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第一章
第十五話:変異トロールと「力」の片鱗
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大型トロール達の咆哮が、洞窟内に鳴り響く。
トロールは四人の侵入者を視認すると、すぐさま棍棒で攻撃にかかった。
「ブモォォォ!」
「ライカ!」
「はいです! 守って『純白たる正義』!」
カリーナに振り下ろされるトロールの巨大な棍棒。
それを『純白たる正義』のバリアが遮る。
だが敵は一体ではない。
バリアの有効範囲をすり抜けたトロールが、ルーナとノートを狙った。
「こんのッ!」
スキルを発動して、棍棒を弾き返すノート。
その横では、ルーナの魔人体がトロールに攻撃を仕掛けていた。
「混乱させなさい! 『怖く+蠱惑+困惑=月光』!」
球体関節人形の像が、迫り来るトロールの首筋に注射器を刺していく。
強力な幻覚を込められた注射をされたトロールは、攻撃対象を変更し、自分の仲間へと襲い掛かった。
「仲間が敵に見えるようにしたわ。ノート君はそのままトロールをひきつけて」
「わかった!」
トロールが自分の方へ向かうように振る舞うノート。
棍棒による攻撃は全てスキルで弾き返す。
そうして出来上がった隙に、ルーナの『怖く+蠱惑+困惑=月光』が幻覚を注射していく。
それを繰り返していく内に、数体のトロールが仲間へと攻撃を始めた。
「こっちへの攻撃は薄くなったけど、この後どうするんだ?」
「決まっているわ。カリーナさん、準備はいい?」
「えぇ、いつでもいけるわ!」
気づけばカリーナは魔法の発動準備が完了しており、何時でも撃てる状態になっていた。
「三人共、後ろに下がって!」
各自スキルを解除させて、大慌てで後退する。
カリーナの杖の先には、強大な電気エネルギーが集まっていた。
「三人が頑張ってくれたおかげで、一網打尽しやすくなってる」
同士討ちに意識を取られているトロール達に、狙いを定める。
「轟きなさい! アーク・ボルテックス!」
――轟ォォォォォォォォォ!!!――
凄まじい力を秘めた雷が、眩い光と共にトロール達に襲い掛かる。
感電したトロールは、凄まじい雄たけびを上げながら、その場で絶命していった。
「カリーナさんって、結構豪快な性格なんですね」
「ノート君、それ褒めてるの?」
「尊敬はしてます」
「ならよし」
そんな何気ない会話を遮るように、洞窟の奥から更なるトロールが姿を現す。
「「「ブモォォォォォォォォォォォォォ!!!」」」
仲間を殺された恨みか、トロール達は凄まじい咆哮を上げながら襲い掛かってきた。
「ライカとノート君はさっきみたいに防御に回って。ルーナは隙を見て攻撃。その間にアタシが魔法の準備をするわ!」
「了解!」
「はいです!」
「わかったわ」
再びバリアを展開するライカ。
スキルを使って、攻撃を弾くノート。
そして隙を見ては幻覚をトロールに植えこむルーナ。
三人が奮闘している間に、カリーナは次の殲滅魔法を準備する。
「こんのッ! 数が多い!」
「確かにこれは、予想以上の数ね」
ルーナを守るように、トロールの攻撃を弾き続けるノート。
二人は想像以上のトロールの数に、少々圧倒されていた。
だが決して苦戦している訳ではない。
ノートは順調に敵の攻撃を防ぎ、ルーナは確実に幻覚を植え付けていく。
その近くでは、ライカがバリアを展開してカリーナを守っていた。
数分の攻防が続いた後、再びカリーナの準備が整う。
