わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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14 二度目のキス

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 久世社長の車が停まっていたのは駐車場の奥の方だった。本人曰く来た時にはここしか空いてなかったみたいだけど今では両隣に車はない。

 この車……メルセデス・ベンツじゃん。あまり車に詳しくない私でも知ってる高級車だ。さすが社長。乗ってるものが普通の人とは違う。

「乗れ」
「……けど」
「いいから乗れ」

 命令と共に助手席のドアを開けた久世社長の言葉に逆らえないまま、助手席へ。しっとりと吸い付くような、上質な本革のシートに背を預けると、自然と姿勢がよくなった気がする。ドアが閉まると静けさに包まれた車内には、わずかに香水と革の混ざった匂いが漂っている。さっき肩に掛けてもらったジャケットから漂う匂いも混ざれば全身久世社長に包まれているような感覚。

 まだ走り出してもないのに、このまま動き出したらもう逃げられない予感がして、緊張が込み上げる。
 大丈夫、ただ、送られるだけ。待って、家の場所を久世社長に知られることになるってこと?……それも嫌だし、気まずい。
 
「黒瀬」
「はっはい!?」

 身構えるように息を飲むのと久世社長が運転席に乗って来たのはほぼ同時だった。そして、運転席に座った彼は私に小さな紙袋を差し出した。

「――やる」
「え……? な、んですか?」
「いいから受け取れ」

 手のひらに落ちてきたのは、見覚えのあるハイブランドの紙袋だった。これ、私の好きなブランドだ。

 ただの秘書に欲しいハイブランド品を全部買うことは出来ない。それでも財布や小物など、少し頑張れば手が届くアイテムはいくつか持っている。たとえば、今日履いているハイヒールは、去年の冬のボーナスでようやく手に入れたお気に入りだ。

「今日付き合わせたお礼だ」
「……いえ、こんなもの……」

 なんか……やっぱり今日の久世社長はちょっと違う。だって、私の知ってる久世社長は寒いだろうと肩にジャケットをかけてくれないし、こんなプレゼントだってくれない。

 今日ここに久世社長がいるのは迷惑をかけたお詫びの食事券のせい。なのに、それに私を誘って、さらに私なんかにプレゼントを贈るなんて……これでは椛乃社長のお詫びの意味がない。それを素直に伝えて、紙袋を突き返そうとする。
 
「九重社長のお詫びの品と、お前を付き合わせたのは別だ」
「だけど……」
「いいから受け取れ」

 戸惑う私に淡々と彼は唇を動かした。そこまで言われると受け取らないわけにはいかない。

 男性からのプレゼントはいつだって大歓迎。それだけ自分が魅力的に見えるってことだから――けど、久世社長相手だとそうじゃない……って思ってたんだけど……。

「……ありがとうございます」

 ドキドキとまた心臓が騒めく、今日はずっと煩くて、もしも生涯を通して鼓動を打つ回数が決まっていたら、今日でかなり消費してしまっただろう。

「私がこのブランド好きってご存じだったんですか?」
「見てればわかる」

 またそんな調子のいいこと言って。いつもならそう返すはず。けど出来なかった。なんだか雰囲気が少しだけ甘くなった気がして、不意打ちのプレゼントを嬉しいと思ってしまう自分にも――本当に驚いている。
 
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