10 / 33
4
しおりを挟む
竜ヶ崎は弓月と菊池の接触を明白に嫌がってから、校内でも弓月を呼び出す頻度が増えた。昼時は菊池が弓月の元へ来るより先に迎えに上がり、放課後も誰より先に弓月を呼ぶ。
明らかに菊池が弓月と接触する機会が激減している今日この頃——帰宅途中の竜ヶ崎と弓月へ久方ぶりに思える来客が訪れた。
弓月が身構えるより先に、「ゆづは相手する必要ない」と相手を煽りながら弓月を竜ヶ崎自身で隠す。それから、来た道を戻り途中の通りで待ち合わせるよう口裏を合わせた後、竜ヶ崎は相手の言い分も聞かずに襲い掛かった。
普段なら相手から来ない限り手を出して来なかったが、今回ばかりは勝手が違うらしい。
竜ヶ崎の邪魔になるようなことになれば、負ける。何の戦力にもならない弓月は、言われるがまま一心不乱に来た道を走る。頭の片隅には、負け姿を見せまいとしている信長的な背中を思い浮かべながら。
(今までだって数的不利なんかものともしなかった。けど、今回は俺を逃がした)
「それだけ余裕がないってことか」と思わず口走る。
待ち合わせた場所に到着しても焦燥感と不安は付き纏い、弓月は立ち止まることなく右往左往する。体感時間はとっくに三十分を過ぎている。
しかし、弓月の心配とは裏腹に、ものの十数分で竜ヶ崎も弓月のところに合流した。弓月が竜ヶ崎の姿が見えてすぐ彼の元へ駆け寄ると、「飴、くれ」と通常運転の竜ヶ崎がいた。
「もう! 何か感想とか説明とかないわけ?!」
相変わらず表情の乏しい竜ヶ崎に、説教じみたことを言いながらべっこう飴を取り出す。
「説明……ちょっとだけいつもより数が多かったから、念の為逃した」
「それで? 勝ったの? ——ごめん、愚問だった」
竜ヶ崎の微笑が答えだ。無論、然程乱れのない制服を見れば、一目瞭然なのだが。
「今回はなんていちゃもんつけられて……あ、今回はシロから手を出してた」
「ああ。たまには発散にやるだろ。女以外でも」
そして、竜ヶ崎は受け取った飴をすぐに噛み砕き「俺、イイ子じゃねぇから」と言った。
「っ、俺にもそうやってストレス発散させる日が来たら、俺だって黙ってやられるつもりねぇからな!」
「フェアだ!」と息巻く弓月に、竜ヶ崎は否定も肯定もしなかった。
「ゆづがこれからも変わらずに居てくれるなら、んなことしねぇって」
意を決して竜ヶ崎への恐怖と向き合ったが、その次に返ってきた言葉に違和感を覚えた。難しいことを言われたわけではないのだが、どうしてか嚥下できない。
その原因がよく分からないまま、二人は別の道から帰宅した。
それから二週間程度、かわるがわる竜ヶ崎を狙って他校からの来客が増えた。こうも毎日来客があると、いくらカリスマ的な竜ヶ崎であっても疲労は蓄積されると思われた。
しかし、それは杞憂と思わざるを得ないほど、竜ヶ崎が絶好調だ。
昼休みには弓月が竜ヶ崎を迎えに上がり、屋上でゆったりとした時間を過ごす。
あまりに毎日次から次へと刺客のように現れるチンピラに慣れた竜ヶ崎が「今日は何人来るんだろうな」と余裕たっぷりな疑問が投げ掛けられる。
「そう言われても、最近は毎回俺を先に逃がすくせに。なんだかんだギリギリなんだろ?」と竜ヶ崎を少し煽る。
「ギリギリなら張り合いあるんだけどな」
「……相も変わらず綺麗なお顔で」
「ハハッ、そりゃどーも」と弓月の煽りも意に返さない竜ヶ崎。
大人の対応をされて少しむくれた弓月は、さらに子供の悪戯として、竜ヶ崎にあげる専用のべっこう飴を鞄から取り出して弓月が口に入れた。「最後の一個、もーらい」。
「ったく、俺を怖がるくせに、そういうことするところは今も昔も変わらずだな」
「兄貴面して、一人っ子のくせに」
「ゆづこそ、末っ子みたいなことするくせに」
大きな竜ヶ崎の掌が弓月の頬を覆い、それから「ゆづが弟だろうが幼馴染みだろうが、これが傷付けられたら敵わなねぇよ」と言って、今度は頬を餅のように伸ばした。
明らかに菊池が弓月と接触する機会が激減している今日この頃——帰宅途中の竜ヶ崎と弓月へ久方ぶりに思える来客が訪れた。
弓月が身構えるより先に、「ゆづは相手する必要ない」と相手を煽りながら弓月を竜ヶ崎自身で隠す。それから、来た道を戻り途中の通りで待ち合わせるよう口裏を合わせた後、竜ヶ崎は相手の言い分も聞かずに襲い掛かった。
普段なら相手から来ない限り手を出して来なかったが、今回ばかりは勝手が違うらしい。