「みんな、二発目いくわよ!」
再び後退する三人。
それを確認したカリーナは、溜め込んでいた魔法を解放する。
「アーク・ボルテックス!」
再び解き放たれた超高位の雷魔法。
ルーナの幻覚によって混乱していたトロール達は、瞬く間に雷に飲み込まれた。
「ブモォ!?」
短い断末魔を上げて、感電死していくトロール。
それを見届けたノートは、高ランクモンスターを容易く葬るカリーナの実力に感服していた。
「スゴイな、カリーナさん」
「ありがとノート君。それにしても、数が多いわね」
あと何体くらい残っているのだろうか。
全員がそんなことを考えていると、カリーナは洞窟の奥から強大な魔力反応を感じ取った。
「ッ!? ライカ、バリアを張って!」
「はっ、はい!」
カリーナの指示で大急ぎでバリアを展開するライカ。
次の瞬間、洞窟の奥から凄まじい熱量を持った炎が襲い掛かってきた。
「うわっ!?」
「これは、魔法攻撃?」
驚くノートと、比較的冷静なルーナ。
予想外の魔法攻撃には、ライカも驚きの表情を隠せていない。
「もしかして、ま、魔法使いさんがいるですか!?」
「まさか、そんな筈は無いわ」
ライカの言葉を否定するルーナ。
だがその一方で、カリーナだけは冷静に状況を分析していた。
「これは……最悪かもしれないわね」
「やっぱり魔法使いですか?」
「半分正解よ」
「半分?」
何故半分なのか、ノートがその理由を聞こうとした瞬間。
ドスンドスンと、洞窟の奥から大きな足音が聞こえてきた。
「まだトロールが残ってた!」
「そうね。でもただのトロールと思わない方がいいわ」
杖を握るカリーナの手に力が入る。
その警戒心はノート達にも伝わり、三人に気を引き締めさせた。
ドスン、ドスン。
足音は大きくなり、その主が姿を現す。
「ブモォォォォォォ!!!」
それは今までのトロールとは少し違った姿をしたトロールであった。
着ている服は袖の長いものであり、棍棒の代わりに巨大な杖を持っている。
まるで魔法使いのような出で立ちのトロールであった。
「なんだコイツ、なんか違う……」
姿の違うトロールにノートは些か動揺する。
だがそれ以上に、他の三人に走っていた緊張が凄まじかった。
「カ、カリーナさん。これってもしかしなくても」
「えぇ、変異種のトロールね」
「変異種?」
変異種が分からなかったノートに、ルーナが説明をする。
「簡単に言えば、突然変異してスキルとかを身につけたモンスターよ」
「てことは、さっきの炎も」
「きっと変異で身につけたスキルなのです!」
要するに厄介極まりないモンスターということだ。
ノートは改めて腹を括る。
そんな彼らが仲間を殺した敵だと確認した変異トロールは、手に持った杖を高く掲げた。
杖の先に巨大な炎が作られていく。
「ちょっと、あの魔法Aランクくらいはあるわよ!?」
変異トロールが発動した魔法の協力さに、カリーナは思わず声を上げる。
だがそんなこと気にも留めず、変異トロールは杖を振り下ろした。
「『純白たる正義』!」
――業ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!――
凄まじい炎が四人に襲い掛かる。
それをライカの『純白たる正義』が間一髪で防いだ。
「大丈夫ですか!」
「えぇ、ありがとうライカ」
ライカにお礼をいいつつも、カリーナは変異トロールの対策を必死に考えていた。
その間に、炎が止む。
間髪入れずに、変異トロールは両手で杖を握って、『純白たる正義』のバリアに襲い掛かってきた。
「ブモォォォ!!!」
ガキン! ガキン!
