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「呉越同舟」——常盤仁作——

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 「若!! 鴬さん!! 起きてください!!」何やら朝から騒々しい。カードキーを共有していないはずだが、部下が部屋まで侵入し、仁作と鴬2人を叩き起こしてくる。

「何やってるんですか!! 2人とも!! 鴬さんは普通に学校ですよ?!」

 仁作が先に目を擦り、部下の母性愛溢れる起こし方に苛立ちを覚えながら、「今日は日曜だろ……もうちっと寝かせてくれや」と文句を垂れる。

「何言ってんスか! 今日は月曜です!!」
「……」
「マジですって!! 鴬さんが遅刻します!! 早く鴬さんを起こして!!」
「……」
「早く!!」
「……ん? お前、どうやって部屋に入ったんだ」
「そんなのは鴬さんを送り出した後で教えますから、早く鴬さんを起こしてください!!」

 漸次、覚醒しだす脳で、部下が自分と鴬を同時に呼んだので、同じ部屋に鴬がいることを把握する。

 横を見れば、健やかに眠る鴬が高校生のあどけなさを前面に押し出している。勝手に開けられたカーテンから差し込む光が、やけに目を刺激して眉根を寄せた。

 「……鴬、起きろ。お前、学校らしいぞ」とのっそり覇気のない声で起こす。寝ぼけ眼で隣の童顔高校生を揺するが、こちらはピクリともしない。

(ま、そう簡単に起きれるわけねぇか)

 仁作も何度目をこすっても、微睡む眼と格闘しているのに、朝方まで受ける方であった鴬に数時間で戻る体力は持ち合わせていない。
 いつの間にかエプロン姿の部下が、「もう! あんまり遅いからこちらの部屋まで朝食作りに来たんですから!! 食べて学校行かせないと、会長から怪しまれすよ」と鴬に視線を移さずにぼやく。

 そういえば、仁作は着衣だったが、鴬は裸体だ。これでは、まごうことなき情事があったのだと公言しているようなものだ。

「……なぁ、何でそんな驚かねぇの」
「え、どこに驚く要素があるんですか」

 部下は続けて「もしかして、隠してたつもりだなんて、言いませんよね」といった。
 それに言葉を返せずに思考を止めていると、部下はそそくさと話の腰をぶった斬って「そんなことはまた後で、鴬さんを学校に送り届けてからたくさんしてあげますから!」とオカンになりかわった。

「ほら、鴬さん!! 起きてください! 若、俺少しだけ支度残してるんで、先にキッチン行ってます。鴬さんを抱き抱えてでも起こしてくださいよ!!」
「……おーう」

 朝からオカンの役割を果たしに行った部下を横目に、鴬に視線を戻す。

 「何で僕らのピロートークは部下の雄々しい声から始まるんだよ、クソ」と大いに陰口を叩く鴬が、裸体のまま仁作の胸にぴとりとくっついて爪を噛んでいた。

「起きてたのか」
「ふぇ、ふぁ、あ、お、おはよう!」
「いやいや、このゼロ距離でさっきのが聞こえないわけないから」
「だって、寝ぼけてるかと思ってたから」
「俺が先に起きたんだから有り得ねぇよ」
「そう? 仁作が起きなければ、部下も諦めて僕の欠席も許してくれるかと思ってたんだけど」
「……は? 鴬が先に起きてたのかよ。つか、昨日! 俺のワガママとはいえ、今日が月曜だって分かってて、承諾したな?」
「やっぱりバレちゃう?」

 起き抜けのはずの童顔高校生は、既にぱっちり二重の目力でこちらに視線を寄越す。ハリもツヤも調子がいいらしい。仁作の大きな手で頬を包むと、吸い付いてもっちりとした弾力を伴いながら、また、手から離れていった。
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