わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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13 初めて知る、新しいなにか

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 次々と運ばれてくる料理はどれも絶品。一緒に来てるのが友達や椛乃社長だったら私は「美味しい」と繰り返し、それこそ食べる前に写真を撮っていただろう。もちろん、その場合こんな高級店には来てないはず。

 メインの肉料理が運ばれるとペアリングされた赤ワインが運ばれてくる。料理だけじゃなくて、ワインも舌触りよくて飲みやすい。飲み過ぎないように注意しないと、そんなことを考えながらちらりと目線を上げる。

 アルコールで少し頬が熱い私と違って久世社長の顔色は変わらない。会話も最小限。時折私が話掛けても短い返事が返ってくるだけ。食事は美味しいけど――正直会話は楽しくない。

 またいつもの売り言葉に買い言葉のキャッチボールをしてる時の方がマシかも……って思うのはおかしいのかな?
 
 その原理だともっと久世社長と話したいみたいで悔し。そんな感情を抑えながら一口サイズに切った肉料理を口に運ぶ。しっかりと味を噛みしめようとするけど柔らかすぎてすぐに溶けてしまう。……めちゃくちゃ美味しい。
 
 ――てか、この人……今、私と一緒にフレンチ食べてて楽しいの? 会話もなく、ただ料理を食べてるだけで満足?
 仮にも勝手に自分のもの宣言してる相手なんだから、もうちょっと持て成すとかしてほしい。それこそ、2時間もかけて服選んだんだから……褒めてくれてもいいのに。

 大体、どうしてこの人は私のことを誘ったんだろう?
 
「あの……久世社長」
「なんだ?」
「どうして……私を誘ったんですか?」

 どうしても気になって純粋な疑問をぶつける。

「久世社長なら、相手いくらでもいると思って。どうして私なのかなって思って……」

 ナイフとフォークを持つ久世社長の手が止まる。少し呆れたような声が続いた。
 
「……何を今更」
「だって……久世社長、私のこと仕事出来ないって思ってるじゃないですか。いつも嫌味ばっかり言ってくるし。確かに秘書歴はまだ2年くらいで、まだまだかもしれませんけど……。こう見えて、椛乃社長からはちゃんと信頼されてるんですよ?」

 誘った理由を聞きたかっただけ。なのに、気がつけば文句を零していた。これもアルコールのせい……ってことでいいかな?

 久世社長の指先がカトラリーをおく。伸ばした指先が絡めたのは赤ワインの入ったワイングラス。それだけで充分絵になる。どうせ私の文句なんて「わがままな秘書がまたなんか言ってる」ぐらいに思ってる。

 ――と、思っていたのに。

「お前がちゃんと仕事出来ることは知っている」
「え……?」

 ワインに濡れた唇がゆっくりと動く。紡がれた声は淡々としていたが、予想外の反応にきょとんと瞳が丸くなった。

「九重社長からお前の仕事ぶりは聞いている。忙しい九重社長が日々スムーズに仕事に取り組めるのは、お前のスケジューリングが完璧だからだ。Yoruiの件で定期的に九重社長と顔を合わせられるのも秋月とお前の努力のお陰だろう」
「……ありがとうございます」

 ただでさえ落ち着かない心臓がまた騒めき始める。久世社長に褒められるのはこれで2度目。前回は商談の帰りの車内。だけどあれは商談中の発言についてだった。
 日頃の仕事についての評価を聞くのは初めて、「身体を使ってるのか?」と嫌味を言った人と同一人物とは思えない。

「先日九重社長と食事した際もお前のことを褒めていた」
「椛乃社長が?」
「ああ。あの人は会う度にお前のことを褒めている。頼りになる後輩だと」
「……後輩?」

 九重社長と食事に行ったことも驚きだが、それ以上に違和感のあるフレーズに首を傾げる。椛乃社長が“秘書”ではなく“後輩”と呼ぶことは今となってはない。
 
「九重社長とは社長就任前から付き合いがある。広報時代から、お前の話は聞いていた」
「えっ!?」

 淡々と続く久世社長の説明に少しだけ大きな声が唇から飛び出た。慌てて口元を手で押さえるが、通りかかったギャルソンが一瞬こちらへ意識を向けたように思えた。恥ずかしい……気をつけないと。
 
「やけにやる気のある、可愛い後輩だと言っていた。人懐っこくて、努力家で――社長就任前には離れるのが寂しいと零していた。……それで――だったら秘書に抜擢すればいいと助言した」
「……ちょ、ちょっと待ってください!」
 
 次々と飛び込んで来る新情報に感情が追い付かない。手を前に出して待ったとかけると久世社長の瞳が私を見据えた。
 
 
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