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12 カリスマ社長の思わぬ誘い
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しおりを挟むそれから10分もしない内に車はCOCONOE本社ビルへと到着した。エントランスの前で車が停まれば、恥ずかしさと頬の熱をなんとか抑えて改めて久世社長の方へと身体を向ける。
「久世社長。本日は急なことにも関わらず、ご対応いただきありがとうございました」
座ったままの形になるが、頭を下げて今日のお礼を。今回は完全に久世社長に助けられた。もしも今日の商談がYoruiではなく、通常の商談だったら同じ結果にはならなかっただろう。
その点においてはYoruiというブランドをLUNARIAと立ち上げた椛乃社長の千里眼が優れていたってこと。やっぱり椛乃社長は凄いと思うと同時に――久世社長の実力を認めた午後になってしまった。
頭を上げると、私はバッグからある物を取り出し、久世社長へと差し出す。
「こちら九重からのお詫びです」
COCONOE側からすれば今回は本当に久世社長に助けられた。なのでお礼をするのは当然のこと。あのバタバタの中、椛乃社長は私にお詫びの品を用意するように指示していた。
お洒落で艶のあるセピア色の小さな封筒には都内高級ホテルの名前が刻んである。見る人が見れば中身は簡単に分かってしまうだろう。
これは都内有数の高級ホテル内にあるフランス料理の名店の食事券。2名分のフルコースを味わうことが出来る券で、椛乃社長が提案し、午前中に慌てて用意したもの。
しかも、今回の件を重く受け止めた椛乃社長の心遣いで一番高いコースを楽しめる。値段は口にしないが、私はその値段の料理を食べたことがない。
「ホテル内にあるフランス料理店の食事券になります。2名様でコースをお楽しみいただけます」
「そうか。――秋月」
私の説明を聞いた久世社長がそっと食事券を受け取る。私をいつも翻弄する指が封筒の文字をなぞるとそれだけでゾクリと背筋が震えそうになる。
「かしこまりました。社に帰り次第、お礼の準備を」
「ああ、頼む」
名前を呼ばれただけですぐにメモを取る秋月さん。その様子を見れば彼も優秀だということを、改めて認識する。
さて、これで今日の任務完了。久世社長達にも次の予定があるだろうし、さっさと車から降りようと「本日はありがとうございました」もう一度挨拶と感謝の気持ちを伝える。
「黒瀬秘書」
だけど後部座席のドアを開けて、車から降りた私を久世社長の声がまた止めた。
「はい?」
「土曜日の夜は空いているか?」
「え……?」
なに? いきなり……?
土曜の夜……というと3日後。今のところ予定はない……けど。
「空いてます……が、何か?」
何の確認だと疑問を抱く。だけど久世社長の表情は真っすぐ私を見つめていた。あの私を麻痺させる瞳が、私を捉えて、息をするのを忘れさせる。
「わかった。6時にホテルのラウンジに来い」
「へ……?」
「遅れるな」
わかったな、そう続ける久世社長の唇。私はあの唇とキスをした。
そしてその唇が私をまた混乱の渦に落としていく。
「以上だ。――秋月、だせ」
「かしこまりました」
返事をする時間はなかった。言葉の意味を理解している間に、自然な形で秋月さんに車から離れるように促され、ドアが閉まると、車が動きだすまでは早かった。
「……何いまの……?」
今日は次から次へと驚くことが起きる。
さっきは初めて久世社長に褒められた。それだけでも、動揺している。だけど今のやり取りの方が、遥かに衝撃的だった。
「……今……デートに誘われた?」
心臓の鼓動がうるさい。このままだとすれ違った人にも聞こえちゃう。それぐらい、リズムが乱れている。
苦手だった社長からの一方的な調教宣言、そして独占宣言――キス、そして今度は食事の誘い。
次々と起こる展開にそろそろついて行けそうにない。
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