儚げ社長は一途な年下秘書に密やかに溺愛される

椿綾あこ

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3 戸惑いの日々

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「こちらがサンプルです」
「ありがとうございます」

 会議室のテーブルに並べられたのは自社ブランドのひとつ『FIORE BLANC(フィオーレ・ブラン)』の新作フレグランス。
 
 “白い花”をコンセプトにした大人のためのコスメ・美容ラインで凛とした華やかさと気品を漂わせる FIORE BLANCは定番のフレグランスに加えて、来春新しい香りの限定フレグランスの発売を予定している。

 暦の上では秋でも、まだ残暑が残る9月。だけど新商品の企画、開発には長い時間がかかる。

 今日は試作品の確認のために朝から第二会議室に役員と商品開発部、それから技術職の社員達が揃っていた。

 促されるまま、テーブルに並んだボトルのひとつを手に取る。パッケージのデザインはまだ決まってないのでただのスプレーボトルなのがちょっと寂しい。けれど仕方のないことだ。

 透明なボトルの蓋を開けて、まずはボトルのまま香りを確かめる。

 柔らかくて、春を感じる香り――けれど、少し薄いかも?
 もうちょっと桜の香りが強くてもいい気がする。

 今度は空中に吹きかけてみる。うん、やっぱりあまり春っぽさは感じない。

「もう少し香りが強くてもいい気がします。茉乃ちゃんどう思う?」

 他の役員達も意見を述べる中、私が意見を求めた茉乃ちゃんが同じように香りを確かめる。

 茉乃ちゃんは社内随一のおしゃれさんだし、美意識も高い。それに、ウチのブランドが大好きだから、いつも的確な意見をくれる。だから茉乃ちゃんの意見はいつも安心感がある。

「そうですね……柔らかいと言うより、ちょっと爽やかな感じなので、社長のおっしゃる通り、もう少し桜の香りを強めた方が春っぽさが出そうですね」

 私と茉乃ちゃんの意見に他の役員達が頷く。

 技術職の社員が「そうですか」と小さく肩を落とす。苦労して作り上げてくれるものを簡単に否定するのは心苦しい。だけどこれが社長の仕事のひとつ。会社と顧客のために、はっきりと言うべきことは言わないといけない。

 少し空気が沈む会議室。それをフォローしてくれたのは、専務と常務の秘書を務める優秀な人だった。
 
「けどこの爽やかさは強い香りが苦手な人には良さそうですよね」

「それは私も思います。高梨たかなしさんの言う通り、女性の中にもフレグランスを使いたいけど、強い香りが苦手な方は一定数いますし」
 
 茉乃ちゃんの先輩である高梨香澄たかなしかすみさんは茉乃ちゃんと同じく優秀な秘書。入社時から秘書課に配属されて、順調にキャリアを積んでいて、秘書としてのあれこれを茉乃ちゃんに教えてくれた。

 茉乃ちゃんとは違うタイプの美人で、空気が読める。今も悪くなった空気を一瞬にして変えてくれた。

 視線で感謝を伝えると高梨さんは小さく頷いて、それからまた一歩下がった。
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