【完結】一緒なら最強★ ~夫に殺された王太子妃は、姿を変えて暗躍します~

竜妃杏

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12. リリスの決意

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※前半、性行為を思わせる表現と、残酷な描写があります。
苦手な方はブラウザバックをお願い致します。




* * * * * * * * * * * * * * * * * 






 リリスの母サリーは、ダイペス男爵家の下働きだった。名もない小さい農村の生まれだったが、見た目が良い事で商人の目に留まり、ダイペス男爵家へ下働きとして奉公に上がった。



 貴族の男性が、気まぐれで下働きの下女に手を付けることなどよくある話だ。下働きにしては見た目が良いサリーは、すぐにダイペス男爵の標的になった。



 勿論彼女にその気はなく、男爵家で働きながら、得意先の商人とでも結婚できれば儲けものだと思っていた。しかし若く美しいサリーは、男爵家で働くようになって間もなく、男爵に納戸に連れ込まれて無理やり手籠めにされてしまう。



 そこからサリーは、ダイペス男爵の玩具になった。気の向いた時に部屋に呼ばれ、小銭を渡されては蹂躙される日々。それだけでも彼女にとっては十分不幸だったが、それ以上の災いがやがて彼女に訪れる。



 そう…彼女の最大の不幸は、人一倍プライドの高い男爵夫人に、男爵との密会現場を見られてしまったことだったのだ。



 嫉妬に狂った男爵夫人は破落戸を雇い、サリーを魔物が多く住むという森の中へと放置させた。破落戸たちはサリーを散々好き勝手した挙句、何の武器も持たせずに森の中に捨てたのだ。



 全身ボロボロにされた彼女が魔物の森に放置され、そのまま無事で済むわけもない。案の定、魔物に手足を食いちぎられて、一人死の淵を彷徨っていた。



「だれか……たす……けて……」

「めずらしい。こんな森の中に、人間の女か?」



 森の中に突如現れたのは、吸血鬼の血を半分引く、シュナイダーという一人のダンピールだった。



「た、すけ、て」

「助けてやらないこともないが、その体を元の状態に戻すのは難しいぞ?」

「おね……が、い……」



 美しい女の血の匂いに、何とも抗いがたい魅力を感じたシュナイダーは、その血と引き換えにサリーの命を救ってやることにした。


 シュナイダーは、森の中の館で所属不明の暗殺業を営んでいた。その館にサリーを連れ帰り治療を施した。


 やがて治療の甲斐もあり、かろうじて歩けるようになったサリーだったが、手に麻痺が残ったために、そのままシュナイダーの屋敷で働かせてもらう事になった。


「シュナイダー様、今日の晩御飯は、クナイ鳥の蒸し焼きでいいですか?」

「あぁ、サリーの作る飯は美味いからな。それで構わない。ただ、俺にとってはお前の血の方が御馳走だがな」

「その、シュナイダー様にでしたら、一滴残らず飲んで頂いても構いませんが」

「ははっ、それじゃあお前が死んでしまうではないか。サリーに死なれると俺が困る」

「シュナイダー様……」



 人気のない広い森の中の館で二人きり。そんな二人が男女の仲になるまでに、そう時間は要らなかった。



 貧しくはなかったが、暗殺業というのもさほど儲かるものではなく、サリーは森で木の実や野菜を育てたりして生活を補った。



暗殺ギルドからは、時折暗殺者仲間らしき人が館に派遣されてきた。やがて二人の間にリリスが生まれると、彼女は暗殺の素質があるとされ、シュナイダーや暗殺者仲間から色々な技を教えてもらうようにもなった。



 リリスは見た目の良い母とダンピールの父の遺伝子を受け継ぎ、たいそう美しい娘へと成長していった。育つ中で自分が人の心を操る『人心掌握』という不思議な力を持っている事、そして父が魔族の血を引いていて、自分にもその血が流れている事、母が人間たちから酷い扱いを受けていた事などを知る。



