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第十三話:灯と楓。
02灯と楓。
しおりを挟むドクドクと心拍数のみがうるさく耳に響いた。
もやもやとしたものが腹の底で渦を巻くのが分かる。
紗紀はそんなミタマに自ら口付けをした。
驚いたミタマは瞳を丸くして、呆然と離れていく紗紀をただただ眺める事しか出来ない。
彼女のなめらかな頬を、つーっと綺麗な一筋の涙が伝った。
紗紀は困ったように笑う。
「ミタマさんを選んだからこそ、絶対に離れません。離れたら駄目なんです。これが、私が優一さんに対する向き合い方です。これでミタマさんと離れたら、優一さんの気持ちが報われません」
ぽかん、と呆気に取られてミタマはマジマジと紗紀を見つめた。
言葉にならなかった。
「だから、私はミタマさんと共に絶対に幸せになって、この選択肢で良かったんだと思いたい。ミタマさんを選んで不幸になっただなんて優一さんの耳に届いたら、それこそ償っても償い切れません。幸せになったなら良かった。それなら仕方ないって優一さんならきっと困ったように笑って許してくれるような気がするから……」
いつの間に、彼女はこんなにも強くなったのだろうか。
まだ瞳は潤んでいて。
けれども笑って見せる。
しばらくは尾を引くと思っていた。
それだけに拍子抜けしてしまった。
ミタマは大声で笑い出す。
「あっははは!……キミは本当に、見ていて飽きないな。どんどん、どんどん逞しくなっていく。ヒトと言うものはこんなにも成長が早いんだね。恐れ入ったよ」
そう笑われると急に恥ずかしくなって、紗紀は自分の顔を覆った。
ミタマに話をする内に、自分の中でこんな考えでは駄目なんじゃないかと紗紀は思い、こういう結論へと至ったのだった。
まだハッキリ割り切れはしないけれど、起こってしまった出来事はどんなに嘆いても戻りはしない。
紗紀は身を持って知っている。
だからこそ、その時々の選択肢がいかに大事なのかも理解し始めていた。
例え政府が約束を破ろうとも、ミタマの本当の主であるウカノミタマに駄目だと断られようとも、ミタマと生きていく人生を模索しようと心に決めた。
(不安がってる場合じゃない)
行動に移す事、突き進む事、振り返り悔やまない事。
んだ全ての選択がその時々で最良だったのだと思えるように。
紗紀は覚悟を決める。
「すまない。笑い過ぎたね。……顔を見せて、紗紀」
ひとしきり笑って紗紀の耳元でそう囁く。
けれど紗紀はその手を降ろそうとはしない。
ミタマはイタズラにその手に口付けをしてみる。
紗紀はクスクスとくすぐったさに身をよじり顔を見せた。
ミタマは紗紀の頬に両手を当てて口付けをする。
軽いものから順に、下唇を挟み、角度を変えて口付けをしてそれは次第に深いものへと変わっていく。
しばらく口付けを#堪能__たんのう_#していると、思い出したように紗紀がポンポンとミタマの肩を数回叩いた。
それでも尚やめようとしないミタマの肩をもう一度叩く。
やっと離れて息を吐き、吸い直すと紗紀はミタマを見上げた。
「こんな事してる場合じゃないです!まずは供養しないと……!!」
そう言って紗紀は立ち上がると優一を探しに部屋を飛び出した。
こんな事、と言われた事に落ち込みつつも。
それもそうだと立ち上がる。
ミタマも紗紀の向かった方へと足を向けた。
◇◆◇
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