わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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【番外編】 儚げ社長の休日

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 あっと言う間に隠れていた青空が再び姿を現す。濡れたアスファルトが太陽の光に照らされてキラリと光ると、館内も本来の明るさを取り戻していく。

 時間にして30分程度のゲリラ豪雨。

 買ってもらったコーヒーを半分も飲まない内に景色は元の形に戻った。さっきの雨と雷は一体なんだったんだろうかと思うぐらいの変わりようだが、長引かなかったのはよかった。

「よければ送りましょか? 俺車ですし、まだ時間あるので」
「ありがとうございます。けど……ちょっと寄りたいところもあるのでアプリでタクシー呼びます」

 私が帰る予定だと伝えていたことを覚えていたの秋月さんからの提案。だけど今回は上手く断ることが出来た。彼にだって予定はあるだろう。これでは休日接待をさせているみたいで申し訳ない。

 宣言通りタクシーアプリを開いてタクシーを呼ぶ。車で10分もかからないみたいなので、椅子を引いて立ち上がる。すると何故か秋月さんも立ち上がった。

「じゃあ、そこまで送ります」
「そんな、いいのに……」
「いえ、俺がそうしたいんです。九重社長は大切な方ですから」

 さらっとスマートな言葉がまた耳を掠める。本当に口が上手い人。ついくすっと笑ってしまえば、秋月さんと目があって、どちらともなふっと笑う。

「コーヒーご馳走様でした」
「いえ、こちらこそ素敵な時間をありがとうございました」

 こっちの台詞なのに、そんな言葉も上手くかわされてしまった。

 もしも秋月さんがいなかったら雨で気分も落ちこんでいたし、雷にビクビクしてたかもしれない。偶然とはいえ、声をかけてくれたことには感謝しなくちゃ。

 静かな館内を抜けてすっかり人の流れが戻った外へ。駐車場で呼んだタクシーを見つけると改めて秋月さんにお礼を伝える。

「ありがとうございました。ではまた、来週の定期ミーティングでお待ちしております」

 図書館の入り口で向かい合い、背の高い彼を見上げる。ほんと、かっこよくて素敵な人。この後の予定ってもしかしてデートかな?
 そんなことを考えていると「あ、そうだ。ずっと言おうと思ってたんですけど」と秋月さんが口を開いた。

「はい?」
「――髪、いつものハーフアップも素敵ですけど、下ろしてる今日もすごい素敵です」
「――っ!」

 最後の最後まで彼は口が上手い。
 確かに仕事の日はハーフアップにしてることが多い。けど今日は休日だし、軽く巻いただけ。

「休日の九重社長の姿が見れて嬉しいです」

 もしかして久世社長は秋月さんにいつ出会っても私を全力で褒めろって指示だしてるのかな? そう思ってしまうぐらい、この短い間に色々な部分について褒められた。最後に髪型まで褒められると、恥ずかしいと同時にちょっとだけ自信がつくような感覚に陥る。

 タクシーを待たせる訳にも行かなくて、お礼と共に軽く頭を下げる。そうして休日の秋月さんに別れをつげた私がタクシーに乗るまでは早かった。

 心なしか胸の奥がふわっと温かくなる。これも秋月さんの不思議な魅力のせいかもしれない。

 休日の図書館、ゲリラ豪雨、取引先の秘書との偶然の出会い。1時間にも満たない間に起きた出来事が今日一番のハイライトになるだろう。

 タクシーの中で手に持っていたコーヒーを口に含む。砂糖は入ってないはずなのに、さっきよりもほんの少し――甘く感じた。




 「――もう少しだけ、降ってくれてもよかったんだけどな」

 すっかり晴れた青空を見上げた秋月さんが零した言葉など私は知る由もない。
 
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