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1章
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生徒会の仕事が一段落したところで、離散していく役員をよそに立野は一条に近づいた。
「会長・・・・・・」おずおずと声をかける割に、意思は固まっているので、一条が座る席と距離が近い。
「ちょっと提案なんですけど、今回の中間考査で、結果を全て開示するのではなく、上位だけでも開示してはいかがでしょう。というのも、生徒会での信頼の厚さは一条会長の一択となっていて偏りがあります。これでは、役員としてのメンツも立たないなと思ったし、第一会長の負担があまりに大きすぎます。そこで、僕たちだって優秀であることを証明すれば、少しは一条会長だけでなく、僕たち役員も信頼を勝ち取れると思うんです。そうすれば、会長が1人で行っていた仕事を我々にも分担し作業することができる」
「・・・・・・たしかに。僕一人で頑張ればいいというものでもないし、何より僕は君たちを信用している。使えないから僕一人でやってるなんて委員会側に感じ取られるのは良くないな」
腕組みをして一条はいう。「でも、成績なんてプライバシーそのものだ。それひとつで、個人のステータスを勝手に計られる。――とくに、ここの学校はそれが酷い。我々生徒会なら大丈夫かもれしれないけど、常にトップを維持している人たちからすれば、そのような開示に意味はないと捉えるだろう。ましてや、僕らの優秀さを証明するためだけの開示なら、より権力を誇示しているように見えても文句はいえない」。
痛いところを突かれてぐうの音も出せない。
「だから、この件については席次開示という手段ではなく、別の方法をとってはどうだろう?」
「・・・・・・」
「・・・・・・どうかな?」
「――では、上位者には報奨を与えてみてはどうでしょう。例えば、お小遣い程度の図書券とか。そうすれば、我々の意図全てを汲み取れる者はいないでしょう。それに全学年の上位者のみの図書券代くらいなら予算でなんとかなります。僕はそれくらい、本気です。他の手段を考えてもいいですが、それも1案件として考え直すのは手間がかかります。ただでさえ、他にも沢山案件は抱えているんですから」
「だから、今出ている案で早急に整えたい、と」
ここで重たい空気が流れる。流石1年で制度撤廃に漕ぎ着けただけの実力だ。温厚だけが人を統一するのではないことを示している。
一条は最近の立野を思い返し、「分かったよ。僕が職員室に掛け合ってみるけど、大倉先輩へのアセスメントは絶対に僕がする。だから、何も言わないように他の役員にも伝えといて」了承を出した。
「ありがとうございます!」嬉々とする立野を見て、挨拶運動の件にしても彼はよく働いてくれている。生徒のため、役員、そして一条自身のために。
スッキリした表情で生徒会室を後にする立野を、後ろで見つめる。大倉先輩のあの乱れようを見た上で、席次開示をするという提案には肝が冷えた。しかし、指示には必ず従う、という信頼だけが一条が立野に絆される要因となった。
一人になった生徒会室で、職員室から預かったファイルを覗く。新学期に入ってから渡された全校生徒定期考査平均統計と「お前が会長になってから、全体の成績が下降の一途をたどっている。先代の会長を糾弾してまで就いた役職なのに、ざまぁないな」の罵詈雑言と共にある書類まで見せつけられる。
「会長・・・・・・」おずおずと声をかける割に、意思は固まっているので、一条が座る席と距離が近い。
「ちょっと提案なんですけど、今回の中間考査で、結果を全て開示するのではなく、上位だけでも開示してはいかがでしょう。というのも、生徒会での信頼の厚さは一条会長の一択となっていて偏りがあります。これでは、役員としてのメンツも立たないなと思ったし、第一会長の負担があまりに大きすぎます。そこで、僕たちだって優秀であることを証明すれば、少しは一条会長だけでなく、僕たち役員も信頼を勝ち取れると思うんです。そうすれば、会長が1人で行っていた仕事を我々にも分担し作業することができる」
「・・・・・・たしかに。僕一人で頑張ればいいというものでもないし、何より僕は君たちを信用している。使えないから僕一人でやってるなんて委員会側に感じ取られるのは良くないな」
腕組みをして一条はいう。「でも、成績なんてプライバシーそのものだ。それひとつで、個人のステータスを勝手に計られる。――とくに、ここの学校はそれが酷い。我々生徒会なら大丈夫かもれしれないけど、常にトップを維持している人たちからすれば、そのような開示に意味はないと捉えるだろう。ましてや、僕らの優秀さを証明するためだけの開示なら、より権力を誇示しているように見えても文句はいえない」。
痛いところを突かれてぐうの音も出せない。
「だから、この件については席次開示という手段ではなく、別の方法をとってはどうだろう?」
「・・・・・・」
「・・・・・・どうかな?」
「――では、上位者には報奨を与えてみてはどうでしょう。例えば、お小遣い程度の図書券とか。そうすれば、我々の意図全てを汲み取れる者はいないでしょう。それに全学年の上位者のみの図書券代くらいなら予算でなんとかなります。僕はそれくらい、本気です。他の手段を考えてもいいですが、それも1案件として考え直すのは手間がかかります。ただでさえ、他にも沢山案件は抱えているんですから」
「だから、今出ている案で早急に整えたい、と」
ここで重たい空気が流れる。流石1年で制度撤廃に漕ぎ着けただけの実力だ。温厚だけが人を統一するのではないことを示している。
一条は最近の立野を思い返し、「分かったよ。僕が職員室に掛け合ってみるけど、大倉先輩へのアセスメントは絶対に僕がする。だから、何も言わないように他の役員にも伝えといて」了承を出した。
「ありがとうございます!」嬉々とする立野を見て、挨拶運動の件にしても彼はよく働いてくれている。生徒のため、役員、そして一条自身のために。
スッキリした表情で生徒会室を後にする立野を、後ろで見つめる。大倉先輩のあの乱れようを見た上で、席次開示をするという提案には肝が冷えた。しかし、指示には必ず従う、という信頼だけが一条が立野に絆される要因となった。
一人になった生徒会室で、職員室から預かったファイルを覗く。新学期に入ってから渡された全校生徒定期考査平均統計と「お前が会長になってから、全体の成績が下降の一途をたどっている。先代の会長を糾弾してまで就いた役職なのに、ざまぁないな」の罵詈雑言と共にある書類まで見せつけられる。
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