80 / 109
16 この関係の名前
1
しおりを挟む抱き寄せられて、キスされて、セックスをした。
この関係をなんと呼べばいいの? その答えが今すぐ欲しい。
「黒瀬さん」
「……」
「黒瀬さん」
「……」
「黒瀬秘書!」
「――っはい!」
耳元で聞こえた大きな声にビクンと肩が跳ねる。一気に背筋に冷や汗が浮かんで、目の前の景色が鮮明になれば、真っ白なパソコン画面が飛び込んで来た。
「すみません! ちょっとぼーっとしてしまって……」
「……ったく、大丈夫ですか? 先程から仕事が進んでないようですが」
「……すみません」
桐嶋室長の指摘に平謝りすることしか出来ない。チラリと視線を斜め上――桐嶋室長へと向けると厳しい瞳が私をじっと見ている。
やばい……怒られるかも。そんな予感は見事に当たった。
「あなたの作る議事録は社長にとって、とても大切なものです。忘れない為にも会議後すぐに取り掛かるのが秘書としてのあなたの仕事です。この会議は午前中にあったもので、午後のあなたの大きな仕事はこれのみですよね。それが間もなく定時だというのに白紙とは……」
「……」
その通り過ぎて言い訳が全くできない。
パソコン画面には議事録のタイトルと日付のみ。本来ならもう出来ているはずの議事録が全く出来てない。桐嶋室長の言う通り、今日は比較的椛乃社長のスケジュールもゆるく、私は議事録作りに集中できる――予定だった。
「すみません……すぐ終わらせます」
「あなたが本気になれば1時間もあれば終わるはずです。定時までには仕上げてくださいね」
「かしこまりました」
背筋をピンと伸ばして、それから深く頭を下げる。秘書になった頃、こうやって何度も桐嶋室長に頭を下げた。最近はなかった分、久しぶりにお灸を据えられて心臓が嫌な意味でドキドキしている。
お願いしますね、と念を押すと桐嶋室長が一度秘書室から出て行く。ドアがパタンと閉まって数秒後、一気に身体の力が抜けた。
「はあ……やっちゃった……」
「大丈夫? 必要なら議事録作り手伝おうか?」
反省していると一連のやり取りを見ていた香澄さんからの提案が飛んで来る。正直、かなりありがたい。今日はずっと集中出来てないから、多分今から取り組んでも簡単には終わらないはず。――けど、それじゃダメだよね。
「大丈夫です。ちゃちゃっと終わらせちゃいますね!」
「わかった。何かあったら言って。私今日の仕事終わってるから」
「ありがとうございます」
にっこりと笑って、お礼をひとつ。
すごい、香澄さんもう今日の仕事終わってるんだ。さすがというべきかもしれない。何があっても仕事はちゃんとする、それが香澄さん。私なんかまだまだ足元にも及ばない。
だけど……これも全部――久世社長のせいなのに。
0
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。
まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。
今日は同期飲み会だった。
後輩のミスで行けたのは本当に最後。
飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。
彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。
きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。
けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。
でも、あれから変わった私なら……。
******
2021/05/29 公開
******
表紙 いもこは妹pixivID:11163077
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる