15 / 15
3 戸惑いの日々
5
しおりを挟むそれこそ――この前は大変だった。
先日あの日以来、初めてYoruiの打ち合わせがあって、私は茉乃ちゃんや社員達とLUNARIAに向かった。
だけど無意識に身構える私とは違い、秋月さんはいつも通り、完璧な秘書だった。久世社長の後ろに一歩下がって、要所要所で発言し、場を潤滑させた。
私はというと……秋月さんが気になって、最初は集中するのに苦労した。視界の端に秋月さんが入る度に、あの告白みたいな言葉を思い出して、顔が赤くなってしまいそうだった。
だけど後半は持ち直して、お互いブランドのことを考えて話し合いに熱中した。その時だけは秋月さんが私を好きかもしれないって雑念が振り払われた気がする。
結果的に茉乃ちゃんが時間が過ぎていることを指摘してくれて、なんとか打ち合わせは終わった。
だけどその瞬間、秋月さんの言葉をまた思い出して、なんとかいつも通りを装った……つもり。
今のところ誰からも「なんか最近いつもと違います」って指摘されてないから、私がこうやって秋月さんのことを考えていることは誰にも気づかれてないと思う。
昨日別れ際まで秋月さんはいつも通りだったし、やっぱり私が過敏に反応してるだけ?
「……もうわかんない……」
ぶんぶんと首を横に振って、せめて日中は仕事に集中しようと考える。――けど無理だ。
秋月さんのあの言葉と表情が私を混乱させて、私を私ではいられなくする。
私は社長で、彼は大切な取引先の社長秘書。
まして、私は彼を恋愛感情で見たことはない……と思う。素敵な人だけどそういうのじゃない。
だけど彼は……? 私のことどう思ってる?
あの言葉の意味を知りたい。けど知るのが怖い。
「どう怖いんだろう……。秋月さんが私を好きかもしれないってこと? それとも……私が勘違いしてるだけかもしれないってこと?」
2つの可能性を並べて、また気持ちが落ち着かない。
答えを知っているのは私じゃなくて、彼。秋月さんが口を開かない限り答えを知ることはできない。
もどかしさに、つい彼に自分から連絡をしたくなる。
彼のプライベートの連絡先は知らない。けれどお互い仕事用のスマホを持っているので、そっちの電話番号やメールアドレスは知っている。だけど、基本的に秋月さんと連絡を取り合うのは茉乃ちゃんだから、直接連絡をしたことはない。
スマホを手に取って、連絡先から秋月さんを探す。その名前を文字で見ただけで、またあの光景が頭の中に浮かび上がる。
「――っ!」
慌てて画面を閉じて、深呼吸をひとつ。
今からお昼とはいえ、まだ仕事中。これ以上考えるのはやめて、午後からも仕事に集中したい。私は社長だから、ちゃんとしないと。
数分もしないうちに茉乃ちゃんが社長室の扉をノックする。
「椛乃社長、準備できました」
幸せいっぱいの茉乃ちゃんの声がする。私は慌てて返事をして、それからランチに行く準備を急いだ。だけど、心の奥には――あの夜の月明かりと秋月さんの柔らかくて真剣な表情が、まだ残っていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる