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2 月明りの下で
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しおりを挟む私の何気ない感想に秋月さんが小さく笑う。その瞳がまっすぐ私を捉えるのと、私が彼を見るのはほぼ同時だった。
「九重社長は――大切な方ですから」
「――っ」
まっすぐ、心地いいトーンが私に向けられる。
やっぱり……いつもよりお酒飲みすぎたかもしれない。
その証拠に心臓のあたりが……いつもよりうるさくて、頬がちょっぴり熱を帯びていくのがわかる。
秋月さんはいつも、こうやって私を立ててくれる。秘書の鏡だと毎回感心してしまうけど……その一方で、社交辞令だとわかっているのに嬉しいと思ってしまう自分がいて、時々どう反応していいかわからない。
「……ありがとうございます」
信号が青になる頃、ようやくお礼を伝えることができた。
秋月さんがアクセルを踏んで車が動き始めると私も社交辞令を返すことにした。
いや、社交辞令じゃない。口にしたのは――事実だ。
「LUNARIAの皆さんはCOCONOEにとっても大切な人達です」
「恐縮です」
秋月さんは前を向いてまた運転に集中している。だから私もまた窓の外へと視線を移した。ガラスに映った自分の顔はなんとも言えない表情だったけど、アルコールのせいで確かに頬に熱を帯びていた。
沈黙が少し気まずく感じるのはこの妙な空気のせい。何か話題を――そうして私は再び口を開いた。
「こうして話していると、秋月さんが元モデルって忘れちゃいそうです」
「そうですか?」
初代LUNARIAのイメージモデルだった秋月さんは確か高校時代にスカウトされて読者モデルからモデルのキャリアをスタートしたと聞いている。
だけどその整った顔と186㎝の身長を世間が放っておくはずもなく、みるみるうちにSNSで大人気に。その後モデルとしてのキャリアも順調に築いていた。
LUNARIAを立ち上げるにあたって久世社長がこだわっていたのがブランドイメージにもなるモデルで、まさに秋月さんはぴったりだった。
立ってるだけで絵になるのに、性格も穏やかで優しくて、だけどカメラの前では色気が出てかっこいい。
女の子なら一度は秋月さんとお近づきになりたいって思うはず。それぐらい――彼の容姿は目を惹く。久世社長と並んで業界では有名人。
「最初は“秘書”の秋月さんの方が違和感があったけど……今ではすっかり久世社長の右腕ですね」
「ありがとうございます」
秋月さんがモデルを辞めてLUNARIAに就職、しかも社長秘書になったと知った時は業界に激震が走った。私も驚いた1人だったし、伝えた通り最初は違和感があった。
だけど今は違う。
いい意味で元モデルのオーラが消えて、優秀な秘書としてLUNARIAには欠かせない存在だ。
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