わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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 恋人が出来た。
 
 たった五年で美容業界に名を馳せたカリスマ経営者。
 
 冷静沈着で理性的。感情よりも理論で動く人。立っているだけで威圧感があって表情は読めない。
 ――なのに、こっちの考えてることは全部読んでくる。まるで嫌味みたいに。
 
 いつだって偉そうだし、一方的だし、私の気持ちなんてお構いなし。
 
 だけど……冷たい瞳の奥に強い独占欲を持っている人。
 私のことが大好きなのに、それを簡単に口にしてくれない意地悪な人。
 
 最初は苦手で嫌いだったのに。いつの間にか大好きになっていた。
 気持ちを伝え合って、熱い夜を過ごして――きっとこれからラブラブな恋人生活が始まる。


 ――――なんて思ってたのに。


「この方向性だとターゲットがYoruiのメイン層より少し上になる」
「そうですね……ただ、この思い切った提案は悪くないと思います」
「いや、せっかく定着してきたメイン層を手放すのはよくない」
「おっしゃる通りです」

 LUNARIAの会議室で冷徹社長と儚げな美人社長が議論を続ける。その様子を私は時計の針を気にしながら聞いている。

 定期的に行われるYoruiの合同ミーティングは今日も順調に進んでいた。むしろ予定よりも早くミーティングは進んでいて、これなら時間通りに会社に帰ることができそう――と思っていたのはもう1時間も前のことだ。

 時間に余裕があったせいかもしれない。そろそろ次のシーズンに向けての商品の方向性も決めないとですね、と安堵した声を零したのはCOCONOE側の社員。それにLUNARIA側も乗る形になって……そうなれば社長達も話に入り、どんどん話が大きくなっていった。
 
 今では社長同士が熱心に意見をぶつけ合っている。

 一般的に考えるとこれは悪いことじゃない。合同ブランドを更に良くしようと、未来のために社長自ら熱弁し、場を引き締める。だから……いいことなんだけど……。
 
 ――椛乃社長、盛り上がり過ぎです。

 喉まで出てきそうな指摘をなんとか堪える。大切なミーティングだし、秘書が口出しするような場面じゃない。それはわかってるんだけど……。

 目線を落としてお気に入りの腕時計で時間をチェック。もう4時を過ぎてる。今から会社に帰って、椛乃社長を見送って、就業前の業務をして……って考えると多分定時には帰れないよね……?

 ああ、もう……! そんな声をぐっと我慢して、隣の椛乃社長に熱い視線を送る。だけどどれだけ視線を送っても椛乃社長は私の視線に気づいてくれない。代わりにLUNARIAの社員と目が合ってしまって、営業スマイルを浮かべた。

 COCONOEの“花園”の一員として焦っている時も“可愛くて綺麗な黒瀬茉乃”として一切の隙はない。

 ただ、今日仕事を終わりにネイルを予約している私としては……一刻も早くこのミーティングが終わって欲しい。

 
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