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4 冗談のつもりだったのに
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しおりを挟む一瞬、何を言われたのか脳が処理できなかった。音は届いているのに、意味がついてこない。
信じられない。まさか、そんな言葉を――。
数秒遅れて、ようやく頭の奥で「カチン」と何かが弾ける。
今、この冷徹社長なんて言った?
確かに私は見た目には自信がある。椛乃社長と『花園』と呼ばれてちやほやされているのも嫌がってない。見た目には人以上に気を使ってる。
だけど――それを理由で秘書になったわけじゃない。確かに椛乃社長に実力を認めてもらって、社長秘書になったはず。
こんなこと言われる筋合いはない。
創業5年で急成長を遂げたLUNARIAの敏腕社長が取引先の社長秘書相手にこんなことを言うなんて。――こんなの例えお酒の席の笑い話でも容認できない。
言い返さないと。
どうしよう。どうやって言い返してやろう。
私が驚きで黙っているのが面白いのか、久世社長は鼻で笑ったように、ふっと息を吐く。
「図星か?」
馬鹿にしてる。私のこと。こんなこと言われる筋合いないのに。
ムカつく。本当にムカつく。この失礼極まりない態度を崩してやりたい。ここまで言われたのだから、言い返しても問題ないはず。
ごめんなさい、椛乃社長。
心の中で謝って、背の高い男を見上げる。その冷たくて、私なんてどうでも良さそうな瞳を見て、ひとつ思い付いた。
「……試してみますか?」
ゆっくりと私は口角上げた。睨んだ態度から一転、少し甘えた声と落とせば、肩に掛けていた仕事用のトートバッグを床に降ろした。
伸ばした指先は久世社長が着ている高そうなスーツのジャケットへ。
「そこまで言うなら、試してみます? 私の身体。久世社長のご自身の手で」
甘える声と共に擦り寄るように自ら近づく。
もちろん冗談だ。
少し慌てる顔が見たい。そうすればこんな酷いことを言ったことを後悔するだろう。
可愛いよ、とみんなに言われる笑顔のまま久世社長を見上げる。身長差のせいで簡単に上目づかいで見つめることが出来るのは助かった。
「……味わってみますか? “わがまま秘書の身体”、なんて」
こんな風に誰かに迫ったことはない。ここ数年フランクな恋愛は何度かあったけど、こんな風に誘惑しなくても大抵相手から寄って来る。だけど慣れてないなんて思われたくない。
「……そうか」
急に態度を変えた私を見て、久世社長の瞳が少しだけ驚きの色を見せた。やった、その驚いた顔が見たかった。人のこと馬鹿にするから。
さっ、いいもの見れたし。本来の言うべきはずの文句を――と掴んだジャケットから手を離す。
「――わかった」
「へ?」
だけど手が別のものを掴んだ。正確に言えば、腕を掴まれた。大きくて力強く、逞しい指先に。
「そこまで言うならその身体、試させてもらう」
続いたのは悪魔のような囁き。一段と低く、だけど甘く感じた声が近づいたのは、久世社長の唇が耳元に落ちてきたからかもしれない。
ドキリと心臓が跳ね上がる。
おそるおそるもう一度見上げると、冷徹社長の瞳が私を捉えていた。まるで新しいおもちゃを見つけたみたいに、ほんの少しだけ口角が上がっていた。
こんなつもりじゃなかったのに――。
言葉にした途端、全部冗談じゃ済まなくなる気がして、息が詰まりそうになった。
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