか。お前が邪魔だ、いなくなれと告げてくれれば、どんなに辛くても自ら城を去ったのに。オフィーリアは今更ながらに身勝手な夫を恨んだ。何も侍女のハンナや腹の子の命まで奪う必要はなかったのではないかと。
自分や自分の大切な者を無下にし、死に追いやった夫と、その浮気相手が憎かった。それはオフィーリアにとって初めての激情であり、今までの人生全てを覆すような恨みだった。もし来世があるのなら、夫とその浮気相手に復讐をする。そして自分の大切な人たちを護る力が欲しい。
そんなオフィーリアの願いに応えるかのように、全身から不思議な力が沸き上がる。その暖かく眩い光が自らを包み込んでいくのを感じながら、オフィーリアの意識はどこか遠い所へと誘われていくのだった。
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