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14 二度目のキス
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しおりを挟むデザートと食後のコーヒーを終える頃には、ガラス窓の向こうには綺麗な夜景が広がっていた。ロマンチックさが一段と増したレストランは満席。隣の席には40代ぐらいの夫婦が談笑しながらフレンチを堪能していた。
美味しい料理を味わったあとの満足感にプラスされる小さな高揚感。
久世社長の話を聞いたあと、また会話は最小限に戻ってしまった。その理由は顔が赤くなったことを指摘されて「食事に集中してください」と私が突っぱねたせいだけど。
「出るぞ」
「あ、はい」
促されるまま、席を立つ。会計は事前に済ませておいたのだろう。こういうところも本当にスマートだ。
「またのご来店をお待ちしております」
最後まで丁寧な対応だったギャルソンは私と久世社長を見てどう思ったのだろう? カップル? それとも仕事上の付き合い? こんなことが気になるなんて、すっかり雰囲気に飲まれている気がする。
それに――食事を終えてこれで安心……とはいかない。
だって相手は久世社長なんだから、この後ホテルに誘われる可能性だってゼロじゃない。
もちろん誘われても断るつもりだけど……。でももし、また無理やり手を出されたら――なんて、そんな可能性も考えて。一応、ランジェリーはお気に入りのものを選んできた。……って、こういうこと考えちゃダメなのに……!
レストランを出て、再びホテルのロビーへ。前を歩く久世社長は何も言わない。
えっと……これはもう「ありがとうございます。お疲れ様です」と言って帰っていいパターンかな?
だけどそんなの甘かった。
「黒瀬。送って行くからついて来い」
「いえ、私は……」
来た……! 心臓が跳ねる。普通なら紳士な対応にポイントが上がる。だけど車は完全な密室空間。今日は秋月さんや椛乃社長だっていない……何が起こってもおかしくない。
「いいからついて来い」
「……はい」
なのに強引な一言に勝手に身体がついて行ってしまう。またレストランの余韻が残ってるせいかも。こんな馬鹿な選択しちゃいけないのに。
てっきりタクシーに乗ると思っていた。だけど久世社長の足が向かう報告はタクシー乗り場ーーではなく、駐車場。
「久世社長タクシー乗り場はあちらです」
「知っている」
場所を間違えているのかと思って訂正する。しかし久世社長の足は止まらなかった。
「今日は車で来ている」
「え? けど……」
驚きに足が止まりそうになる。だけどなんとか着いていった。
久世社長は食事中ワインを飲んでいたし、車は運転できないはず。代行を頼んでるとか?
その疑問の答えはすぐに判明した。
「俺が飲んでいたのは全てノンアルコールだ」
「え? そうなんですか?」
全く気づかなかった。緊張していて、ちゃんと見てなかったけど、言われてみたら飲んでいたワインの色がほんの少し違った気もする。
ちゃんと食事後の事まで考えてくれてたんだ。どこまでスマートなんだろ。ちょっと悔しい。
ロビーとエントランスを抜けて駐車場へと出ると、春の夜風が吹き抜ける。着ているワンピースは袖口がチュール素材なので、少し冷える。家を出たときは大丈夫だったけど、カーディガンくらい用意しておけばよかったかもしれない。
すると前を歩いていた久世社長が足を止めた。ちらりとその瞳が私を見ると彼はスーツのジャケットを脱いだ。
「着てろ」
「え?」
「春とはいえ、夜にそんな格好じゃ寒いだろ」
ふわりと、肩が暖かくなる。ダークネイビーのジャケットに身体を包まれると、久世社長の匂いまで私を包み込んだ。ウッド系の香りは、近づいた距離を思い出す。
……ずるい。
本当にスマートだ。女っ気なんてないのに、こんなにスマートな対応。もしかして慣れてるのかな?
そんな疑問にぎゅうっと肩に掛けられたジャケットを掴むと、再び歩き出した久世社長の後ろをついていった。
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