問題:異世界転生したのはいいけど、俺の「力」はなんですか? 〜最弱無能として追放された少年が、Sランクパーティーに所属するようです〜

鴨山兄助

文字の大きさ
10 / 30
第一章

第十話:お話をしましょう

しおりを挟む
 そして今日も夜がくる。
 割り当てられた自室のベッドに倒れ込んだノートは、少し苦々しい表情をしていた。

「回復魔法で治っているのはわかっているけど……なんか痛みがある気がする」

 マルクとの模擬戦が終わった後、本拠地に戻ったノートはカリーナに回復魔法をかけて貰った。
 それで治ったのは良いのだが、突然治癒した傷に脳の理解が追いついておらず、ノートは在りもしない痛みに悩まされていた。
 ちなみにカリーナに聞いたところ、回復魔法をかけられ慣れていない人が稀に発症する症状らしい。
 実際に怪我をしているわけではないので「我慢しなさい、男の子でしょ」と言われてしまった。

「うぅ……ヒリヒリして痒い」

 思わず傷があった箇所を掻いてしまう。
 別にもう怪我など無いのだが、心は少し癒えた気がした。

「俺、負けてたな……」

 今日の模擬戦を思い出す。
 一応は勝利したという形にはなったが、実際のところノートは完全に負けていた。
 仲間として認められたのは良い。だがその先の事を考えると、ノートは自分の不甲斐なさを恨んだ。

「無能は返上したい。けどその先なんてどうすればいいんだろう」

 本音。
 無能者である自分を変えたい気持ちはある。
 しかしその先で、自分は何をすれば良いのか分からない。

 自分は勇者になるタイプの異世界転生者ではない。
 そもそもこの世界には魔王なんて存在しない。
 人間らしい悪意とモンスターの脅威があるだけの、普通のファンタジー世界だ。
 どこか「つまらなさ」さえ感じる。
 だがこの世界に生まれてしまった以上、生きねばならない。
 それを頭では理解しているつもりだったが、ノートの心はどこか空虚なものだった。

「俺、何がしたいんだろう」

 世界を救う使命なんて無い。守るべき人も無い。目標自体何も無い。
 自分の中にある空洞を感じとって、ノートは自己嫌悪する。
 無意味なのだ、自分が生きている事自体が。
 それなのに『戦乙女の焔フレア・ヴァルキリー』の人達は良くしてくれる。
 その事実が、ノートの自己嫌悪を加速させた。

「……重い」

 期待されているようで、重さを感じる。
 アルカナという得体の知れないスキルを期待されても、ノートにはその自覚が無い。
 仮にこのアルカナが目覚めたとして、それが期待外れだったらどうなる。
 きっとパーティーの人達は失望しても、邪険にはしないだろう。
 それくらいには優しさを感じていた。
 だから辛いのだ。

「俺……大層な理由もなく入っちゃったな」

 ただ生きやすそうだったから。
 それだけの理由で加入してしまった自分を恥に感じる。
 特にライカに顔を合わせずらい。
 パーティーに誘ってくれた事もあって、ノートは彼女に恩を感じている。
 ライカの前では強くありたい。思春期特有の思想も相まって、ノートはそう考えていた。

「まずは甘ちゃんを直さなきゃダメかな」

 模擬戦中マルクに何度も言われた言葉。
 自分でも薄々感じていた事。
 特にこの世界の価値観で言えば、相当甘い考えを持っている事実。
 実際問題、その甘い考えが原因で過去にトラブルになった事もある。

「……嫌なこと思い出した」

 脳裏に浮かんだ過去の映像から目を逸らすノート。

 兎にも角にも進むべき道は見えた。
 このパーティーに馴染んで、一日でも長く生き残ること。
 そして、少しでもライカに恩返しをする事だ。

「頑張らなきゃな」

 部屋の天井を見ながら、ノートが呟く。
 すると、部屋の扉を小さくノックする音が響いてきた。
 誰だろうか。ノートはベッドから起き上がり、扉を開ける。

「あっ、ノート君。こんばんはなのです」
「ライカ。どうしたの?」

 訪ねてきたのはパジャマ姿のライカであった。
 不意に視界に入った同年代のパジャマ姿に、ノートは少しドキッとする。

「えっと、その……今お時間ありますか?」
「俺はまだ眠気が来ないから、一応暇だけど」
「よかったです~。ノート君、お話をしましょう」

 そう言うとライカは、鼻歌交じりにノートの部屋へと入ってきた。
 そのまま彼女はベッドに腰掛ける。

「ノート君はお隣なのです」

 ベッドの上をポンポンと叩いて、誘導するライカ。
 ノートは乗せられるがままに、ベッドに腰掛けた。

「で、話って?」
「えーっとですね……何から話しましょう?」
「決めてないんだ」
「ノート君のお話を聞きたかったのが大きいですから」
「俺の話? なんで?」
「えっとですね。私、同年代のアルカナホルダーって今まで一人しか知らなかったんですよ。その中でもノート君は初めての男の子ですから」

 つまり好奇心が止まらないのだろう。
 自分なんかの話で満足するなら遠慮するつもりは無いが、ノートは一つだけ疑問があった。

「俺はそんなに面白い人生歩んでないぞ。むしろライカの方が色々経験してるんじゃないのか?」
「私がですか?」
「だってSランクパーティーに所属してる先輩なんだよ。冒険譚たくさん持ってそうじゃん」
「そんなことはないですよ。私は……弱いですから」

