【完結】一緒なら最強★ ~夫に殺された王太子妃は、姿を変えて暗躍します~

竜妃杏

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13. 策略

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※中盤以降、性行為を思わせる描写と残酷な表現があります。
苦手な方はブラウザバックをお願い致します。





* * * * * * * * * * * * * * * * 








 その日は突然訪れた。



 ダンペル男爵家に、男爵の娘を名乗る少女がいきなりやって来たのだ。あまりに心当たりがありすぎた男爵は、いつもなら屋敷に入れようともしないのだが、娘という言葉にスケベ心を刺激され、もし虚言だとしても、味見をしてから体よく追い出してやろうと思いつつ、リリスを屋敷に上げてしまった。



「お父様、はじめまして。こちらで下働きをしていたサリーの娘で、リリスと申します」



 そう言ってお辞儀をする娘の美しさに、ダンペル男爵はいとも容易く陥落された。



「おぉ……なんて綺麗な娘なんだ……」



 確かに、屋敷で働いていた下女に、彼女に似た綺麗な娘がいた。そして嫌がる娘を何度も手籠めにした覚えがある。あまりの器量の良さに、妾として囲ってやっても良いかと考えていたのに、いつの間にか行方知れずになり見つからなかったために、そのまま忘れてしまっていた。



「そうか。リリス、というのだな? 良く名乗り出てくれた! さあ、こっちへ来て、よぉ~く顔を見せてくれ」

「はい。お父様」



 ここまでくれば、あとはリリスお得意の『人心掌握』の能力が効果を発揮する。男爵は妻や子供たちのいう事も聞かずに、リリスをそのまま屋敷の客間に住まわせることにした。



「あら、お兄様、そのカフスボタン、素敵ですわね?」

「まぁ、あなたが妹だなんて、なんて可愛いらしいのかしら? 嬉しいわ 」



 男爵夫人を除いた家族も、ほんのわずかなお世辞であっという間にリリスに陥落する。執事も女中頭もメイドたちも、篭絡するのは赤子の手をひねるより容易かった。




「あら、あなたはこのお庭の庭師の方?」

「はい、お嬢様。宜しくお願いします」

「まぁ、こんな綺麗なお花を咲かせる事ができるのね? きっとあなたの心も、このお花のように綺麗なのね」




 男爵家の庭師も同様の手で篭絡した。



 そして、最後までリリスに悪意を持ち、虐めて追い出そうとした男爵夫人に対して、庭師をそそのかして襲わせた。



 庭の四阿で庭師に体を貪られている男爵夫人の姿を、上手く誘導してダンペル男爵に目撃させる。



「っ! お前! 良くも人の金で温々と暮らしておきながら、間男を引きずり込んでいたなっ!」



 己の行為は棚に上げ怒鳴りまくるダンペル男爵に、リリスは一言こう告げる。



「まぁ~怖い。これでは、お兄様も妹も、本当にお父様の子供かどうかわかりませんね? まるで獣の托卵ですわっ!」



 それこそ冷静に考えればそんなことはないと判るはずだが、リリスに心を支配されている男爵には、それがすべて真実に聞こえてしまう。



「お父様? そんな卑しいメスは、この家に必要ありませんよね?」

「あぁ……リリス、まったくお前の言う通りだよ……」

「いやっ! あなたっ! 助け、てっ! イヤ、イヤ、イヤぁぁぁ!」




 突如鬼のような形相に変わったダンペル男爵は、部屋からサーベルを持ち出し、四阿で悲鳴を上げ続けている婦人と、狂ったように腰を振り続ける庭仕ごと切りつけた。



「キャぁぁぁぁ!」

「ぐわっ……!!」

「この鬼畜ども! わが家にはびこる寄生虫め! 成敗してくれるっ!」



 既に息絶えていた二人を何度もサーベルで滅多刺しにし、ダンペル男爵は口を歪めて嘲笑う。



「儂にはリリスがいれば良い! お前ら等、消えていなくなれっ! あははははははっ!」



 壊れたオモチャのように同じ動作を繰り返し血塗れになった男爵を見て、リリスは面白そうに目を細める。



「因果応報とはよく言ったものね。自分が昔した行為を、そのまま返されるのはどんな気分かしら? あぁ、そのままというには語弊があるかなぁ。ママは、もっともっと……苦しんだもの」



 その後、夫人と庭師の遺体は、魔物の森へと捨てられた。しかし、夫人と庭師が姿を消しても、誰人ひとりとしてそれをおかしいとは思う者はいなかった。



「お母さまったら、またおひとりで旅にでも出かけたのかしら?」

「まぁ、気まぐれな人だからな? 隣国の伯母上でも訪ねているのではないか?」

「あんな穀潰しは放っておけ!」

「はぁ~い」




 それから、リリスの贅沢に文句を言う者、口に合わない食事を提供した者、不注意でドレスを汚したものですら、誰も気づかぬうちにその姿を消していた。




「ん? この屋敷はこんなに静かだったか?」

「まぁ、お父様? 静かなことは素晴らしい事ですわ?」

「あぁ、リリスが言うならそうなんだろう」

「ところで、そちらの客人はどなたかな?」

「あら、嫌だ。お父様ったら、隣国からおいでになったアステル大使様じゃございませんか」

「おぉ、おぉ、そうだった!アステル様、どうぞゆっくりしていって下さいませ」

「それはそれは、有難いことです」




 屋敷の中に魔王アステルが滞在していても、もはや誰も疑問にすら思わなくなっていた。




「しかしまた、ずいぶんと上手く入り込んだものだな?」

「お褒めにあずかり光栄です。それで今日はどのようなご用件ですの?」

「あぁ、お前に、これを渡しておこうと思ってな?」

「これは?」




 魔王アステルがリリスに手渡したものは、青く輝く小さな石のペンダントだった。




「これは、人間の聖力に反応する魔石だ」

「では、これで聖女候補を探せば宜しいんですね?」

「あぁ、その通りだ。話が早くて助かるな」




 アステルが言うには、このペンダントは貴重な魔道具で、聖魔法を使うための聖力に反応するペンダントだと言う。ほんのわずかな聖力を持つ者の傍に寄れば、薄っすらと水色に光り、聖女候補に相当する聖力の持ち主の場合は白い光を放つらしい。要するに、このペンダントを頼りに聖女候補を自力で探し出せと言うことだ。




「まぁ、何の手がかりもないまま探すより、これがあれば助かるわね」

「あぁ、ひとつ言い忘れていたが、白く光る者以外には手を出すな」

「え? それってどういう事?」

「他の色に光る者は、お前の手には負えない奴らだ。下手に手を出すと、お前の素性がばれる可能性が高い。くれぐれも気を付けることだ」

「そう。でも、もしソイツがどうしても邪魔だったら、殺っちゃって……いい?」




 リリスが歪な笑いを零す。



「お前は人を殺める術を理解しているから返り討ちに会うことはないとは思うが。人間の中には、魔族さえも殺せる術を使うものがいるからな。あくまでも、お前の仕事は別にあることを覚えておけ」

「はぁ~い、魔王様がそう仰るなら」




 どこまで理解しているかは定かではないが、どうやらリリスの復讐心は人間という種族そのものに向いているようだ。目的は聖杯を使い物にならなくする事なのだが、それを成す前に欲張りすぎてミスをしなければ良いと思うアステルであった。






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