変異トロールの攻撃を弾く音が鳴る。
そしてカリーナはようやく作戦をまとめ上げた。
「どっちみちこの変異種を倒すのが最優先ね。ルーナ!」
「なにかしら?」
「アタシが魔法で変異トロールの動きを止めるわ。その隙にアルカナを使って、幻覚を植え込んで」
「わかったわ」
「ライカはアタシが合図したら一瞬だけバリアを解除して」
「はいです!」
「それからノート君!」
「はい!」
「ライカとルーナに攻撃がいかないよう、キチンと守りなさい!」
なんか自分だけ結構な無茶を要求されている気がする。
だが間違っても口には出さないノートであった。
それはともかくとして。
やるべきことを指示された三人は、各々の役割に徹し始めた。
「ブモォォォ!」
一度バリアから離れた変異トロールが、二発目の火炎魔法を放ってくる。
それを『純白たる正義』のバリアが防ぐ。
「耐えてください。『純白たる正義』」
その間にカリーナが魔法の詠唱をする。
ノートとルーナはいつでも自分の出番が来てもいいように、構えていた。
「よし、詠唱完了! ライカ!」
「はいです!」
カリーナの合図で、バリアが消滅する。
そこが攻撃の隙だった。
「凍りなさい! コキュートス!」
カリーナの杖から、凄まじい冷気が放出される。
それをまともに受けた変異トロールは、周囲の空間ごと氷漬けにされてしまった。
だがすぐに氷にヒビが入り始める。
変異トロールの力が強すぎるのだ。
「ルーナ!」
「わかってるわ。『怖く+蠱惑+困惑=月光』!」
ルーナの魔人体が、両手の注射器を構える。
そして氷を貫通して、中の変異トロールに針を刺した。
その直後に砕け散る氷。
中から出てきた変異トロールは、フラフラとしていた。
「幻覚で魔法の使い方を認識できなくしたわ」
「魔法が使えないなら、ただのトロールね!」
杖を振っても魔法が出てこない事に、混乱する変異トロール。
その隙にカリーナは攻撃魔法を仕掛けた。
「細切れになりなさい! スラッシュ・サイクロン!」
無数の真空刃を内包した竜巻が、変異トロールに襲い掛かる。
魔法による防御もできず、変異トロールは竜巻に飲み込まれてしまった。
「ブモォォォォォォ!?」
凄まじい雄叫びを上げながら、切り裂かれていく変異トロール。
杖を棍棒代わりに降ろうとしても、真空の刃がその腕を切断する。
そして瞬く間に、変異トロールの身体は粉々に切り裂かれてしまった。
「……流石にもう死にましたよね?」」
「これで生きてたら、それはもうゾンビよ」
ひとまず厄介者を駆除できたので安心する面々。
カリーナが探知の魔法を使って、周囲を確認する。
「うん。もう流石にいないわね」
「はふ~、やっと終わったのです」
「お疲れ様。ごめんなさいね、お爺様の無茶に付き合わせちゃって」
「いいのよルーナ。文句は後でドミニクに言っておくわ」
気が緩んで和気あいあいと会話をする三人。
それを眺めながらノートは、自分の無力さを噛み締めていた。
「(みんな、本当にすごかったな……)」
結局今回はほとんど役に立てなかったと、自分を責めるノート。
彼の心の底には、少し黒いものが渦巻いていた。
その時だった。
ノートは何か大きな存在が近づいてくる気配を感じ取った。
「えっ?」
トロールは全て倒した筈。
ノートは慌ててその気配がする方に視線を向ける。
それは、洞窟の天井だった。
三人の真上に、一体のトロールが張り付いていたのだ。
「ブモォォォ!!!」
棍棒を握りしめて、落ちてくるトロール。
「みんな!!!」
ノートが叫び、駆け出した時には既に遅く。
トロールは三人のすぐ真上にまで迫っていた。
そこから先の映像は、ノートにはスローモーションに見えた。
助けなきゃいけない。助けなきゃいけない。
何としてでもあの人達を傷つけさせてはいけない。
その為にはなにが必要なのか。
簡単だ、強い「力」だ。
あのトロールを一撃で葬れるくらいの強い「力」が必要なのだ。
助けたい。助けたい。
その為ならば……「力」に飲み込まれても構わない。
だからこの「力」で……押し潰す。
「うぉぉぉ!!!」
ノートは必死に手を伸ばす。
すると突然、落下していたトロールが吹き飛び、凄まじい力で壁に叩きつけられてしまった。
「ブモッ!?」
――怒轟ォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!――
凄まじい轟音と共に、洞窟の壁に叩きつけられたトロール。
