わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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13 初めて知る、新しいなにか

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 食事ひとつでこんなにもドキドキしてる。

「……なんか違うかも……」

 着ていたオフホワイトのセットアップを脱いで、ベッドの上に放り投げる。既に何着も服がベッドに放り積み重なって、山みたいになってる。
 
「じゃあ……ネイビー?」
 
 次に手を伸ばしたのはシフォン素材のワンピース。全身鏡の前で身体に合わせてみる。これだとちょっと重たいかな? もうちょっと明るい色の方がいいかもしれない。

「もうわかんないって……何着ればいいんだろう」

 クローゼットに並ぶお気に入りの服たちと、下着姿のまま睨めっこ。土曜日の昼間から何してるんだろうとちらりと時計を確認。もう2時を過ぎている。約束は6時。移動時間を考えても5時には家を出ないといけない。

 あと3時間もあるのに、全然余裕なんて思えない。時間が迫ってるだけで焦っちゃう。

「あんまり決めて行っても誘ってるのかって言われそうだし、堅くすると意識してるって言われそうだし……」

 ぽんっと頭の中に浮かぶ存在。

 今日、あの久世社長と食事に行く。しかも場所は都内有数のフレンチ。

 この前香澄さんが会食でフレンチに行くと聞いた時に私も行きたいって思ったけど……これは望んだ形じゃない。だって相手は久世社長なんだから。

 数日前の商談のお礼とした椛乃社長が用意した食事券。確かに2名分のコースが楽しめるものを用意したけど、まさか誘われるなんて――こんなの予想外。

 「これって……デートなのかな?」

 声に出すだけで身体が疼いて思わずぎゅっと自分を抱き締める。下着姿で鏡に映る私は頬を染めていて、自分じゃないみたい。こんな風に食事に誘われたことは何度もあるけど、服ひとつ選べなかったことなんて一度もない。

 お洒落が好きな私にとって服を選ぶのはご褒美。だから、出掛ける準備をする時はいつだってワクワクして、テンションがあがる。

 だけど今日は違う。相手が久世社長ってだけで、こんなにも緊張して服ひとつ選べない。

「待って……今日ってその……ご飯だけだよね……?」

 ハッと気づいてまた鏡と向き合う。

 久世社長の考えていることはわからなくて、何をされるかも、何を言い出すかも謎。今日もまた一方的な何かをされるかもしれない。

 キスもキス以上だってもうされてる。あとされてないことって言ったら……。

「……っ! や、だ、私、何考えて……!」

 ぶんぶんと首を振って記憶を追い払う。やだ、こんな想像したくないのに。

 久世社長のことだから「上に部屋を取ってる」って展開だってゼロじゃない。だってもうあの人にされてないことと言ったら……うん、それしかないんだから。

「下着も選び直さないと……ってだから! そんなこと考えちゃダメ!」

 もしもの為に下着も可愛いものにしておかないとなんて、考えたくもない。だけどどうしても考えてしまう。

 こんなの……まるで久世社長に手を出してもらいたいみたい。
 いくらこの前の商談でちょっとカッコよく見えたからって……どうかしてる。

 また時計を見る。服を選んで、下着も選んで、メイクに、髪、アクセサリー、そっかバッグと靴も選ばないと。
 時間が足りない。久世社長に会う準備をする時間が。

 「こんなのバカみたい……」

 なのに、頭から離れてくれない。

 ――お前はもう俺のものだ。

 あの低い声が、私を麻痺させる瞳と身体を撫でた指先。整った顔も全部、今は簡単に振り払えない記憶なのだから。
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