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17 寝込んだ夜に
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しおりを挟む嘘、もう来た!? まだ何も準備出来てないのに。
こうなったら……ドアを開けずに対応して帰ってもらうしかない。うん、そうだ。それがいい。
焦る間もなく、もう一度音が鳴ったので仕方なくリビングのインターフォンの画面へと向かう。確認する必要もなかったが、画面に映っていたのは久世社長で、おそるおそるスピーカーのボタンを押す。
「はい……黒瀬です」
「連絡は見たな? さっさと開けろ」
「いや、けど……今部屋散らかってて……」
「関係ない」
いつもみたいに淡々とした声。仕事帰りなのか、スーツを着た久世社長の姿に体温がぐっと上がる。
今日いなかった私が本当に体調不良だったのか確かめに来たってこと? それとも本気で心配してくれたとか……? いや、それはないか。だって久世社長だもん。
とにかく――追い返さないと。
「早く開けろ」
「けど移したらいけないですし……」
「命令だ」
「う……っけど……!」
「黒瀬、開けろ」
短く、低く、少し恐怖も感じる威圧的な声。この声に――私はいつも逆らえない。
「……わかりました」
結局負けてしまった。私のバカバカ! こういう時こそ「わがまま」と「生意気」の見せ場なのに……!
覚悟を決めて、さっと手櫛で髪を整える。そんな最後の悪あがきのあと、玄関に向かい――仕方なくドアを開けた。
「遅い。さっさと開けろ」
「……お世話になっております……」
すっぴんの顔を見せたくなくて、下を向いたまま、ゆっくりとドアを開ける。こういう時どう出迎えればいいのかわからなくて、いつも通りの挨拶を。このまま顔を見せて本当に病み上がりだと伝えて帰ってくれたらいいのに――そんな都合のいいことは起こらない。
「取り敢えず入る。ここだと近所迷惑になるからな」
「……はい」
一方的な宣言に抵抗する元気は今日に限ってない。さっきのインターフォン越しの攻防で今日は限界だ。だから久世社長が部屋に入ってくるのを止めることは出来なかった。
リビングはスライドドアで仕切られた、よくある1LDK。就職した時から住んでいて全体的に白とピンクでまとめているお気に入りの空間。こうやって男性を招き入れたのは随分久しぶりだ。
とりあえず部屋を散らかさないように普段から気をつけていてよかった。人を招き入れることが出来るぐらいには……多分綺麗にしていると思う。
「あの……どうして……?」
「体調が悪いと九重社長から聞いた。今どういう状況だ?」
リビングまで足を進めた久世社長が振り返って私を見下げる。私はまだ下を向いていて、片手で顔を隠している。だってこんな病み上がりの姿絶対に見られたくないんだもん。
「熱は下がって……明日からは出勤出来そうです」
「そうか、九重社長も安心だな」
「別に今日は……久世社長に会いたくなくて休んだ訳じゃなくて……ちゃんと体調が悪かったんです」
今の状態を説明して、指摘される前に逃げた訳じゃなことも説明する。するとビクンと肩が跳ねた。
「――っ!」
下を向いた筈なのに急に久世社長の整った顔が瞳に飛び込んでいる。顎を掴まれ無理矢理上を向かされたと気づいた時にはもう、私の指先は何故か久世社長のジャケットに伸びていた。
……逃げなきゃいけないのに、動けない。久世社長の指がほんの少し冷たく感じて、気持ちよかったせいだ。
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