短い断末魔を残して、その身体は粉々のミンチ肉になっていた。
何が起きたのか。全員が唖然となっている。
だがだがライカ達には見えていた。
落ちてくるトロールを殴り飛ばす、巨大な腕の存在を。
「ノ、ノート君。それって……」
ライカに言われて、ノートは自分の右横を見る。
伸ばしていた右手の隣に、ゴツゴツとした岩でできた、巨大な紫色の腕が浮かび上がっていた。
「これって、まさか……」
ノートがそれをまじまじと見ようとした瞬間、岩の腕は跡形もなく消えてしまった。
「消えちゃった」
「ノート君、今のきっと魔人体なのです!」
「俺の、魔人体」
突然のことに、ノートもいまいち理解が追いついていない。
その間にカリーナは、押し潰されたトロールの死骸を見ていた。
「こいつも変異種だったみたいね。それにしてもスゴイわ。まるで何百キロもの力で押しつぶされたみたい」
改めて洞窟の壁を見ると、潰されたトロールの死骸の周りは、丸く大きなクレーターのようになっていた。
岩山の一部を潰す程の圧倒的な力の証明である。
そのパワーを目の当たりにして、ノートは少し動揺していた。
「これを……俺が?」
出て来たのは圧倒的な「力」。
その「力」を前に、ノートは内心恐れを抱いていた。
そんなノートの手を取ってきたのは、ルーナであった。
「ありがとうね。助けてくれて」
「そんな。俺はただ、ガムシャラだっただけで」
「でも助けてくれた。お礼くらい素直に受け取りなさいな」
「そんなもんなのかな?」
「そうですよ。ノート君はもう少し素直になるべきだと思います」
ライカにも言われてしまい、少し自分について考えなおすノート。
だがやはり、自分の中に眠る得体の知れない「何か」が怖くて仕方なかった。
「さぁみんな。他にもトロールが残ってないか見に行くわよ!」
ひとまず思考は置いて、カリーナの後について行ったノート達。
洞窟内にはもうトロールは残っておらず、他のモンスターも特に巣は作っていない。
シドに頼まれていた鉱石を幾ばくか採掘して、ノート達は洞窟を後にするのだった。
トロールは四人の侵入者を視認すると、すぐさま棍棒で攻撃にかかった。
「ブモォォォ!」
「ライカ!」
「はいです! 守って『純白たる正義』!」
カリーナに振り下ろされるトロールの巨大な棍棒。
それを『純白たる正義』のバリアが遮る。
だが敵は一体ではない。
バリアの有効範囲をすり抜けたトロールが、ルーナとノートを狙った。
「こんのッ!」
スキルを発動して、棍棒を弾き返すノート。
その横では、ルーナの魔人体がトロールに攻撃を仕掛けていた。
「混乱させなさい! 『怖く+蠱惑+困惑=月光』!」
球体関節人形の像が、迫り来るトロールの首筋に注射器を刺していく。
強力な幻覚を込められた注射をされたトロールは、攻撃対象を変更し、自分の仲間へと襲い掛かった。
「仲間が敵に見えるようにしたわ。ノート君はそのままトロールをひきつけて」
「わかった!」
トロールが自分の方へ向かうように振る舞うノート。
棍棒による攻撃は全てスキルで弾き返す。
そうして出来上がった隙に、ルーナの『怖く+蠱惑+困惑=月光』が幻覚を注射していく。
それを繰り返していく内に、数体のトロールが仲間へと攻撃を始めた。
「こっちへの攻撃は薄くなったけど、この後どうするんだ?」
「決まっているわ。カリーナさん、準備はいい?」
「えぇ、いつでもいけるわ!」
気づけばカリーナは魔法の発動準備が完了しており、何時でも撃てる状態になっていた。
「三人共、後ろに下がって!」
各自スキルを解除させて、大慌てで後退する。
カリーナの杖の先には、強大な電気エネルギーが集まっていた。
「三人が頑張ってくれたおかげで、一網打尽しやすくなってる」
同士討ちに意識を取られているトロール達に、狙いを定める。
「轟きなさい! アーク・ボルテックス!」
――轟ォォォォォォォォォ!!!――
凄まじい力を秘めた雷が、眩い光と共にトロール達に襲い掛かる。
感電したトロールは、凄まじい雄たけびを上げながら、その場で絶命していった。
「カリーナさんって、結構豪快な性格なんですね」
「ノート君、それ褒めてるの?」
「尊敬はしてます」
「ならよし」
そんな何気ない会話を遮るように、洞窟の奥から更なるトロールが姿を現す。
「「「ブモォォォォォォォォォォォォォ!!!」」」
仲間を殺された恨みか、トロール達は凄まじい咆哮を上げながら襲い掛かってきた。
