わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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13 初めて知る、新しいなにか

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「久世社長が……椛乃社長に私を秘書にするように薦めたんですか?」
「結果論だけみればそうなる」

 胸の奥で何かが跳ねた。

 椛乃社長が社長に就任すると知った時、ショックだった。せっかく椛乃社長の役に立てるようになったと思っていたから。だからこそ「秘書職に興味はない?」と提案された時、大興奮した。

 それを提案してくれたのが――まさか久世社長だったなんて。

 アルコールで赤くなった頬を抑えると驚きと同時に恥ずかしさが胸の奥から込み上げてくる。同時にトクトクと鼓動も早くなって、――無意識に理由を求めた。

「どうして……ですか?」
「あの人は重圧が大きい。信頼できる人間を傍に置いた方がいいと思っただけだ」

 大したことはしてないと言わんばかりの態度。

 だけど私にとっては大ごと。

 だって尊敬して、大好きな椛乃社長と今も一緒に働けているのが久世社長のお陰だったなんて……。まるで借りが出来たような感覚。

「……ありがとうございます」

 感謝の気持ちを紡げば、久世社長は「ああ」とただ頷いた。――ってちょっと待って!

「じゃあなんであの時、身体使って秘書になったのかって――」

 頭を過る過去のやり取り。こんな関係になってしまったのは、久世社長が秘書になったのは身体使ってるって言い出したからなのに。

 つまり――あれば違うってわかっていてわざと挑発したってこと?

「お前がわがままで生意気だから揶揄っただけだ」
「――っ! ひどい!」

 意地悪! あの言葉かなりショックだったのに。悔しい……けどあの言葉のせいで、こうやって一緒に食事を取って、久世社長の評価を聞くことが出来ている。悔しいのに、複雑な気分だ。怒りたいのに――ちゃんと怒れない。
 
 もしかして――私が知らないだけでこの人私のこと結構知ってるのかも……。そう思うだけで、何でも見透かされたような感覚に慌てて口に放り込んだ肉料理の味もほんの少し薄れてしまった。

 最小限の会話しかしていなかったテーブルでほんの少し会話が続いた。このまま何か次の話題をと――少し考える。

 えっと、何か……話題。そうだ――せっかくだから。

「久世社長はどうして美容業界を目指したんですか?」
「……急にどうした?」
「いいじゃないですか別に」

 多分久世社長は思った以上に私のことを知ってる。だったら私だって久世社長のことを知らないとフェアじゃない。……なんて。こういうすぐ対抗することろが“わがまま秘書”って言われるのかも。

「父の影響だ」
「お父様ですか?」
「ああ」

 久世社長のお父さん。全然想像がつかない。LUNARIAは久世社長が立ち上げた会社だから両親はきっと一般人のはず。だけどこの気難しくて冷たい久世社長の父親を想像するだけで、堅苦しそうな人が浮かんで来る。

 秘書として取引先のLUNARIAの情報は集めているが、久世社長の御両親のことに関しては一切情報がない。もうちょっと深く聞いてもいいかな? もっと具体的なこととか。

 ワインで唇を湿らせて、続きを待つ。少しの沈黙のあと、久世社長の形のいい唇がまたゆっくりと動き出した。

「うちは幼いころに両親が離婚している。だけど俺に手がかからなくなった……高校2、3年の頃に父にも新しい出会いがあった。10年ぶりの出来事に一生懸命着飾る父を見た。それが今の義母だ。数年交際して、俺が大学生の頃に再婚した」
「……」
「義母は年の割には綺麗で、父はそんな義母の為に努力をしていた。そんな父の姿を見て、ちょっとしたことで自分に自信を与えることが出来る美容業界を目指した」

 何気ない質問だったはず。だけど予想もしてなかった返事だった。
 そっか、お父さんの影響なんだ。今の話を聞く限り、堅苦しい人ではなく、優しい方なのかもしれない。

 冷たく感じるこの人のルーツに少し触れた気がする。
 そしてその話にはちょっと親近感があった。

「なんかちょっとわかります」
「何がだ?」
「私も、昔からお洒落とかコスメが好きで、自分に自信を与えてくれるCOCONOEのブランドが大好きで……それで美容業界で働きたいって思ったから」
 
 久世社長の言葉を借りた形にはなるが、事実だった。その瞬間、ほんの微かに久世社長の口元が緩んだ……気がする。

「お前らしいな」

 いつもの冷たい低音もほんの少しだけ柔らかい。ドキッって心臓がまた震えた気配を抑える為に一気にワインで唇を湿らせた。

 たった今、知ったことを頭の中で羅列する。

 小さい頃に両親が離婚している。父親は再婚。それを見て美容業界を選んだ。

 椛乃社長とは広報時代からの付き合い。私を秘書にするように椛乃社長に提案してくれた。それに、言葉にしないだけでちゃんと私のことを評価してくれてる。

 それから……スマートに食事をする姿がかっこいい。

 心臓の音……早く治まってほしい。ちょっと褒められて、ちょっと知らないことを知っただけ。

 そのほんのちょっとが嬉しいなんて……それも全部このレストラン雰囲気のせいだ。

 
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