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1章
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無許可でPCを立ち上げているがゆえに、気持ちが急く。そこ五分の待ち時間が遠くて、マウスに置いた指の貧乏ゆすりが止まらない。
ようやく開いたPCに、休憩を与える暇はない。まずはファイルを管理しているところを閲覧させてもらうとする。数字の羅列が続くファイル名がずらりと並んでいる。
あまりに規則性がないので、ファイルが壊れていると踏んだ。
とくに、一番上のファイルは田淵もよく知っている独自ドメインだ。これこそ、大学院での研究に扱う情報が入っているとは思い難い。なぜなら——。
息を飲み込んだ田淵は、小刻みに揺れる指が止まる。「え、△△会社のHP……?」。
このファイルは独自のサイトを作ることができる——そして、画面に映し出されているのは、投稿前の編集画面だ。つまり、会社のHPだけでなく、編集段階の情報を黒田が持っていることが何やら怪しい。さらに、代表の名前も黒田ではないことから、黒田が起業していたという可能性も潰える。
瞳孔を最大限に開いて、自身で動かしているカーソルを追う。
「自分ので確認するしかないな……」とすみやかにシャットダウンをした。それから、リビングに置いたままのPCを開いて、黒田のデスクトップ画面に写されていた会社名を改めて検索にかけてみる。
その際に、「そう言えば、確認してもらったことあったけど……あの時は黒田君のパソコンだった気がする。ということはデスクトップ以外にも、ノートパソコンにあの情報が入ってるってこと——」鼓動が速くなるのも自覚しながら、検索結果に目を疑った。
「ヒット、しなかった……。配達のバイトが嘘。どうして……」
そして、いつか聞いた警鐘が、過去一大きく鳴り響く。どうやら、以前から聞いたこの本能の音は、本能の正解だったらしい。
脳裏にフラッシュバックする「あの日」の黒田の顔が、なぜ、はじめに俯いていたのか。ドアを開けると、爽やかに笑ったのか。嫌疑の目を向ければどれでも怪しく感じる。
しかし、辻褄が合わないこともある。
「黒田君がいたずらの犯人だったとして、なんで、さっき大好きだなんて、僕が聞いていない状態で言えたんだろう……」
田淵は健やかに眠る彼のところへ戻ることを躊躇い、仮にも初夜を共にした黒田との初めての朝であったにも関わらず、茫然自失とPCを向き合った。
——配達員になりすまして、何がしたかったのか。
(現状、下手な動きをするべきじゃないことだけは確実だよな……。また、黒田君に変な刺激を与えることになるし)
「え。また?」と反芻する。
「またって、ん?」
黒田が田淵が酒酔いから目が覚めた時に言っていた、「二日も経っている」という事実の欠片を回顧しては拾い、自身の空いたところへ埋めていく。
そもそも酒を飲んだが、記憶のピースの場所が曖昧になるほどの量を飲んだわけではないはずだ。シンクにこそ空き缶の一つもないが、冷蔵庫にはまだまだストックされた酒が数を並ばせている。
だが、その日は泥酔とも呼べるほど酔ったせいで、ほぼ丸一日を無駄にして眠りこけてしまった。
「そう、その日はバイトから帰ってきた黒田君のバイトの制服がいつまでも綺麗なのが気になって、つい、話した……」
「ヨレがなくてシワが少ない。その上、1着で着まわして、汗臭くもなかった。——その時点で、僕は黒田君にバイトが嘘なんじゃないかって疑ったんだ」と腕組みをして順を辿る。
「それで、HPを見せてもらって、本当に現存するんだってことを証明してくれた。その後、心置きなくご飯を食べて、お酒を飲んですぐに酔って、すぐに寝た——だけど、今はHPは偽装だった可能性の方が高い。それに——」
田淵は深く息をついて、両頬を叩く。次は強めに。それで思考を無理に止めた。
最悪のシナリオを想起してしまうのだ。
(あのタイミングで薬……盛られたかもしれないなんて、口封じじゃないんだから……する必要がないでしょ。そうだよね、黒田君。だって黒田君、僕が寝たふりをしていた時、好きだって、恋人同士だって言ってくれたんだから)
だが、警戒を解くことはもう、できない。
本能が出し続けた警報は、間違っていなかったのだから、注意するに越したことはないのだ。
青息吐息で肩が余計に窄んでしまう。