「ライカとノート君はさっきみたいに防御に回って。ルーナは隙を見て攻撃。その間にアタシが魔法の準備をするわ!」
「了解!」
「はいです!」
「わかったわ」
再びバリアを展開するライカ。
スキルを使って、攻撃を弾くノート。
そして隙を見ては幻覚をトロールに植えこむルーナ。
三人が奮闘している間に、カリーナは次の殲滅魔法を準備する。
「こんのッ! 数が多い!」
「確かにこれは、予想以上の数ね」
ルーナを守るように、トロールの攻撃を弾き続けるノート。
二人は想像以上のトロールの数に、少々圧倒されていた。
だが決して苦戦している訳ではない。
ノートは順調に敵の攻撃を防ぎ、ルーナは確実に幻覚を植え付けていく。
その近くでは、ライカがバリアを展開してカリーナを守っていた。
数分の攻防が続いた後、再びカリーナの準備が整う。
「みんな、二発目いくわよ!」
再び後退する三人。
それを確認したカリーナは、溜め込んでいた魔法を解放する。
「アーク・ボルテックス!」
再び解き放たれた超高位の雷魔法。
ルーナの幻覚によって混乱していたトロール達は、瞬く間に雷に飲み込まれた。
「ブモォ!?」
短い断末魔を上げて、感電死していくトロール。
それを見届けたノートは、高ランクモンスターを容易く葬るカリーナの実力に感服していた。
「スゴイな、カリーナさん」
「ありがとノート君。それにしても、数が多いわね」
あと何体くらい残っているのだろうか。
全員がそんなことを考えていると、カリーナは洞窟の奥から強大な魔力反応を感じ取った。
「ッ!? ライカ、バリアを張って!」
「はっ、はい!」
カリーナの指示で大急ぎでバリアを展開するライカ。
次の瞬間、洞窟の奥から凄まじい熱量を持った炎が襲い掛かってきた。
「うわっ!?」
「これは、魔法攻撃?」
驚くノートと、比較的冷静なルーナ。
予想外の魔法攻撃には、ライカも驚きの表情を隠せていない。
「もしかして、ま、魔法使いさんがいるですか!?」
「まさか、そんな筈は無いわ」
ライカの言葉を否定するルーナ。
だがその一方で、カリーナだけは冷静に状況を分析していた。
「これは……最悪かもしれないわね」
「やっぱり魔法使いですか?」
「半分正解よ」
「半分?」
何故半分なのか、ノートがその理由を聞こうとした瞬間。
ドスンドスンと、洞窟の奥から大きな足音が聞こえてきた。
「まだトロールが残ってた!」
「そうね。でもただのトロールと思わない方がいいわ」
杖を握るカリーナの手に力が入る。
その警戒心はノート達にも伝わり、三人に気を引き締めさせた。
ドスン、ドスン。
足音は大きくなり、その主が姿を現す。
「ブモォォォォォォ!!!」
それは今までのトロールとは少し違った姿をしたトロールであった。
着ている服は袖の長いものであり、棍棒の代わりに巨大な杖を持っている。
まるで魔法使いのような出で立ちのトロールであった。
「なんだコイツ、なんか違う……」
姿の違うトロールにノートは些か動揺する。
だがそれ以上に、他の三人に走っていた緊張が凄まじかった。
「カ、カリーナさん。これってもしかしなくても」
「えぇ、変異種のトロールね」
「変異種?」
変異種が分からなかったノートに、ルーナが説明をする。
「簡単に言えば、突然変異してスキルとかを身につけたモンスターよ」
「てことは、さっきの炎も」
「きっと変異で身につけたスキルなのです!」
要するに厄介極まりないモンスターということだ。
ノートは改めて腹を括る。
そんな彼らが仲間を殺した敵だと確認した変異トロールは、手に持った杖を高く掲げた。
杖の先に巨大な炎が作られていく。
「ちょっと、あの魔法Aランクくらいはあるわよ!?」
変異トロールが発動した魔法の協力さに、カリーナは思わず声を上げる。
だがそんなこと気にも留めず、変異トロールは杖を振り下ろした。
「『純白たる正義』!」
――業ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!――
凄まじい炎が四人に襲い掛かる。
それをライカの『純白たる正義』が間一髪で防いだ。
「大丈夫ですか!」
「えぇ、ありがとうライカ」
ライカにお礼をいいつつも、カリーナは変異トロールの対策を必死に考えていた。
その間に、炎が止む。
間髪入れずに、変異トロールは両手で杖を握って、『純白たる正義』のバリアに襲い掛かってきた。
「ブモォォォ!!!」
ガキン! ガキン!
