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25. とんだとばっちり
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ディスモンド公爵家の私設騎士団である黒龍騎士団・通称ブラックドラゴンズは、レーヴェン王国内でも強くて有名な騎士団である。とくにここディスモンド公爵領では人気があり、老若男女問わずにその姿を見かければ激励の声が掛かる。小さい子供たちからすれば、将来就きたい職業ナンバーワンで、あこがれの職業でもある。
そんな黒龍騎士団第一隊副長であるカインはまさに頭を抱えていた。今朝方起きた連続聖女殺人事件の犯人によるサーヤ殺害未遂事件の警護内容が、犯人側に漏れていたからだ。
警護内容が外に漏れていたとすれば、すなわち内部に情報提供者がいたという事になる。しかも今回の案件はかなり慎重に警備体制が敷かれていたので、詳細を知る者は極一部、それも己の指揮する第一隊のメンバーである可能性が高い。
黒龍騎士団に所属する騎士たちは、その見習い騎士を含めるとかなりの数になる。その中で自身が副隊長として管理する第一隊はかなりの精鋭部隊であり、それこそ見習い時代から目をかけ親身になって世話をしてきた連中ばかりだ。そんな親しい身内同然の連中の中に、今回の内通者がいるとは思いたくない。
「リチャード様、これ、本当にやるんですか?」
「あぁ。今回の内通者をあぶり出すにはこの方法が一番だ。おそらく内通者本人も、自分が操られて情報を提供させられていたとは思っていないだろうからな」
「それにしても、これはさすがに…」
今回の警備に関わっていた数百人の騎士たちは、既に練習場に待機させられている。練習場の中央に貼られているテントの中には、二枚の絵が置かれていた。一枚は黒龍騎士団の団員であればだれもが尊敬して止まない我らが主、ディスモンド公爵デカルドの似顔絵であり、もう一枚は現在自分たちが敵として認識している聖女リリスの似顔絵である。どちらもシャーロットが黒魔法で念写しているだけあり、とても精密で写真と言っても良い出来だ。
「で、この二枚の絵のどちらかを踏まなければ、テントの外には出られないという事ですか」
「あぁ、公爵の絵を踏んでもアウト、両方踏めなくてもアウトだ」
「個人的には、デカルド様の似顔絵を足元に置く事さえ憚られるのですが」
「それは誰もがそうだ。父上には既に了承を得ている。今回の件で、騎士たちの忠誠心と適性を見極めよとの仰せだ」
「そうですか。ならば止む絵を得ないですね。任務として割り切りますか」
「そうしてくれ」
前時代的な制度である踏み絵という手法ではあるが、深層心理に働きかける方法としては今でも大変有効な方法であり、リリスのような無自覚な洗脳を知るには、これ以上ないほど効率的な手段だ。
騎士団長のロイドが、練習場に集まった騎士たちに一人ずつテントの中に入ってくるように伝える。集められた騎士たちにすれば、何の目的で自分たちがこの場に集められたのかを知らぬ間に指示をされた形になる。戦場でも後ろを見せない猛者たちが、これから何が起こるのか戦々恐々としている姿が逆に珍しかった。
「尚、中で何があったかは秘密である。口にした者は三ヶ月の減俸もしくは降格を命ずる」
ロイドの一言により、騎士たちがひとり、またひとりとテントの中に呼ばれてはいっていく。
「ここにあるのは、我らが主と憎き敵の似顔絵である。汝が敵と定める者の絵を踏んで出て良し!」
そう命令された騎士たちは、次々とリリスの似顔絵を踏んでテントを出ていく。中には憎々し気に何度も足で踏みつける者、自らの剣を顔めがけて突き刺す者までいた。オフィーリアを昔から知る者たちは、写真を見ただけでその顔を憎しみで染め上げた。中には殺された聖女候補の知り合いや密かに想いを寄せていた者までいたのだから、当然と言えば当然ではある。