竜ヶ崎の邪魔になるようなことになれば、負ける。何の戦力にもならない弓月は、言われるがまま一心不乱に来た道を走る。頭の片隅には、負け姿を見せまいとしている信長的な背中を思い浮かべながら。
(今までだって数的不利なんかものともしなかった。けど、今回は俺を逃がした)
「それだけ余裕がないってことか」と思わず口走る。
待ち合わせた場所に到着しても焦燥感と不安は付き纏い、弓月は立ち止まることなく右往左往する。体感時間はとっくに三十分を過ぎている。
しかし、弓月の心配とは裏腹に、ものの十数分で竜ヶ崎も弓月のところに合流した。弓月が竜ヶ崎の姿が見えてすぐ彼の元へ駆け寄ると、「飴、くれ」と通常運転の竜ヶ崎がいた。
「もう! 何か感想とか説明とかないわけ?!」
相変わらず表情の乏しい竜ヶ崎に、説教じみたことを言いながらべっこう飴を取り出す。
「説明……ちょっとだけいつもより数が多かったから、念の為逃した」
「それで? 勝ったの? ——ごめん、愚問だった」
竜ヶ崎の微笑が答えだ。無論、然程乱れのない制服を見れば、一目瞭然なのだが。
「今回はなんていちゃもんつけられて……あ、今回はシロから手を出してた」
「ああ。たまには発散にやるだろ。女以外でも」
そして、竜ヶ崎は受け取った飴をすぐに噛み砕き「俺、イイ子じゃねぇから」と言った。
「っ、俺にもそうやってストレス発散させる日が来たら、俺だって黙ってやられるつもりねぇからな!」
「フェアだ!」と息巻く弓月に、竜ヶ崎は否定も肯定もしなかった。
「ゆづがこれからも変わらずに居てくれるなら、んなことしねぇって」
意を決して竜ヶ崎への恐怖と向き合ったが、その次に返ってきた言葉に違和感を覚えた。難しいことを言われたわけではないのだが、どうしてか嚥下できない。
その原因がよく分からないまま、二人は別の道から帰宅した。
それから二週間程度、かわるがわる竜ヶ崎を狙って他校からの来客が増えた。こうも毎日来客があると、いくらカリスマ的な竜ヶ崎であっても疲労は蓄積されると思われた。
しかし、それは杞憂と思わざるを得ないほど、竜ヶ崎が絶好調だ。
昼休みには弓月が竜ヶ崎を迎えに上がり、屋上でゆったりとした時間を過ごす。
あまりに毎日次から次へと刺客のように現れるチンピラに慣れた竜ヶ崎が「今日は何人来るんだろうな」と余裕たっぷりな疑問が投げ掛けられる。
「そう言われても、最近は毎回俺を先に逃がすくせに。なんだかんだギリギリなんだろ?」と竜ヶ崎を少し煽る。
「ギリギリなら張り合いあるんだけどな」
「……相も変わらず綺麗なお顔で」
「ハハッ、そりゃどーも」と弓月の煽りも意に返さない竜ヶ崎。
大人の対応をされて少しむくれた弓月は、さらに子供の悪戯として、竜ヶ崎にあげる専用のべっこう飴を鞄から取り出して弓月が口に入れた。「最後の一個、もーらい」。
「ったく、俺を怖がるくせに、そういうことするところは今も昔も変わらずだな」
「兄貴面して、一人っ子のくせに」
「ゆづこそ、末っ子みたいなことするくせに」
大きな竜ヶ崎の掌が弓月の頬を覆い、それから「ゆづが弟だろうが幼馴染みだろうが、これが傷付けられたら敵わなねぇよ」と言って、今度は頬を餅のように伸ばした。
0
あなたにおすすめの小説
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
「短冊に秘めた願い事」
星井 悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。
落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。
……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。
残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。
なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。
あれ? デート中じゃないの?
高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡
本編は4ページで完結。
その後、おまけの番外編があります♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる