わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

文字の大きさ
64 / 109
14 二度目のキス

1

しおりを挟む

 デザートと食後のコーヒーを終える頃には、ガラス窓の向こうには綺麗な夜景が広がっていた。ロマンチックさが一段と増したレストランは満席。隣の席には40代ぐらいの夫婦が談笑しながらフレンチを堪能していた。

 美味しい料理を味わったあとの満足感にプラスされる小さな高揚感。

 久世社長の話を聞いたあと、また会話は最小限に戻ってしまった。その理由は顔が赤くなったことを指摘されて「食事に集中してください」と私が突っぱねたせいだけど。

「出るぞ」
「あ、はい」

 促されるまま、席を立つ。会計は事前に済ませておいたのだろう。こういうところも本当にスマートだ。

「またのご来店をお待ちしております」

 最後まで丁寧な対応だったギャルソンは私と久世社長を見てどう思ったのだろう? カップル? それとも仕事上の付き合い? こんなことが気になるなんて、すっかり雰囲気に飲まれている気がする。

 それに――食事を終えてこれで安心……とはいかない。

 だって相手は久世社長なんだから、この後ホテルに誘われる可能性だってゼロじゃない。

 もちろん誘われても断るつもりだけど……。でももし、また無理やり手を出されたら――なんて、そんな可能性も考えて。一応、ランジェリーはお気に入りのものを選んできた。……って、こういうこと考えちゃダメなのに……!

 レストランを出て、再びホテルのロビーへ。前を歩く久世社長は何も言わない。
 えっと……これはもう「ありがとうございます。お疲れ様です」と言って帰っていいパターンかな?

 だけどそんなの甘かった。

「黒瀬。送って行くからついて来い」
「いえ、私は……」

 来た……! 心臓が跳ねる。普通なら紳士な対応にポイントが上がる。だけど車は完全な密室空間。今日は秋月さんや椛乃社長だっていない……何が起こってもおかしくない。

「いいからついて来い」
「……はい」

 なのに強引な一言に勝手に身体がついて行ってしまう。またレストランの余韻が残ってるせいかも。こんな馬鹿な選択しちゃいけないのに。

 てっきりタクシーに乗ると思っていた。だけど久世社長の足が向かう報告はタクシー乗り場ーーではなく、駐車場。

「久世社長タクシー乗り場はあちらです」
「知っている」
 
 場所を間違えているのかと思って訂正する。しかし久世社長の足は止まらなかった。

「今日は車で来ている」
「え? けど……」

   驚きに足が止まりそうになる。だけどなんとか着いていった。
 久世社長は食事中ワインを飲んでいたし、車は運転できないはず。代行を頼んでるとか?

 その疑問の答えはすぐに判明した。

「俺が飲んでいたのは全てノンアルコールだ」
「え? そうなんですか?」

 全く気づかなかった。緊張していて、ちゃんと見てなかったけど、言われてみたら飲んでいたワインの色がほんの少し違った気もする。
 
 ちゃんと食事後の事まで考えてくれてたんだ。どこまでスマートなんだろ。ちょっと悔しい。

 ロビーとエントランスを抜けて駐車場へと出ると、春の夜風が吹き抜ける。着ているワンピースは袖口がチュール素材なので、少し冷える。家を出たときは大丈夫だったけど、カーディガンくらい用意しておけばよかったかもしれない。

 すると前を歩いていた久世社長が足を止めた。ちらりとその瞳が私を見ると彼はスーツのジャケットを脱いだ。

「着てろ」
「え?」
「春とはいえ、夜にそんな格好じゃ寒いだろ」

 ふわりと、肩が暖かくなる。ダークネイビーのジャケットに身体を包まれると、久世社長の匂いまで私を包み込んだ。ウッド系の香りは、近づいた距離を思い出す。

 ……ずるい。

 本当にスマートだ。女っ気なんてないのに、こんなにスマートな対応。もしかして慣れてるのかな?

 そんな疑問にぎゅうっと肩に掛けられたジャケットを掴むと、再び歩き出した久世社長の後ろをついていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

処理中です...