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29 幸せへのチケット
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しおりを挟む「じゃあ、私明日の撮影なのでそろそろ帰ります。またよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
いつの間にか紗英さんと椛乃社長の話が終わり、私も慌てて頭を下げて挨拶をする。会場から出て行く紗英さんの後ろ姿はさすがモデル。歩き方もすごく綺麗。
「ふう……さすがに少し疲れたね」
立食パーティーだし、足元はヒール。私も椛乃社長もヒールで歩くことには慣れているけど、2時間以上立ちっぱなしだとさすがに少し疲れる。更にここは招待されたビジネスの場だから、椛乃社長は息をつく暇もないだろう。
「けど、そろそろお開き近いみたいだから、私達もタイミングみて帰ろうか」
「そうですね……専務と常務ももう帰られたみたいですね」
椛乃社長の言葉に会場を見渡す。いつの間にかウチの他の役員達は帰ってしまったようだ。それに伴って香澄さんの姿も今は見えない。営業部の社員が何人かいるが、全体を見ると挨拶やビジネスを終えて帰路についた招待客も少なくはないようだ。
そう思っていた矢先、また別の業界人が椛乃社長に近づいてきた。すぐにビジネスモードに戻って柔らかい笑顔を作る。本当に大変だな、次から次へと。そんな感想を飲み込んで椛乃社長から一歩下がって、フォローの体勢を整える。
っていうか……久世社長の結婚ってワードにショック受けてるけど、椛乃社長も今年30歳だし、結婚……考えたりしてるのかな? 前アフタヌーンティー行った時に教えてもらった意味深ワードの相手が実は隠れた恋人だったりしたり……?
ダメだ。今日の私はとことん雑念に囚われてる気がする。けど椛乃社長が結婚したら一緒にご飯食べに行ったりできなくなっちゃうかもって思うとそれも嫌だな。
そんなことを考えながら、アルコールで唇を湿らせる。するとひとつの視線を感じることに気づいた。だけど久世社長に見られるようなじっとりとした感じではない。誰だろう……?
「……秋月さん?」
ぐるっと会場を見渡した先、目が合ったのは会場入り口近くにいた秋月さん。近くに久世社長はいない。
「……ん?」
秋月さんは私と視線が合うと小さなジェスチャーを見せる。それは明らかに手招きで、その後に長い人差し指を唇に当てる。
一体なに……?
まるで私に来てほしいみたい。それも……内緒に?
首を傾げずにはいられない。思わず自分を指差してジェスチャーを返すと正解だと言わんばかりに笑顔で秋月さんは何度か頷いた。
「社長、すぐ戻ります」
もしかしたら業務関係で何か話があるのかもしれない。慌てて椛乃社長に耳打ちし、その場を離れる。
少し早足で、秋月さんに近づくと彼は笑顔を深めた。
「お話中にすみません。どうしても、お伝えしたいことがありまして……こちらへ」
一体なんだろう? 終盤とは言え、まだパーティーの最中。久世社長の傍についてなくていいのかな? そんなことを考えながら秋月さんに着いていく。会場のホールから出る前に久世社長がいた場所へと視線を向ける。だけど久世社長の姿は見当たらなかった。
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