上 下
112 / 368
第九話:木葉天狗

06木葉天狗

しおりを挟む


「……理性を保つってなかなか難儀なんぎなモノだね。紳士的にいられるうちにおいとまするよ」


ミタマはこれ以上紗紀に嫌われるのが怖くて、そそくさと紗紀のほほから手を引いた。

いそいそと立ち上がり部屋を出ようとするミタマの背に、紗紀は声をかける。


「あの、ありがとうございました」

「……うん」


ミタマは振り返る事が出来ないまま返事だけ返すと、部屋を出ていった。

障子を閉めて直ぐに、ミタマはため息と共にその場にしゃがみ込んだ。

これから先、妖力をあげる度に今までに無い本能との葛藤かっとうが待っているのかと思うと、たまったものじゃないと思った。とはいえ、他の者にゆずる気などさらさら無い。


 ◇◆◇


一方紗紀はミタマが触れた唇に指先をえていた。

初めてでは無い事なのに、ミタマの気持ちを知ってしまったからか普段以上に意識してしまった。


(やっぱり振り回されています!灯さん!!管狐くだぎつね大当たりだよ!!)


紗紀は崩れるようにしてその場にうずくまった。

そう、決して彼の気持ちが嬉しくないわけでは無いのだ。

むしろ嬉しいに決まっている。

人に好かれて嫌なわけが無い。

ただちょっと、現実として受け入れがたい、それだけだ。


(ひとまず忘れよう)


紗紀は横に転がってそっと目を閉じた。

不意に小さな音がして、視線を向ければ、そこにはタブレットが置いてあった。

体を起こしそれを手に取る。

メッセージが一件届いていた。


(優一さん?)


タップをして開く。


『そういえば無事に着いたよ。昨日は妖怪も怪物も出なかった。今日もお互い頑張ろうね』


そう一言と、写真が添付てんぷされていた。

それは元気なこい達がえさを求めてなのか、集まっている写真だった。

なんだかほっこりしてしまう。

ミタマと居る時とはまるで逆だ。

ミタマに好きな人が居ると知らなかった時は、優一と居る時みたいに心穏やかだったのにと思う。


 ◇◆◇


「それが恋ってもんじゃないのかえ?」

「鯉……」

「現実逃避するんじゃないよ、紗紀」


一人で悶々としていた紗紀は、時間を持て余し雪音の部屋へとけ込んでいた。


「……誰かと居るのが居心地悪くて、モヤモヤしたりドロドロした気持ちが渦巻うずまくのが恋?なんだかとても悲しいですね……」

「紗紀のその相手に向ける気持ちはそんな悲しいものばかりなのかえ?浮足立うきあしだつような嬉しさや、側に居るだけで楽しいってそんな気持ちは何一つ無いと?」

「……」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:1,295

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:9,315pt お気に入り:2,928

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:49

私が王女です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:45,618pt お気に入り:459

無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:617pt お気に入り:2,517

【完結】ヤンキー、異世界で異世界人の正体隠す

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:39

ハナノカオリ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:34

秘密宴会

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:8

Harmonia ー或る孤独な少女と侯国のヴァイオリン弾きー

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

処理中です...