LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴

文字の大きさ
6 / 9
第一巻

第5話 ヒマを持てあます魔王

しおりを挟む
 城内での自由な行動を禁じられているのは、女騎士・ロインだけではない。
 つい最近来たばかりの魔王・晶も同様である。

『警備用の魔獣のいるフロアに近づいてはいけませんよ』

 と、モギナスに口酸っぱくなるほど注意されているのだ。
 どれほど危険なのかと聞いてみると、一個中隊が数分で生ゴミになるぐらい危険だと言われた。つまり、二百人を解体した焼き肉素材があっという間に出来上がるという寸法だ。

 不死身の魔王の体をしても、さすがにバラバラに食われてしまっては手の施しようがない。

 というわけで、居室のあるフロアの上一階分と下一階分以外への移動を禁じられている、魔王・晶。
 いくら王城が広いとはいえ、城一階層分の散策は半日であっという間に終わってしまった。
 なにを子供でもあるまいに……と早朝、こっそり下の下の階に遊びに行った時など、三つ首の犬に追い回されて、命からがら逃げ帰ってきたこともあった。

 ――というわけで、現在魔王は絶賛ヒマ中である。

                  ☆

「……というわけで、モギナスよう」
「どういう訳ですか陛下」
「ヒマだから画材を買いに行きたいんだけど」
「アキラ、魔王のくせに絵なんか描くのー? どーせ魔族の絵なんて悪趣味に決まってる。フーンだ」

 みんなのリビングと化した食堂で、城下への外出をモギナスに乞う晶。
 ヒマを持てあまして仕方なくお茶の間に常駐しているロイン。
 彼女に至っては常時ストレスを生産しており、お菓子を食っては悪態を吐く機械と化している。

「にゃにおー! あとで自分の言ったことを後悔させてやっからな!」
「フン。目が腐るから見ないしー」
「はーいはーい、二人ともケンカしなーい。じゃあ画材店までお出かけしますか」
「「やったー!!」」
「普段なら店主に品物を持って来させるのですがねえ……」

 晶様の世界では、と言いかけて、モギナスは台詞を飲み込んだ。


 ☆ ☆ ☆


「ん~……。何と言うか……。トラディショナルな画材が多いな」

 カビ臭いような溶剤臭いような違うような、あまり嬉しくない空気のたちこめる店内を物色する晶。ロインなど、店内に一歩足を踏み入れた瞬間、気分が悪くなって出て行ってしまった。

 我流で絵の描き方を覚えた晶にとって、店内に並んだ油絵の具やパステルなどの高級画材は触ったこともなく、絵を描く前に扱い方を覚える必要があった。
 もっと手軽に扱えるようなものはないか……と、さらに物色を続けた。

「スケッチブックとかないのかな……。あの、すいません。紙を綴じたものはありませんか?」
「綴じたもの……ですか? いやあ、紙はパネルに貼るか、画板に留めて使うものしかございません、魔王様」

 中年の店主が、ややビビリがちに答えた。

「画板か……」

 画板なんて、小学校で使ったっきり。
 屋外などで絵を描くときに使う、ヒモとクリップのついた板。あれが画板。
 美大や専門学校でデッサンをする時に使うやつはもっとデカくて、イーゼルという木のラックみたいのに立て掛けて使う。
 オシャレなカフェの看板を、立て掛けるのにも使われてるのを、たまに見かける。美大で使うようなのより、ずっと小さいが。

「じゃあこれください」

 晶が店主に差し出したのは、画板と紙の束、絵筆とパレット、そして水彩絵の具に色鉛筆だった。
 100均でもあれば、数百円で済むところだが、この世界ではきっと高価なものだろう。
 しかし今の自分は魔王。この程度の贅沢で文句を言われることもない……はず。


 代金は城にツケておく、と主人に言われたので、結局代金はわからず終い。品物だけ持って外に出ると、往来でモギナスとロインが口論していた。

「ちょっとちょっと、今度はモギナスとロインがケンカか~? 何が原因なんだよ」

「どうもこうもないわよ!」
「魔王様聞いてくださいよ~」

「あ~~~、同時に言われてもわかんないから。どっちかにしろ」

「このケチ男がお金くれないのよ! 荷物とか持ってきてないんだから色々買わないといけないのに!」
「城にちゃんとあると言ってるのに、わざわざ買おうとするから止めてるんですっ。魔王様が戦争で節操なく金遣い過ぎて国庫が寒いのに、居候にムダ金を遣わせるほど余裕ないんですよッ」
「いやよ! だいたい魔族のコスメなんて怖くて使えないっての。人間のお店で買いたいってさっきっから――」

(あー……。ロインって、やっぱ女の人なんだ……)

「うるさいからそんぐらい買ってやれよ。だいたい金がないなら俺の画材だって無駄遣いだろうが」
「それとこれとは」
「ほれ見なさい!」
「国に金がないからイヤなんじゃなくて、無駄遣いがイヤなだけだろ、モギナスは」

 ぐぬぬ、と悔しがるモギナスの財布から、金貨を毟り取るロイン。

「んでさ、もう騎士ごっこはいいのかよ、ロイン。すっかり口調まで女子だな」
「なッ……べ、べつになりたくて騎士になったんじゃないし。家出たかっただけだし。多分もうクビになってるかもだし」
「……ごめん」

 ぷい、と横を向くロイン。

「……しょうがないわよ。事故、なんでしょ」
「まあ……」
「モギナスも、あんまイジワルすんじゃないよ。彼女被害者なんだぞ」
「それ言ったら私も被害者ですううううッ!!」

 ローブの袖口を噛みながら、キーっとわめくモギナス。

「あーも~~~~、さっさと買い物済ませて帰るぞ!」

(俺だって頭痛えよ、ったく)


 この場にいる全員が、被害者だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

処理中です...