変異トロールの攻撃を弾く音が鳴る。
そしてカリーナはようやく作戦をまとめ上げた。
「どっちみちこの変異種を倒すのが最優先ね。ルーナ!」
「なにかしら?」
「アタシが魔法で変異トロールの動きを止めるわ。その隙にアルカナを使って、幻覚を植え込んで」
「わかったわ」
「ライカはアタシが合図したら一瞬だけバリアを解除して」
「はいです!」
「それからノート君!」
「はい!」
「ライカとルーナに攻撃がいかないよう、キチンと守りなさい!」
なんか自分だけ結構な無茶を要求されている気がする。
だが間違っても口には出さないノートであった。
それはともかくとして。
やるべきことを指示された三人は、各々の役割に徹し始めた。
「ブモォォォ!」
一度バリアから離れた変異トロールが、二発目の火炎魔法を放ってくる。
それを『純白たる正義』のバリアが防ぐ。
「耐えてください。『純白たる正義』」
その間にカリーナが魔法の詠唱をする。
ノートとルーナはいつでも自分の出番が来てもいいように、構えていた。
「よし、詠唱完了! ライカ!」
「はいです!」
カリーナの合図で、バリアが消滅する。
そこが攻撃の隙だった。
「凍りなさい! コキュートス!」
カリーナの杖から、凄まじい冷気が放出される。
それをまともに受けた変異トロールは、周囲の空間ごと氷漬けにされてしまった。
だがすぐに氷にヒビが入り始める。
変異トロールの力が強すぎるのだ。
「ルーナ!」
「わかってるわ。『怖く+蠱惑+困惑=月光』!」
ルーナの魔人体が、両手の注射器を構える。
そして氷を貫通して、中の変異トロールに針を刺した。
その直後に砕け散る氷。
中から出てきた変異トロールは、フラフラとしていた。
「幻覚で魔法の使い方を認識できなくしたわ」
「魔法が使えないなら、ただのトロールね!」
杖を振っても魔法が出てこない事に、混乱する変異トロール。
その隙にカリーナは攻撃魔法を仕掛けた。
「細切れになりなさい! スラッシュ・サイクロン!」
無数の真空刃を内包した竜巻が、変異トロールに襲い掛かる。
魔法による防御もできず、変異トロールは竜巻に飲み込まれてしまった。
「ブモォォォォォォ!?」
凄まじい雄叫びを上げながら、切り裂かれていく変異トロール。
杖を棍棒代わりに降ろうとしても、真空の刃がその腕を切断する。
そして瞬く間に、変異トロールの身体は粉々に切り裂かれてしまった。
「……流石にもう死にましたよね?」」
「これで生きてたら、それはもうゾンビよ」
ひとまず厄介者を駆除できたので安心する面々。
カリーナが探知の魔法を使って、周囲を確認する。
「うん。もう流石にいないわね」
「はふ~、やっと終わったのです」
「お疲れ様。ごめんなさいね、お爺様の無茶に付き合わせちゃって」
「いいのよルーナ。文句は後でドミニクに言っておくわ」
気が緩んで和気あいあいと会話をする三人。
それを眺めながらノートは、自分の無力さを噛み締めていた。
「(みんな、本当にすごかったな……)」
結局今回はほとんど役に立てなかったと、自分を責めるノート。
彼の心の底には、少し黒いものが渦巻いていた。
その時だった。
ノートは何か大きな存在が近づいてくる気配を感じ取った。
「えっ?」
トロールは全て倒した筈。
ノートは慌ててその気配がする方に視線を向ける。
それは、洞窟の天井だった。
三人の真上に、一体のトロールが張り付いていたのだ。
「ブモォォォ!!!」
棍棒を握りしめて、落ちてくるトロール。
「みんな!!!」
ノートが叫び、駆け出した時には既に遅く。
トロールは三人のすぐ真上にまで迫っていた。
そこから先の映像は、ノートにはスローモーションに見えた。
助けなきゃいけない。助けなきゃいけない。
何としてでもあの人達を傷つけさせてはいけない。
その為にはなにが必要なのか。
簡単だ、強い「力」だ。
あのトロールを一撃で葬れるくらいの強い「力」が必要なのだ。
助けたい。助けたい。
その為ならば……「力」に飲み込まれても構わない。
だからこの「力」で……押し潰す。
「うぉぉぉ!!!」
ノートは必死に手を伸ばす。
すると突然、落下していたトロールが吹き飛び、凄まじい力で壁に叩きつけられてしまった。
