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第九話:木葉天狗
06木葉天狗
しおりを挟む「……理性を保つってなかなか難儀なモノだね。紳士的にいられるうちにお暇するよ」
ミタマはこれ以上紗紀に嫌われるのが怖くて、そそくさと紗紀の頬から手を引いた。
いそいそと立ち上がり部屋を出ようとするミタマの背に、紗紀は声をかける。
「あの、ありがとうございました」
「……うん」
ミタマは振り返る事が出来ないまま返事だけ返すと、部屋を出ていった。
障子を閉めて直ぐに、ミタマはため息と共にその場にしゃがみ込んだ。
これから先、妖力をあげる度に今までに無い本能との葛藤が待っているのかと思うと、たまったものじゃないと思った。とはいえ、他の者に譲る気などさらさら無い。
◇◆◇
一方紗紀はミタマが触れた唇に指先を添えていた。
初めてでは無い事なのに、ミタマの気持ちを知ってしまったからか普段以上に意識してしまった。
(やっぱり振り回されています!灯さん!!管狐大当たりだよ!!)
紗紀は崩れるようにしてその場に蹲った。
そう、決して彼の気持ちが嬉しくないわけでは無いのだ。
むしろ嬉しいに決まっている。
人に好かれて嫌なわけが無い。
ただちょっと、現実として受け入れ難い、それだけだ。
(ひとまず忘れよう)
紗紀は横に転がってそっと目を閉じた。
不意に小さな音がして、視線を向ければ、そこにはタブレットが置いてあった。
体を起こしそれを手に取る。
メッセージが一件届いていた。
(優一さん?)
タップをして開く。
『そういえば無事に着いたよ。昨日は妖怪も怪物も出なかった。今日もお互い頑張ろうね』
そう一言と、写真が添付されていた。
それは元気な鯉達が餌を求めてなのか、集まっている写真だった。
なんだかほっこりしてしまう。
ミタマと居る時とはまるで逆だ。
ミタマに好きな人が居ると知らなかった時は、優一と居る時みたいに心穏やかだったのにと思う。
◇◆◇
「それが恋ってもんじゃないのかえ?」
「鯉……」
「現実逃避するんじゃないよ、紗紀」
一人で悶々としていた紗紀は、時間を持て余し雪音の部屋へと駆け込んでいた。
「……誰かと居るのが居心地悪くて、モヤモヤしたりドロドロした気持ちが渦巻くのが恋?なんだかとても悲しいですね……」
「紗紀のその相手に向ける気持ちはそんな悲しいものばかりなのかえ?浮足立つような嬉しさや、側に居るだけで楽しいってそんな気持ちは何一つ無いと?」
「……」
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