(はぁ。警戒だって、一緒に住んでるのに急に距離なんてとるのは不自然すぎる。それに、僕のマンションは黒田君に解約してもらって——)
「外堀……」と田淵はひとりごちた。
ようやく開いたPCに、休憩を与える暇はない。まずはファイルを管理しているところを閲覧させてもらうとする。数字の羅列が続くファイル名がずらりと並んでいる。
あまりに規則性がないので、ファイルが壊れていると踏んだ。
とくに、一番上のファイルは田淵もよく知っている独自ドメインだ。これこそ、大学院での研究に扱う情報が入っているとは思い難い。なぜなら——。
息を飲み込んだ田淵は、小刻みに揺れる指が止まる。「え、△△会社のHP……?」。
このファイルは独自のサイトを作ることができる——そして、画面に映し出されているのは、投稿前の編集画面だ。つまり、会社のHPだけでなく、編集段階の情報を黒田が持っていることが何やら怪しい。さらに、代表の名前も黒田ではないことから、黒田が起業していたという可能性も潰える。
瞳孔を最大限に開いて、自身で動かしているカーソルを追う。
「自分ので確認するしかないな……」とすみやかにシャットダウンをした。それから、リビングに置いたままのPCを開いて、黒田のデスクトップ画面に写されていた会社名を改めて検索にかけてみる。
その際に、「そう言えば、確認してもらったことあったけど……あの時は黒田君のパソコンだった気がする。ということはデスクトップ以外にも、ノートパソコンにあの情報が入ってるってこと——」鼓動が速くなるのも自覚しながら、検索結果に目を疑った。
「ヒット、しなかった……。配達のバイトが嘘。どうして……」
そして、いつか聞いた警鐘が、過去一大きく鳴り響く。どうやら、以前から聞いたこの本能の音は、本能の正解だったらしい。
脳裏にフラッシュバックする「あの日」の黒田の顔が、なぜ、はじめに俯いていたのか。ドアを開けると、爽やかに笑ったのか。嫌疑の目を向ければどれでも怪しく感じる。
しかし、辻褄が合わないこともある。
「黒田君がいたずらの犯人だったとして、なんで、さっき大好きだなんて、僕が聞いていない状態で言えたんだろう……」
田淵は健やかに眠る彼のところへ戻ることを躊躇い、仮にも初夜を共にした黒田との初めての朝であったにも関わらず、茫然自失とPCを向き合った。
——配達員になりすまして、何がしたかったのか。
(現状、下手な動きをするべきじゃないことだけは確実だよな……。また、黒田君に変な刺激を与えることになるし)
「え。また?」と反芻する。
「またって、ん?」
黒田が田淵が酒酔いから目が覚めた時に言っていた、「二日も経っている」という事実の欠片を回顧しては拾い、自身の空いたところへ埋めていく。
そもそも酒を飲んだが、記憶のピースの場所が曖昧になるほどの量を飲んだわけではないはずだ。シンクにこそ空き缶の一つもないが、冷蔵庫にはまだまだストックされた酒が数を並ばせている。
だが、その日は泥酔とも呼べるほど酔ったせいで、ほぼ丸一日を無駄にして眠りこけてしまった。
「そう、その日はバイトから帰ってきた黒田君のバイトの制服がいつまでも綺麗なのが気になって、つい、話した……」
「ヨレがなくてシワが少ない。その上、1着で着まわして、汗臭くもなかった。——その時点で、僕は黒田君にバイトが嘘なんじゃないかって疑ったんだ」と腕組みをして順を辿る。
「それで、HPを見せてもらって、本当に現存するんだってことを証明してくれた。その後、心置きなくご飯を食べて、お酒を飲んですぐに酔って、すぐに寝た——だけど、今はHPは偽装だった可能性の方が高い。それに——」
田淵は深く息をついて、両頬を叩く。次は強めに。それで思考を無理に止めた。
最悪のシナリオを想起してしまうのだ。
(あのタイミングで薬……盛られたかもしれないなんて、口封じじゃないんだから……する必要がないでしょ。そうだよね、黒田君。だって黒田君、僕が寝たふりをしていた時、好きだって、恋人同士だって言ってくれたんだから)
だが、警戒を解くことはもう、できない。
本能が出し続けた警報は、間違っていなかったのだから、注意するに越したことはないのだ。
青息吐息で肩が余計に窄んでしまう。
(はぁ。警戒だって、一緒に住んでるのに急に距離なんてとるのは不自然すぎる。それに、僕のマンションは黒田君に解約してもらって——)
「外堀……」と田淵はひとりごちた。
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