【完結】一緒なら最強★ ~夫に殺された王太子妃は、姿を変えて暗躍します~

竜妃杏

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17. 思わぬ勝機、そして誤算

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 リリスは学園に通う傍ら、男爵令嬢として教会のボランティアに参加していた。それは、学園に通う聖女候補たちに手を出すよりも、巷にいる聖女候補たちの方が簡単に殺せることが判ったため、彼女たちの情報収集をするためでもあった。


 何しろ学園に通う聖女候補たちは、貴族のご令嬢なだけあって護りが固い。高価な守護魔法が何重にもかけられているし、人目には気づき辛いものの、あちらこちらに彼女たちの護衛が配置されているのだ。


 それなら街中の貧しい教会で働く聖女や聖女候補たちから殺して魔力を奪った方が手っ取り早い。ボランティアとして教会に通う中で、どの教会にどれだけ聖力の強い聖女候補がいるのか、そしてどのタイミングが一番殺しやすいかを探った。


 一人、また一人とその手で聖女候補を殺し、その心臓を奪った。手に入れた聖力は既に七人分にも及んだ。


 しかし、そこでリリスの計画に思わぬ邪魔が入る。それがディスモンド公爵家率いる捜査部隊だった。彼らは捜査の一方で、今後狙われる予定の聖女や聖女候補たちに見張りを付けた。その誰もが機動力に優れ、凄腕の魔法の使い手だった。


 特にディスモンド公爵子息であるリチャードの魔法はえげつない。どんな手を使っているのか知れないが、聖女候補に近づこうとするものなら蟻の子一匹も近寄れない。この間など、聖女候補の足元を通り過ぎたネズミが、一瞬にして氷の標本になってしまったのだから笑えない。



「あぁっっ! あともう少しなのに! あいつら邪魔なのよ!」



 既に七人もの聖魔核を喰ったリリスは、偽物ではあるが立派に聖魔法を扱えるようになっていた。使用時にキラキラと派手な効果を見せつけながら聖力を放出する事で、聖教会では大聖女の再来かもしれないと思われている。但し、預言されていた時期よりも彼女が姿を現した時期が早かったらしく、正式な大聖女としての認定はまだ先送りされている。


 一刻も早く十人分の魔核を手に入れ、大聖女として聖杯に近づきたいのに、後三人分が上手く手に入らない。そんな中、王太子妃であるオフィーリアの聖魔力の多さにリリスが気付いたのは、まさに偶然だった。
 

 ある日、聖教会に依頼され、王宮にある騎士団へ慰問に訪れた。その時、どういうわけかアステルにもらった聖力に反応する魔法具が白く反応したのだ。それももの凄く強く。驚いて周囲を見回すと、何やら向こうの棟の窓越しにその存在は居るようだ。



「あの、今、向こうの棟にお忍びでいらっしゃるのはどなたですか?」



 リリスが側使えの聖騎士に上目遣いで尋ねると、騎士は何かに思い至ったようですぐにその答えを返した。



「あぁ、実は本日、王太子殿下と王太子妃様がお忍びでご見学にいらしているようです」



 リリスは魔法具の指す相手が王太子妃だとすぐに理解する。この国の王太子妃と言えば、あの煩わしい公爵家の娘だったはずだ。ならば、今度はあの王太子妃を殺して、あいつらの鼻を明かしてやろうではないか。しかも、あの魔力量の多さであれば、もしかしたら三人分を余裕で賄えるかもしれない。そうほくそ笑んだ。


(ついでに王太子をその気にさせて、こちらの手駒にするのも面白いかも…)


 男を手玉に取ることなど造作もない。リリスにとっては目の前の花を手折るより簡単だ。ついでに周りを飛び回るハエのように鬱陶しい公爵家の連中を黙らせ、戦力を削ぐのもいいだろう。そう思い、今度は王太子妃に近しい公爵家の内情を探ることにした。






 ディスモンド公爵家当主のデカルドは、この国の宰相を引き受けるだけあって人望も厚い知恵者だ。悪知恵もかなり働くらしい、正直敵に回したくないタイプである。


 次にその息子のリチャードは、このレーヴェン王国一の氷魔法の使い手だ。彼を怒らせたら、一晩にして国中が氷に覆われることになる。彼も敵に回してはいけない。


 そしてディスモンド家の近衛師団長であるサーフェン家。この一家がまた国一番の剣豪と名高い一族である。厄介な相手ではあるが、潰すのであればここが良いだろう。運良く公爵家の私兵から、サーフェン家のハインツが王太子妃に入れあげていたという噂も耳にしたので、リリスはこれを利用してみることにした。


