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12 カリスマ社長の思わぬ誘い
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しおりを挟むふいに視線を隣の久世社長へと向ける。いつも私を混乱させるあの瞳が真っすぐバイヤー達を見つめていて、私を一切見ない。
当たり前か、大切な商談の席なんだから。
「そこまで言うなら……」
それまで時折意地悪とも取れる指摘を繰り返していた中央のバイヤーが、咳払いひとつ。それから隣の2人と目配せ。言葉にしなくても伝わる。これは間違いなくいい兆候だ。
椛乃社長、やりましたよ。
今頃飛行機に乗っているはずの尊敬する社長へ心の中でメッセージを贈る。早く、この話を椛乃社長に届けたい。逸る気持ちが無意識に口角を上げた。
すると――。
「黒瀬さん」と名前を呼ばれて視線を向ける。私を呼んだ正面のバイヤーが手に持ってるのは、先程まで一切手に取られなかったYorui秋冬ラインのサンプル。
「若い女性としてこちらの商品の魅力があれば、ぜひお声が聞きたいです」
思ってもない問いかけ。だけど口を開くのは簡単だった。
「久世社長のおっしゃったことが全てです。“夜に咲く、私だけの香り”。都会の喧騒を忘れさせるような静かな誘惑のコンセプト通り、特別な夜を迎える時、自分へのご褒美をあげたい時にはYoruiの商品を手に取りたくなります。女性はいつだって自分を着飾りたいんです。私なんかは特にそうなんで……。Yoruiは、さりげない美しさを引き出してくれるブランドです。鏡を見ると、ちょっとだけ“いつもと違う自分”が映って、『うん、今日の私可愛いかも』って思える。つい、声に出しちゃうくらいです。そう思う女性はきっと多いですし、美に性別も年齢も有りません。男女、年齢問わず、誰だってYoruiを使えば自分に自信が生まれるし、誰にも会わない日に自分を着飾って幸せに浸れる――それがYoruiです」
どこで息をしたかもわからない。
元々コスメや美容品が好き。だからそれを言葉にするのは私にとってはご褒美。女子会なんかで最新美容品について力説するのはいつだって私の役目。
ただ……ここは商談の場。
話をしている時は内容に夢中で目の前が見えなかった。だから話し終わって視界が明るくなった時、3人のバイヤーの目が私に向いているのを気づけば急に恥ずかしさが込み上げてきて、頬が一気に熱くなる。
「すみません、上手くまとめることが出来なくて……」
どうしよう。調子に乗っちゃったかも。馬鹿なこと言っちゃったかな……?
せっかく久世社長が上手くリードしていた商談。私の余計な一言で空気感が戻っちゃったら……そんな不安を吹き飛ばしてくれたのは、久世社長だった。
「この様にYoruiには熱心ユーザーが多くいます」
「……ふっ、その様ですね」
面白いと言わんばかりにバイヤー達が笑い出す。よかった、悪い空気にならなくて。安堵の息を吐いた時、バイヤー達と久世社長が席を立った。
「では詳細については改めて九重社長とご提案にお伺いします」
決まりだと言わんばかりの久世社長の力強い一言。バイヤー達と久世社長が握手をしたのを見て、私も立ち上がり「ありがとうございます」と頭を下げた。
腕時計で時間を確認すると、予定より15分も早く話がまとまっている。
……ちょっとかっこいいなんて思っちゃった。
堅い握手をする久世社長に抱いた尊敬の念。この人と私キスしたんだ……そんなことまだ考えてる自分が嫌になっちゃう。
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