リリスの絵はすぐにボロボロで面影もなくなってしまうため、シャーロットからは何枚もの絵を預かっている。テントの中にはズタボロになったリリスの似顔絵が積み重なっていった。
「次、ジニアス、前へ!」
「はいっ!」
威勢よくテントに入ってきたのは、昨年見習いから正式に騎士になったジニアスと言う青年だった。彼は呼ばれるままに前に出て、地面に置かれた二枚の絵を見て固まった。他のものは何のためらいもなくリリスの絵を踏み抜いて出て行ったにも拘らず、彼の足はリリスの絵の上で静止したままだ。
「うっ! くっ、な、なんで!」
気持ち的には絵を颯爽と踏んで他の仲間と同じにテントを出ていくつもりなのに、その一歩が踏み出せない。
「おい、どうした」
「はい、今すぐっ! うっ! くううっ」
ジニアスはどうしてもリリスの絵を踏むことが出来なかった。
「な、なんで? 俺の足、どうしちゃったんだよぅ…」
終いにはグズグズと涙で鼻を鳴らす始末だ。そんな彼を気の毒そうな目で見つめ、カインは周りにいた他の騎士数名に彼を捕えるように指示をした。
「おい、カインを内通者として捕縛し、地下牢に軟禁しろ。仲間だからと言って温情は見せるな。また取り調べが済むまで暴力も禁止だ。もちろん面会もな」
「そ、そんなっ! 俺は何もしてないっ!」
ジニアスは情けなく叫びながらも仲間の騎士によって地下牢へと引き立てられた。
彼は兄弟姉妹八人の長男として生まれ、昔から面倒見がよくお人よしで有名だった。頼まれれば嫌と言えない、人の嫌がることも率先してやる。カインはそんなジニアスを何かと気にかけていた。人一倍がんばり屋であり、任務にも稽古にも一生懸命な彼は、将来幹部候補として上に行ける人材だと思っていた。もちろん、騎士としての腕前も十分である。
そんなお人よしの彼だからこそ、リリスの毒牙に簡単にかかったしまったのだろう。彼の未来を簡単に潰したリリスが許せない。この世に存在してはならない相手だ。カインは改めてリリスの事を憎いと思うのだった。
一方、森の中の我が家ならぬ隠れ家にいたリリスは、原因不明の痛みに悶絶していた。定期的に顔を殴られたような痛みが走り、時にはナイフで切り付けられるような激痛が襲う。
定期的に聖魔法で痛みを緩和していたが、それもずっと続くと限界である。
「ぐっ、かはっ! あだ、っっつぅ!」
持続的に続く痛みは止むことを知らず、次から次へとリリスを襲い来る。床に蹲って痛みをやり過ごそうとしても、そう簡単にいくものではない。魔力も底をつきかけてきたので、後半はそのまま放置していたら、顔は赤黒くはれ上がり、鼻も折れ曲がってみるに堪えない容貌へと変わっていた。
「くそぅ……な、ん、なのよっ」
何か悪い呪いにかかったのかと聖魔法で解呪してみたが、その痛みが止むことはない。あまりの痛みに、そのうち意識を失ってしまう。
そう、ご想像の通り、犯人はシャーロットである。
大好きなリチャードの姿の念写であれば、だれに何を言われなくても喜々として作成し、挙句は丁寧に額縁に入れて飾ってまでみせるが、なぜ大っ嫌いなリリスの顔を思い浮かべて念写しなければならないのか。いくら内通者を洗い出すためとはいえ苦痛だ。
「あ、なら、思い切り恨みを込めて呪いの藁人形ならぬ呪いの念写でもしちゃう?」
そんな軽いノリで、リリスの念写に呪いを込めたのだ。
おかげで黒龍騎士団の騎士たちが似顔絵(念写)を力任せに踏んだり切り付けたりするたびに、リリスにその呪いが飛びまくった。リリスにしてみたら酷いとばっちりである。
「あといっちま~い、ついでについでにもういっちま~い! 呪いをこめて、もういっちま~い」
呪いの念写を、楽しそうに鼻歌交じりで何十枚も作り上げるシャーロットを、ニコルは複雑そうな顔で静かに見守るのだった。
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