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【番外編】 儚げ社長の休日
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しおりを挟む10分も経たない内に秋月さんは戻って来た。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
「九重社長は基本ホットと聞いているので、勝手にホットにしたんですけど大丈夫でしたか?」
「あ、うん。大丈夫です」
「よかった」
手渡されたのは館内のカフェのホットコーヒー優秀な秘書だけあって、細かいことまでちゃんと覚えてくれていて、私がコーヒーにはミルクだけってのも分かって砂糖は入れてない。
今日は休日だし、ここはLUNARIAではない。つまり必然的にご馳走されてしまった。「お金、払います――」と声を出す前に、秋月さんがさらりとかわしてしまう。
「雨はどうですか?」
「変わらずです」
「30分ぐらいで止めばいいですけどね」
ふわりと、シトラス系の匂いが近くなる。椅子を引く音がさっきよりも大きく聞こえたのもまた、秋月さんが私の隣の席へと座ったから。さっきは椅子2個分空いていた距離が縮まれば、その柔らかい低音も近くなる。
「ここにはよく来るんですか?」
「はい。静かですし、本の数も多いですから。秋月さんも本はよく読みますか?」
久世社長から秋月さんは知識が豊富と聞いたことがある。だからきっといろんな本を読んでいるのだろう。そんな予想は当たって、彼は「はい」とゆっくりと頷いた。
「色々な知識を入れておくことは秘書として社長を支えるのに必要ですから」
「さすがです。もうすっかり秘書ですもんね」
時々優秀過ぎて忘れそうになる。秋月さんが元LUNARIAのイメージモデルだなんて。
LUNARIAのブランドイメージとピッタリ一致していて、LUNARIAがここまで急成長した理由のひとつは確実に秋月さんだろう。今のイメージモデルが合ってない訳じゃないけど、秋月さんがモデルをしてた時の方がインパクトがあった。もちろんこんなこと口には出さないけど。
「まだまだです。色々勉強中です」
「茉乃ちゃんも秋月さんにはライバル意識がちょっとあるみたいです。『私も秋月さんに負けないです』って時々言ってます」
「ははっ、黒瀬さんにそう言ってもらえるのは嬉しいですね」
ふっと笑いながら謙遜する秋月さん。その横顔につい見とれてしまう。
「九重社長?」
「あ、ごめんなさい。つい、見とれてしまって……。休日の秋月さん、いつもとちょっと雰囲気が違うので」
目が合って、ドキリと少し心臓が音を立てる。素直に見惚れていたことを白状すると秋月さんが「ありがとうございます」とまた女の子が喜びような笑顔で笑う。
「こっちの台詞ですよ」
「え?」
「俺も九重社長から目が離せません。いつも通り綺麗で、だけど休日だからですかね。いつも以上に可愛いです。私服だからですかね?」
「っ……あ、ありがとうございます」
こんなのただの社交辞令。だけどあまりにも真っすぐな瞳に頬が熱い。
秋月さんはいつもこうだ。会うといつだって褒めてくれる。私はコラボブランドを立ち上げている会社の社長なので社交辞令は必要かもしれないけど、休日にまでそんなことしなくていいのに。
だけど反射的にお礼を言ってしまう辺り、ビジネスモードは私も同じなのかもしれない。
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