「ブモッ!?」
――怒轟ォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!――
凄まじい轟音と共に、洞窟の壁に叩きつけられたトロール。
短い断末魔を残して、その身体は粉々のミンチ肉になっていた。
何が起きたのか。全員が唖然となっている。
だがだがライカ達には見えていた。
落ちてくるトロールを殴り飛ばす、巨大な腕の存在を。
「ノ、ノート君。それって……」
ライカに言われて、ノートは自分の右横を見る。
伸ばしていた右手の隣に、ゴツゴツとした岩でできた、巨大な紫色の腕が浮かび上がっていた。
「これって、まさか……」
ノートがそれをまじまじと見ようとした瞬間、岩の腕は跡形もなく消えてしまった。
「消えちゃった」
「ノート君、今のきっと魔人体なのです!」
「俺の、魔人体」
突然のことに、ノートもいまいち理解が追いついていない。
その間にカリーナは、押し潰されたトロールの死骸を見ていた。
「こいつも変異種だったみたいね。それにしてもスゴイわ。まるで何百キロもの力で押しつぶされたみたい」
改めて洞窟の壁を見ると、潰されたトロールの死骸の周りは、丸く大きなクレーターのようになっていた。
岩山の一部を潰す程の圧倒的な力の証明である。
そのパワーを目の当たりにして、ノートは少し動揺していた。
「これを……俺が?」
出て来たのは圧倒的な「力」。
その「力」を前に、ノートは内心恐れを抱いていた。
そんなノートの手を取ってきたのは、ルーナであった。
「ありがとうね。助けてくれて」
「そんな。俺はただ、ガムシャラだっただけで」
「でも助けてくれた。お礼くらい素直に受け取りなさいな」
「そんなもんなのかな?」
「そうですよ。ノート君はもう少し素直になるべきだと思います」
ライカにも言われてしまい、少し自分について考えなおすノート。
だがやはり、自分の中に眠る得体の知れない「何か」が怖くて仕方なかった。
「さぁみんな。他にもトロールが残ってないか見に行くわよ!」
ひとまず思考は置いて、カリーナの後について行ったノート達。
洞窟内にはもうトロールは残っておらず、他のモンスターも特に巣は作っていない。
シドに頼まれていた鉱石を幾ばくか採掘して、ノート達は洞窟を後にするのだった。
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だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
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不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
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14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
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地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
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出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
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※※※
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※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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