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9 このままじゃ
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しおりを挟むやだ……思い出したくないのに。
思いっきり頭を振って、浮かんだ元彼――いや、勝手に彼氏だと思っていた人の面影で振り払う。まだ新入社員で椛乃社長と広報部で働いていた時に出会ったあの人。その姿を思い出したのは随分久しぶりだった。
人の心を動かすのが上手な巧み話術に、女性を喜ばせるスマートな仕草と安心するような甘いマスク。誰もがあの外面に騙されている――だけど私は知っている。今は良きパパ面しているアイツが……裏でどんなことをしていたかを。
東雲圭吾。多分今35歳。
大手広告代理店の営業の若きエース、次期部長の最有力候補。
COCONOE化粧品に入社したばかりの頃、仕事関係で出会った。
顔も良くて、話が面白くて、年上の余裕にすぐ惹かれた。毎日着飾って仕事をする私を何度も「可愛い」と褒めてくれた。
食事を何度か一緒にして、デートにお泊り。その頃には私は完全に付き合ってるつもりで周りには「素敵な彼氏がいるんだ」って自慢してた。年上で、かっこよくて、大手広告店の営業のエース。お金にも余裕があって、そんな人に愛されている自分に溺れていた。
だけど、1年以上続いた関係は簡単に終わった。
理由は単純。――私は彼の本命ではなかった。
彼が別の女性と婚約したと聞いた瞬間、心臓が止まりそうだった。すぐに電話をかけて――問い詰めた私に、彼は笑った。
あれだけ私に「可愛い」「愛してるよ」と言っていた唇が「付き合ってと言ったつもりはないよ」って余裕の笑みを浮かべながら私を否定した。「君もわかってると思ってたよ」なんてわざとらしい言葉で。
あの日のことは――まだトラウマとして身体に刻みつけられている気がする。
確かに思い返してみれば、彼は私に告白をしてこなかった。好きとは言われたことはあるが具体的なことははっきりと何も言ってくれなくて、だけど恋に溺れていた私はそれに全く気づかなかった。
私は若くて、可愛くて、遊び相手を探していたあの人にとって、丁度いい存在だった。
都合のいい女扱いされていた。その記憶が今蘇る。
あの人との関係が終わって、そのあとすぐに猛アピールして来た人とほんの数ヶ月付き合ったけど、好きになれなかった。それにまた都合のいい女扱いされるのが怖かった。
結果として、すぐにその人とも別れちゃったのは、確実のあの人の存在が影響している。
私はもう……ただの“都合のいい女”にはなりたくない。
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