 無理した笑顔を浮かべるライカ。
 ノートはその表情の奥に、途方もない痛々しさを感じた気がした。

「私は守ることしかできません。他の人達のようにモンスターを狩るなんてできないのです」
「……」
「だから私、ノート君が少し羨ましいのです。ノート君はちゃんとモンスターと戦えるから――」
「俺の方が弱いよ」

 言葉を遮られて出てきた発言に、ライカが少し驚く。

「デビルボアを倒せたのは条件が揃ってたからなんだ。本来の俺はモンスターなんか狩れない。スキルも守りに使うには心もとない。何もかも中途半端な人間なんだよ」
「ノート君」
「それにさ、俺は魔人体ってのも出せないから……ライカの方がずっとスゴイんだよ」

 少し自虐的ながらも、事実を述べる。
 ノートはライカの事を素直に尊敬していた。
 攻撃手段が無いと言ってはいるが、きっと彼女の守りは自分より優秀だろう。
 そして何より、不完全な自分というものがノートにとっては恥ずかしかった。

「なんだか、お互いないものねだりをしていますね」
「そうだな」

 二人は向き合って小さく笑う。
 笑いが、このしんみりとした空気を和らげた気がした。

「ノート君。私ノート君のお話を聞きたいです」
「俺の話かぁ……どんなのがいいんだろ?」
「なんでもです。男の子ってどんなことしてるのか知りたいです」
「そうだなぁ……少し暗い話になるけど――」

 ノートはライカに自分の生い立ちを話始めた。
 辺境の小さな村で生まれたこと。
 両親は良い人達であったこと。
 七歳で受ける魔法資質検査で0を叩き出したこと。
 村人達に迫害されたこと。両親が必死に庇ってくれたこと。
 それに耐え切れず、一人で村を出たこと。

「十二歳で村を出たから、最初は本当に大変でさ」
「……やっぱり、どこも一緒なんですね」
「ライカ?」
「私もそうでした。魔法資質が無くて、両親に捨てられて……十歳の時にドミニクさんに拾って貰ったんです」
「ライカも、ドミニクさんに助けて貰ったんだ」
「はい。ドミニクさんは、アルカナホルダーの生き辛さを知っているから、私達のような人に手を差し伸べてくれてるんです」
「あの人、思った以上にスゴイ人なんだな」
「はい。ドミニクさんはスゴイ人なのです」

 今度話を聞いてみよう。そんなことを考えてから、ノートは話の続きをした。
 村を出た後、レオに出会ったこと。
 レオのパーティーに入れて貰ったが、色々あって追放されたこと。
 そして、ライカと出会ったこと。

 ここまでの道のりは一通り話し終えたノートだが、思い出したくないものははぐらかして話した。

「ノート君、本当にすごい人生を歩んでいるのです」
「俺は別に願ってなんかいなかったんだけどなぁ」
「でも良かったです。その道のりが無かったら、私がノート君と出会うことも無かったですから」
「まぁそうだけどさぁ……俺なんかと出会っても得なんかないだろ」
「そんなことないのです! だってノート君は、初めてできた男の子のお友達ですから!」

 フンスと鼻息荒く語るライカ。
 そんな彼女を見ながら、ノートはポカンとしていた。

「友達?」
「はいです! あれ、もしかして私の片思いでしたか!?」
「いやそうじゃなくて……いいのかなって」

 ノートの言葉の意図が分からず、ライカは首を傾げる。

「俺なんかが友達でも、いいのかなって」
「どうしてですか?」
「どうしてって、だって俺は――」
「無能なんかじゃないですよ」
「ッ……!」
「ノート君は無能なんかじゃないのです。だってノート君は色々できるじゃないですか」
「色々?」
「はい。モンスターと戦えますし、お料理も上手です」
「料理はほぼ独学の、見よう見まねだけどね」
「そうなんですか!?」

 変なところに興味を持たれた。
 詳しく掘り下げられたが、ノートは流石に自分が転生者であることは伏せた。

「やっぱりノート君はスゴイのです」

 捻くれているのか、ノートの心には中途半端にしか響かない。
 どんな反応をすれば良いのか悩んでいると、ライカが手を差し伸べてきた。

「……握手?」
「はいです。お友達になる第一歩なのです」

 本当に自分に対して忌避感を抱いていないのだな、とノートは内心驚く。
 だが同時に、彼女の優しさが心に染み込んでくるのを感じていた。
 ノートは恐る恐る、手を差し出す。

「はい。捕まえたです」

 手を握られた。
 それは小さくてか細い、女の子の手であった。

「えへへ、これでお友達なのです」
「あっ、うん……そうなの、かな?」
「そうなのです。初めての男の子のお友達なのです」

 そうとう嬉しいのか、ライカの後ろに激しく揺れる犬の尻尾を幻視する。
 なにより笑顔が綺麗であった。
 彼女の笑顔に、ノートはしばし釘付けになる。

「ノート君、どうしたですか?」
「え、いやぁ、なんでもないです」

 窓から入った月の光に照らされて、ライカの銀色の髪も目立つ。
 改めて彼女が美少女と呼ばれる分類であると、ノートは認識した。
 そんなライカに見つめられるのが恥ずかしくなったのか、ノートは慌てて話題を変えた。

「それよりさ、ライカの話も聞かせてよ」
「私のですか?」
「俺だけじゃ不公平だろ。だからライカの話も聞きたい」
「そうですねぇ……じゃあドミニクさんと出会った時から――」

 自身の話を始めるライカと、それを聞くノート。
 夜はどんどん更けていく。
 二人の会話ははずみ、結局眠るまで続いたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜

くまみ
ファンタジー
 前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?  「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。  仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。  病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。  「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!  「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」  魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。  だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。  「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」  これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。    伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!    

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...