 それこそ簡単に引っかかった王太子のオズウェルを、人心掌握の術で意のままに操る。


 王太子妃であるオフィーリアの懐妊を期に、馬鹿みたいにリリスの訪問を喜ぶオズウェルにリリスはこんな事を吹き込んだ。

 


「オフィーリア様は昔から殿方にたいそう人気があったようですね。あの美貌に惑わされ、義弟や幼馴染まで彼女に想いを寄せていたとか。オズウェル様が執務でお忙しい中、その方々は頻繁に妃殿下にお会いになっていたようですの。殿下も色々とご心配ではないですか?」

「あぁ、確かに言われてみればそうだな。義弟のリチャードは昔からリア第一主義であったし、幼馴染だという騎士のハインツに至っては、リアを見る目が恋人でも見つめているようだからな。ったく、実に不快だ!」

「そういえば、先日もあの騎士の幼馴染の方が、妃殿下のお部屋を訪ねておられましたよ?妃殿下の悪阻が酷いようでしたから、治癒でもしてさしあげようとお部屋に伺ったのですが、先客があるからと、侍女に断られましたもの」

「なに?まことか?」

「えぇ、私が嘘など言うはずもございませんわ」

「そうだ、そうだな。リリスの言う言葉はいつも正しい」




 そこからは、丸めたゴミを坂から蹴落とすように簡単だった。あれよあれよという間にハインツをおびき出して睡眠薬を盛り、縄で手足を縛りあげた状態でオフィーリアの前に突き出す。王太子妃の腹の子がハインツの子であるはずもないのに、オズウェルはそれを信じて疑わない。鬼のように目を吊り上げ、いとも簡単に自分の妻を切り殺した。本当に笑いが零れるほど容易いものだった。



 しかし、ここからがリリスの予想外だった。


 突如として王宮を覆うほどの眩しい光がオフィーリアの体から漏れ出した。あまりの眩しさに流石のリリスも目を開けてはいられずに、光が治まるまでの時間、強く瞼を閉じたままだった。


 ようやく光が無くなり瞳を開けた時には、目の前にあるはずのオフィーリアの遺体だけが、忽然とその姿を消していたのだ。


 これにはリリスも驚かざるを得ない。何しろ、その遺体を手に入れて、心臓にある魔核を手に入れる予定だったのだ。それさえ手に入れば、魔王との約束をほぼ果たし終えたと言っても過言ではなかったのに、なぜ貴重な餌が目の前から消えて無くなってしまったのか。意味が分からない。




「何処っ? どこに行ったの? あともう少しだったのに!」




 周囲にいたオズウェルや衛兵たちは、まるで精気を失ったかのように呆けたままだ。




「ちょっとあんたたち! 王太子妃の遺体がどこに行ったか探しなさい! あとソコで気を失ってる間男を牢屋に連れてって、拷問でもして何か知らないか聞きだしなさい! もし知らないなら、さっさと殺しちゃって!」
 
「……リア? 私のリアはどこだ? リア? リアっ?」

「あ~もう鬱陶しい! オズウェル様、王太子妃様はつい今しがた病気でこの世を旅立たれましたわ? さぞ悲しいでしょう。私が向こうでお慰めいたしますわ? さ、参りましょう」




 大事な遺体を探すのはひとまず後回しにし、リリスは事件の隠蔽のために動き出す。大切な妻を殺したオズウェルは放心状態のまま、リリスに促されて自室へと連れ出された。




「じゃあルクス、後始末は頼んだわよ?」

「はい。仰せのままに」

「あと、王太子妃の遺体が見つかったら、何としてでも手に入れて! 分かったわね?」

「はい。必ずや…」



 こうして王宮で起こったオフィーリア殺害事件は、リリスの命により暗闇に葬り去られようとしていた。


 そしてこの事件こそが、リリスを地獄に突き落とすための引き金になっていたとは、この時の彼女は知るはずもなかったのである。










* * * * * * * * * * 





いつも小説をお読み下さり、誠に有難うございます。
時系列的に、ここでようやく話が6話に繋がります。
長々と説明章が続いてしまい、申し訳ございませんでした。
この後から話は11話の続きとなります。
これからは復讐劇の幕開けと、恋愛展開になる予定ですので、どうぞお楽しみください。











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