わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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12 カリスマ社長の思わぬ誘い

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「上手くいってよかったですね」
「ああ」

 帰りの車内でも場を和ませてくれるのは秋月さん。無事に商談がまとまって、彼も嬉しいのだろう。それとも久世社長の隣に座る私に気を使っているからか。

 どちらにせよ、一仕事終えた私はすっかり肩の力が抜けて、座り心地のいいシートに身を委ねている。

「黒瀬、こちらからも九重社長にはお伝えするが、君からも一言連絡があれば安心するだろう」
「もう連絡済です。恐らくまだ移動中なので返事はないですが、久世社長からも連絡がある旨もお伝えしています」

 あんなにも上手くいった商談はあまり見たことない。もしも椛乃社長がいたら私以上にびっくりしていたかもしれない。そのせいだろうか、肩の力は抜けても、どこか胸の辺りが騒めいている。上手く言葉に出来ないけど、面白い映画を見たかのような小さな高揚感がある。

「九重社長もきっと喜ばれますね」と会話を回す秋月さんに返事をして、ちらりと隣を見る。私と秋月さんは嬉しそうなのに、久世社長の表情は変わらない。

 難航すると思われていた商談がまとまったのに、笑顔のひとつもない。こういうところが苦手……だけど、さっきは久世社長の実力を肌で感じられた気がする。心臓のソワソワもきっとそのせい。

「黒瀬秘書」
「はい?」

 COCONOE本社ビルに向かう車内。丁度信号待ちになったタイミングで久世社長の低い声が響く。窓の外を見ていた久世社長の瞳がゆっくりと私を捉えた。いつもと変わらない、冷たくて、品定めしているようなこの視線は苦手だ。……最近は特に。

 とっさに身構えたのは経験からの防衛本能。
 しかし、今日の久世社長はどうしちゃったんだろう。形のよい唇が紡いだ続きに驚いた。

「さっきはいい発言だった」
「……え?」

 淡々とした、まるで命令する時と同じようなトーン。だけど――今、褒められた……?

「久世社長?」

 零れ落ちる戸惑いが、心臓のリズムを乱す。聞き間違えかもしれなくて、聞き返すがそれ以上久世社長は何も言わなかった。

 これまで久世社長に褒められたことなんて一度もない。なのに――今、この人は私を褒めた。しかも大切な商談中の発言について。自分では話過ぎたと思ってしまったあの発言を。

「私も素敵だと思いましたよ。黒瀬さんの会社に対する気持ちが滲む素敵な言葉でした」

 何も言わない久世社長の代わりに秋月さんがまた場を和ませる。だけど、そんな言葉右から左に抜けて行った。そんなことより、もう一度久世社長から聞きたい。

 よくやった、と。心地良い低音を響かせてほしい。

 バカみたい……ちょっと褒められただけなのに、心臓の奥がざわめくようなこの感じは、なんなんだろう。

 多分それもこれも――難しい商談をまとめる姿を見たせいだ。込み上げる嬉しさと恥ずかしさに私まで窓の外に顔を背けた。そうしないと指摘されてしまいそうだったから。

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