わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

文字の大きさ
159 / 172
31 甘い夜の真実

2

しおりを挟む


 思い切った私の質問に久世社長の手が腰を撫でる。まだ身体の奥に熱が残っているせいでピクリと肩が揺れると同時に頬を大きな手のひらで包まれた。

 てっきり、どうせ意地悪を言われて終わり……と思っていたのに、意外なことに久世社長はゆっくりと形のいい唇を動かした。

「お前のことを最初に知ったのは九重社長と食事をしていた時だ」

 少し懐かしむような声、ふやけた指が頬をそっと撫でると――昔話が始まった。

「九重社長とはもう何年も前に弟を通じて知り合った。彼女が通っていたアメリカの大学の同じ学部に弟も通っていたからな」
「そうだったんですか?」
「ああ、学部も同じで今でも連絡を取り合っているのは知っている。彼女が日本に帰ってCOCONOEで働き始めてからも、その縁は続いて、定期的に食事を取っていた」

 椛乃社長と昔から知り合いだったのはこの前聞いたけど、まさかきっかけが弟だったとは。しかも想像よりもずっと前から知り合いだったなんて。

「まあ、それはいい。前にも言ったが、九重社長はよくお前の話をしていた」
「そんなに……たくさんしてたんですか?」
「可愛い後輩ができて嬉しかったのか、よく話していた。あまりにも話すから自然とお前のことは知っていた。あの九重社長がそれだけ気にかける女がどんなものか、気になってはいた」

 なんだか少し恥ずかしい。過去を思い出すような低音が私の記憶の引き出しも開けていく。

 憧れの化粧会社に入社出来て、尊敬できる先輩とも出会って、とにかく一生懸命だったあの頃を知られているのは不思議な気分。ちょっと頬が膨らんだのは、私ばっかり知られているみたいで悔しい気持ちのせいかもしれない。

「初めてお前を見たのは、あるレセプションパーティーだ。九重社長があまりにも褒める後輩が一体どんな奴なのか、気になってお前を探した。けど探す手間はかからなかった。九重社長と並ぶと……どうしてもお前は目立つからな。けど聞いていた話と全然違って、今にも泣きそうなお前を見て驚いた」
「……え?」
「それにパーティー中盤で人目を避けるように会場の外で泣いてるお前を見た」
「……それって……もしかして……」

 記憶の引き出しを開けなくても覚えている。私が泣いたパーティーなんてひとつしかない。あれは――圭吾さんと別れた直後のパーティー。椛乃社長に気分転換にと連れて行ってもらったのに圭吾さんに会って、泣きそうになって……隠れてちょっと泣いた。あの時久世社長もいたんだ……と、いうか、あれを見られていたなんて……。

「涙を堪えるお前を見て、バカな男がいるなと思ったのを覚えている。その後、会場戻ってもお前は今にも泣きそうで、それでも必死に笑おうとしているお前は……やけに目についた」
「……知らなかった……」

 そんな前から私を知っていて、見ていたなんて……恥ずかしい。だけど胸の奥は温かくて、逃げるように私はくるっと身体の向きを変えて背中を久世社長に預けた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

処理中です...