わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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13 初めて知る、新しいなにか

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 穏やかなクラシックが流れるホテルのラウンジを見渡して待ち合わせ相手を探す。だけど背の高い彼の姿は見えない。
 約束の時間まで残り15分。少し早く着きすぎたみたいなのでラウンジソファに座って、クラッチバッグの中から丸い手鏡を取り出す。

 うん、大丈夫。いつも通り可愛い……はず。

 いつもならもっと自信がある。だけど今日は鏡に映る自分が違って見えるせいで、自信が持てない。

 悩みに悩んで選んだのは、くすみピンクのワンピース。袖口がチュール素材でウエストが軽く絞られたフレアシルエット。胸元は浅めのVラインで、あんまり派手じゃないけど、歩くたびに揺れる裾の感じとか、ほんのり艶のある生地がお気に入りの一着。

 髪は、迷った末にポニーテール。いつもより少し高めに結んで、くるんと巻いた毛先が揺れるように。結び目は髪で隠して、耳元にはゴールドのピアス。首元にも小さなゴールドのネックレスを。足元のヒールは7㎝。

 メイクも全体的に可愛く仕上げられたと思う。夜のデートなので口紅だけいつもより濃い赤にしたけど、おかしくはない。

 久世社長……どう思うかな? また品定めするように私を見るのかな?

 私服を見られるのは初めてだから、反応が分からなくて怖い。そんなことを考えていると――視界の端に背の高い男性が入り込んだ。

「――あ……っ」

 ほんの一瞬だけ、呼吸が止まった。

 深いダークネイビーのスーツ。合わせた黒いシャツのボタンは上からひとつだけ外れている。――そこから覗く首元には嫌でも目が向いてしまう。

 背が高いこの人は、歩いているだけで絵になって、周りの視線を奪う。
 認めたくないけど、いつも服のセンスがいい。全部が整いすぎてちょっと怖いぐらい。

 久世社長だった。私を見つけてゆっくりと近づいてくる。慌てて立ち上がって、私からも歩みを進めると丁度ラウンジの中心でぴたりと向かい合う形になった。

「逃げずに来たか」
「久世社長……えっと、今日はありがとうございます」
 
 視線を合わせるのが恥ずかしくて、目線は久世社長の胸の辺りへ。スーツ越しでも鍛えられていることが分かる胸板。そこからそっと、ゆっくり上を向けば、久世社長のあの瞳が私を見ていた。

 いつもの様に、ねっとりと品定めするようにじっと見られる。
 変な格好はしてないはずなのに……恥ずかしさに思わず頬を膨らませてしまい、つい反抗的な態度を取ってしまった。
 
「……なん、ですか?」
「……いや。――行くぞ」
「ちょっと……!」

 だけどそんなの効果なし。くるっと踵を返した久世社長がまた歩き出すので慌ててついていく。
 
 こういう時……普通服を褒めてくれるんじゃないの?

 これまでデートしてきた相手は、いつだってすぐに「可愛いね」と褒めてくれたのに……。

 けど簡単に褒めない辺りが久世社長らしいといえば久世社長らしい。そこまで考えた私はあることに気づいた。
 
 私――いつから久世社長に褒められたいって思うようになったんだろう?
 
 
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