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【番外編】 儚げ社長の休日
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しおりを挟む「おひとりですか?」
「あ、はい。そうです……秋月さんも?」
「はい、友人との待ち合わせまで少し時間があったのでたまたま寄ったんですけど、九重社長とお会い出来て光栄です」
控えめな柔らかい声。久世社長は正反対のタイプの秋月さんは、久世社長からものすごい信頼を得ている、元モデルという異例の経歴の社長秘書。
モデル時代も華やかで落ち着いていて、素敵だったけど、秘書としての能力も申し分ない。だってあの久世社長が自らスカウトしたんだから。
仕事柄会うことは多いけど、こうやって休日に顔を合わせるのは初めて。
だけど突然のゲリラ豪雨で落ち込んだ気持ちが、ほんのちょっと浮上してきた。多分これも驚きと、秋月さんの雰囲気のせいだと思う。
「いつからそこに?」
「30分ちょっとぐらいですかね。お声掛けしようと思ったんですけど、あまりにも集中されていたのでタイミング待ってました」
「全然気づきませんでした……」
驚いた。文字通り集中していて全然気づかなかった。だけどいざ知り合いに本に没頭しているところを見られていると思うと少し恥ずかしい。変な顔してなかったかな。そんな感情が顔に出たのか、秋月さんがふっと柔らかく笑う。
「大丈夫です。お仕事中の九重社長もお綺麗ですけど、休日の本に集中している九重社長もお綺麗ですよ」
「またそんな……」
あまりにも整った横顔に、ふと息をのむ。じっとこちらを見つめる視線に、胸の奥がざわめいた。形のいい唇からはいつも褒め言葉が出てきてちょっと恥ずかしい。ありがたいことに「綺麗ですね」と言われることは少なくないけど――秋月さんに言われるといつも心臓の辺りがくすぐったくなる。これがイケメン効果ってやつかも。
秋月さんに微笑まれて嬉しくないって思う人なんかいないと思う。実際うちの女性社員にも秋月さんは大人気だ。
「雨凄いですね」
「そうですね。これ読んだら帰ろうと思ってたんですけど……止むまではここにいるのがいいかもしれないです」
「それがいいと思います。下手に出て濡れてしまって風邪引いたりしたら大変ですし」
そうですね、と同意するように頷く。雨足は和らぐどころか、ますます強くアスファルトを叩きつけていて、だからこそ、少し話していてもその声が周りの迷惑になることはない。
さらに言えばここは少し奥の席で、周りにも誰もいない。だから安心して取引先の社長秘書とのおしゃべりが出来る。
「九重社長、コーヒー飲まれますか? 買ってきますよ」
「あ、はい。けど自分で――」
「大丈夫です。すぐ戻ってきますね」
椅子を引く音と同時に視線が上がる。立ち上がった秋月さんがあっという間に館内のカフェに向かう後ろ姿を引き止めることは出来なかった。引き止めるには大きな声を出さないといけない。それに――。
「歩いてるだけで絵になる……」
ブラックデニムにオフホワイトのカットソーという、シンプルなコーデなのに元モデルだけあって立ち姿だけで絵になる。すれ違った女性が次々と振り返るのを目にしながら、私も読み終わった本を元の位置に戻す為に立ち上がった。
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