 そんな彼女が、父親のシュナイダーと同じく殺し屋となり、その有能ぶりを発揮したのも、至極当然な流れであったのだろう。










 ある日、リリスが仕事で家を空けている隙に、屋敷に何者かが攻め入った。リリスが一仕事終え館に戻ると、そこでは母や仲間が無残にも殺されていた。



「なんで? ママっ、みんなっ! 誰がこんなことをっ?」



 父であるシュナイダーの行方も知れず、彼女が途方に暮れている所に、ある一人の男がやって来た。その名をアステルと言い、自分を魔王だと賜った。



「娘よ。お前は、今の自分で満足か?」

「ハッ! 満足も何も、何もかも全部失った私に、何の希望があるっていうのよ?」

「それは一体誰のせいだ? 己のせいか? それとも、家族を殺した人間どものせいか?」

「誰がママを、みんなを殺したか、知ってるの?」

「そんな簡単な質問に答えるのはつまらぬな。少し考えればわかる事だろう」



 リリスの脳裏に、シュナイダーへ仕事を依頼していた暗殺ギルドの連中の顔が浮かぶ。



 おそらく仕事が上手くいかなかった口封じのために、仲間や家族を皆殺しにしたのだろう。だが、暗殺ギルドは大きな組織で、とても未熟な自分の力で復讐できる相手ではない。



「だからって、今更どうすればいいのよ。私ひとりじゃ何もできないわ」

「なら、私からひとつ仕事を依頼しよう。その仕事が成功すれば、私がお前の敵を全て血祭にあげてやる。もちろん、それまでの生活費は全て必要経費として私が持とう。どうだ? 悪い話しではないだろう?」



 自称魔王であるアステルの話を鵜呑みにするには、リリスにも勇気が要った。だが、このまま一人でここに残っても、暗殺ギルドの連中に残党狩りと称して殺されるか、喰うに困って露頭に迷うしかない。せっかく身に着けた暗殺スキルも、依頼がなければ活かす事すらできないご時世だ。下手して捉まれば、薬漬けにされて娼館にでも売られるのが落ちだろう。



 人間は嫌いだ。自分より弱い者や魔族を目の敵にする。どうせなら人間なんてやめて、自分も魔族として生きた方がいいかもしれない。



「ねぇ、その依頼が成功したら、私を魔族の仲間にしてくれる?」

「何を言っている? お前はもう既に、人を何人も殺した立派な魔族だろう?」


 
 そう言いながら微笑むアステルの美しい瞳に、リリスは不思議と魅入られた。今まで両親以外に、自分をこんな風に認めてくれた人などいただろうか。いや、いない。少なくても人間にはいつもゴミを見る目で蔑まれていた。年頃になってからは、それに視姦するかのような、いやらしい視線まで加わった。



(あんな下種共に遠慮する必要なんてある? ないわよね?)



「わかった。あなたの依頼を受けてあげるわ。その代わり、約束はきちんと守ってよ?」

「もちろんだ」



 アステルの依頼は、流石のリリスでもやや引いてしまうほど過激なものだった。ダンぺル男爵家に婚外子として入り込み、その家を乗っ取ること。そして男爵家の娘として王立学園に入学し、高位貴族の子息たちを手玉に取る事である。



 そして何より、聖女候補を殺してその心臓を取り出し、聖核を己の身体に取り込む事。それが出来れば、リリス自身が聖女としての魔力を得て、神殿へと入り込むことができる。



 神殿へ入り込んだら、魔族を殺すための聖杯に近づき、その聖杯を魔族の血で汚す。そうすることで聖杯は力を亡くし、人間どもは魔族に対し無力になってしまう。それで依頼は終了だ。



「思っていたより大変そうね。ねぇ、もし成功したら、私をあなたの配下にしてくれる?」 

「それぐらいお安い御用さ。成功したら、お前に俺の力を分けてやってもいい。そうすれば、完璧な魔族となり、お前を蔑む者など誰一人いなくなる」

「いいわね、それ……あははははははっ!」



 リリスはその話を聞いて、生まれて初めて腹の底から笑った。親を、仲間を、そして自分を蔑んでいた全ての人間どもに、今度こそ目にものを見せてやる。



 さっきまで途方に暮れていた瞳に、得も言われぬ暗い光が宿るのだった。





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