わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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9 このままじゃ

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「では、何かあればお呼びください」
「ありがとう。茉乃ちゃんもゆっくりお昼取ってね」
「ありがとうございます」

 経理部との会議が終わると、椛乃社長に向かって軽く頭を下げて、秘書室へと戻る。

 椛乃社長はこのあと専務と常務と食事に出掛ける。行先は私が一度は行きたいと願っているフレンチ。同席出来るかなって思ってたけど、秘書の同席はなし。恐らく、内々の話でもあるのだろう。
 
 ちょっと残念だけど、またの機会を狙うことにしよっと。

「ただいま戻りました……って誰もいない」

 秘書室に戻って時間を確認すると11時30分を過ぎたところ。ホワイトボードを見ると、それぞれみんな離席中のようだ。

 だったらちょっと早いけどお昼に行こうかな。持って帰って来た資料は午後から議事録にまとめたらいい。取り敢えず書類の振り分けだけしておこう。

「これはC社、これは経理関係……これは……Yorui」

 名前を出すだけで身体が疼く。デスクの引き出しからYorui用ファイルに手を伸ばせば、頭の中に浮かぶのは久世社長の姿だ。

 ムカつく……なのに、頭から離れてくれない。

 スケジュール帳を開く。ぎっしりと入ったスケジュールを見て安心した。紙に指を這わせて日にちをカウントする。いち、に、さん、よん……指が”LUNARIA”の文字に触れるまで全部で15日カウントが進んだ。
 つまり、何もなければ15日間久世社長に会わなくて済む。

「でも……油断はできない。また突然、予定外のミーティングが入るかもしれないし……」

 昨日だって、そうだった。だから油断しちゃダメ。いつ秋月さんから連絡が来るかわからないし、久世社長からメールが来る可能性だって……。

「……よかった来てない」

 メールボックスを開いて受信メールを確認。久世社長からを含め新しいメールは来ていない。

 安心した途端、あの低音がふいに耳元に囁く――わがまま秘書、と。
 記憶による幻聴だとわかっていて、耳をぎゅっと手のひらで抑える。瞼をきつく閉じたのは一秒でも早く頭の中の久世社長を追い払いたいから。だけど――簡単に出て行ってはくれない。


 誰かのことをずっと考えてるなんて――あの時以来だ。


 そう考えた時、また思い出したくない姿が脳裏に浮かび上がった。
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